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2キャラ目、イベント発生したけど

馬を殴ったら爆発した。


かっこよく助けたはずなのに逃げられた。


せっかく助けた相手が女性だったのに、逃げられた。


そこは「ステキ!抱いて!!」ってなるべきところではなかったか?


ものすごいマジの悲鳴を上げて一心不乱に駆け出した女性。


その悲鳴は、彼女の前を逃げていた人間たちに伝染した。


彼らは一瞬こちらを向くと、ぎょっとして悲鳴を上げ、さらに加速した。


魚馬たちは、蜘蛛の子散らしたように逃げ出して、ぶつかり合いながら我先にと小川に飛び込んでいく。


そして、馬と戦いながら逃げていた護衛の人間たち。


震えながらも、こちらに向かって武器を構えた。


「なっ、なな何なんだッ!?テメェッ!!!」


若いあんちゃんが必死の形相で叫んだ。


「よせッ!!逃げるぞッ!!!」


渋めのおっさんが、あんちゃんの肩を掴んで引き戻し、背中をバシンと叩いた。


「散れッ!!!!!」


おっさんとあんちゃん含めて5人、武器を持っていた人間たちがバラバラに駆け出した。


おっさんだけが一瞬立ち止まって一言つぶやいて、こちらを警戒してから去っていった。





こうして、病んでる通り魔殺人鬼みたいな格好のおれだけが取り残されました。


(…………マスター、えと、大丈夫、かっこよかった、よ?)


邪剣がフォローしてくれたけど、別に落ち込んだりしてないよ?

ぜんぜん平気だったし。

別に見返りとか求めてたわけじゃないし、下心とか皆無だったからね。


(あっ、マスター)


どうした邪剣?

別におれは元気だけど?

元気だけど、なにか言いたいことがあるなら言ってごらん?


(我に付いた返り血、ちゃんと洗っといてね?)


……………はい。


ふぅ、せっかく異世界の女性を助けたのに、得たものは返り血と、おっさんのつぶやきだけだったなぁ。


(あぁ、一瞬立ち止まったときか)


「助かった」とは言ってたけど、いちおう言っといた、って感じだね。

あの状況で、おれが助けに入った可能性に気が付いたわけだ。

おれが割って入って馬を殴ったのは一瞬の出来事だし、見えてなかったと思うんだよな。

馬が破裂、女の人の絶叫、いつの間にか血塗れで黒ずくめの男が剣を抜いて立っていた。

こんな感じに見えたんじゃないか?

普通だったら、ただ逃げるだけか、若いあんちゃんみたいに錯乱してつっかかってくるだけだろう。

有能なおっさんだったのかね。


(フン!あの男、たしかに1人だけ震えてはいなかったが、我のマスターには到底敵わないであろう?あんなおっさんを褒めるくらいなら、我のことを褒めてくれい!)


はいはい、邪剣は有能。

まぁ、あのおっさんも力量差にはすぐ思い至ってたみたいだな。


(棒っ!マスター棒読み!!………まぁ、我はそれでも嬉しいのだがなっ!)


このだらしないデレ邪剣。

あの外見を思い出しながら聞くと、ごちそうさまです!



さて、血を流そうか。

魚馬たちが飛び込んでいった小川に近付いていく。

やっぱり、幅は馬2頭か3頭分くらいの小さな川なのに、覗き込むと奥行きがあるとかいう変な川だった。

深すぎて、実はおれでも底が見えないという危険な川だ。

まぁ、たぶん大丈夫だろう。

魚馬もだいぶ必死で逃げてたし、もう出てこないだろう。

川べりに座り込んで、まずは邪剣を洗うことにする。

洗うっていうか、川につければ流れでキレイになるかな?

邪剣の剣身をスッと川に入れる。


(ひゃうっ!?だめっ、急に入れたらっ!!!)


出たああああぁぁぁーーッ!!!!!

邪剣の誤作動イベントおおおぉぉーーーーッ!!!!

期せずしてッ!!!!

図らずも訪れた好機ッ!!!

外見が設定された今ならば至高ッ!!!

邪剣を洗うッ!!!?

そうだったのかッ!!!

これはお風呂シーンだああぁぁぁーーッ!!!!

イベントCG早よっ!!!!

求むッ、神絵師ッ!!!


(もうっ!マスターっ!?もっと丁寧にしてくれい!!!)


おれの脳内補完エンジンがスパークしてるぜッ!!!

邪剣ッ!!

次のセリフは「我のカラダ、もっとちゃんと洗って?」だぞッ!!!?

高まってきたな!!

邪剣擬人化プロセス再起動ッ!!!

外見設定を仮想視覚に接続ッ!!!

妄想降臨ッ!!!!

じゃけーーーんッ!!!

早くッ!!!!

早く次のセリフをォォォォーーーッ!!!!


(…………マスター、もう返り血は落ちたようだ)


夢が広がるッ!!

希望が溢れるッ!!!

おれの情熱がこの身を焦がすッ!!!

この妄想は止められねぇッ!!!!

邪剣ッ!!

おれの妄想を再現してくれッ!!!

次のセリフをォォォォーーーッ!!!!



水中に引きずり込まれた。



邪剣を持っていた右腕に喰いつかれた。



そのまま水中をかなりの速度で引っ張られている。



上下がわからない。



敵の正体がわからない。



これは速すぎる。



うまく身動きが取れない。



思考を立て直せ!!!



まるで海の中。

首を巡らせて水面を探す。

ぼんやりと明るい方向を見つけた。

喰いつかれている右腕、邪剣の感覚を意識する。


(マスター!!我は大丈夫だ!!!使ってくれい!!!)


よし!!

邪剣の肉を水面に向けて思いっきり伸ばす!!


(外に出たぞ!!!)


剣身を追加!!!

大量に追加した剣身を地面に突き刺して固定する!!

引きずられながらも水中で急ブレーキがかかる!

邪剣の肉を急速で縮める!

敵に喰いつかれたままで浮上!!

一気に水面が近付いた!!

いける!

左手で川べりを掴んでグッと力を込める!

脱出成功!!

敵ごと勢いよく地面に倒れ込んだ!

バカなの!?

なんでおれは自分を擬似餌にして釣りしてるの!!?

油断しすぎだろ!!!


すぐに立ち上がって距離を取る。

敵も同時に立ち上がった。

馬だ。

ただし、あの魚馬とは一目で別物だとわかる。

鋭利で複雑な牙。

無機質さを感じるほど冷酷な眼。

黒く突き出た背ビレ。

特徴的な尾ビレの形で、正体がわかる。

こいつは、鮫だ。

魚馬よりもふた回り以上でかい、鮫の馬。

その巨体に似合わない静かな足運びで、こちらの周囲を回り始める。

さっきまで草原にいたのに、今は林の中だった。

小川の流れの先に、池がある。

その池から、魚馬たちが続々と飛び出してきた。

周りを遠巻きに囲まれた。

どうやら、魚馬たちは襲いかかってくるつもりはないらしい。

鮫馬は、おれと一対一で戦うつもりのようだ。


あー、なるほど。

ひょっとして、さっきおれが魚馬を殺したからか?

そうか、こいつら馬なんだ。

感性が魚類よりも動物っぽいのか?

実はけっこう群れを大事にしてる、ってことか?

だからこうして、群れのリーダーが仕返しに来たんだ。

あっ、ちょっと待てよ。

あの襲われてた人間たち、ひょっとしてその習性知ってたんじゃないか?

そういや、護衛のやつらは魚馬を牽制してはいたけど、あまり攻撃してなかった気がするぞ?

あのおっさん、逃げる決断するのも早かったよな。


なんだよ、やっぱりおれは残念なのか?

いや、今回のはマジで残念だろ。

邪剣洗ってるときも超油断してたし。

くそ。

なんか、この鮫馬とは戦いたくないな。

おれのミスでこいつと命のやり取りするのかよ?


(マスター!来るぞ!!)


いつの間にか距離が縮んでいた。

鮫馬の噛みつきを避ける。

避けた先には尾ビレが迫っていた。

難なくかわす。

鮫馬はそのまま周囲を旋回する。

こちらから視線を切らさず、ゆっくりと、いや、かなり素早いのだが、ゆっくりとしているように見えるのだ。

速度がつかみにくい。

距離感がわかりづらい。

突進の出だしが読めない。

気が付くと接近されている。

何度目かの攻撃を避けたとき、鮫馬はスルッと川の中に入っていった。


水面に出ている背ビレが、行ったり来たりしている。

そして、ふと水面に沈む。

かと思うと、また背ビレが現れ、ウロウロし始める。

おれを狙っているのか。

なんとなく、何をしてくるのか想像がついた。

背ビレが沈む。

出てこない。

逃げた方がいいか?

試しに数歩、歩いてみる。

すぐに背ビレが出現した。

地面の振動、か?

再び背ビレが沈んだ。

おれは動かずに待ち構える。

長い。

どこから来る?

もう油断はしない。


鮫が飛び出した!!!

川の真上!!!?

飛びかかってくるんじゃないのか!!?

水ッ!!!!

高速で吐き出された水の砲弾を回避するッ!!

地面が砕けた!!!

目の前に尾ビレ!!!

咄嗟にしゃがむ!!

悪手ッ!!!!

後ろ脚の蹴り上げがかわせない!!!

ふっ飛ばされた!!!

鮫馬が瞬時に振り返りおれがふっ飛んだ先を確認する!!

突進の追撃が来るはずだッ!!!

だがッ!!!


その方向に、おれはいない。

蹴り上げの衝撃で真上に飛んでいた。

振り返った鮫馬は、地面に突き刺さった邪剣と、そこから伸びる邪剣の肉に気付く。

一瞬遅れて、それを理解する。

頭上を見上げる。

遅いッ!!!

地面に突き刺しておいた邪剣の肉を収縮する!!

鮫馬に向けて急速で落下ッ!!!

鮫馬の反応は遅れている!!

これで決着だッ!!!!




鮫馬の巨体が、もがき苦しみ、暴れまわる。


優雅ささえ感じられたあの静かな足運びは、もはや影も形も無くなった。


鮫馬は、一際高い苦悶の声を上げた。


そして、観念したかのように、その動きを止めていく。


おれの、勝ちだ。


こうするしか、なかった。


戦いたくなかった。


でも、おれは既に魚馬を殺していた。


この戦いを、避けるわけにはいかなかった。


おれは………。


鮫馬の背ビレにしがみついて、鮫肌の胴体を撫でる。


鮫馬が、小さく鳴いた。


おれは……………。





おれは今、鮫馬にまたがっています!!


もちろん生きてるよ?


ちゃんとお互いに生きてるよ?


鮫馬に急速で落下したおれは、そのまま鮫馬にまたがった。


鮫馬は暴れまわっておれを引きずり落とそうとしたが、おれも必死でしがみついてやった。


そのまま何時間も何時間も、またがったままのおれと、振り落とそうとする鮫馬の勝負は続いた。


そして明朝、鮫馬がようやく諦めたのだ。


周囲で見ていたはずの魚馬たちは、もうだらっとした感じで座り込んでいる。


なんかごめんね?



まぁ、鮫馬も渋々って感じだけど落ち着いたみたいだし、これで決着でいいみたいだ。

やっぱり馬寄りな生き物なのかね?

鮫馬の首筋をポンポン叩く。

ギロッとこっちを睨む鮫馬。

ニヤリと笑ってやると、鮫馬はブルルと首を振った。

掴んでいる背ビレを、方向を指示するように動かしてみる。

鮫馬は、再びギロッとこちらを睨んだあと、その通りに動き始めた。

しばらく色々試して、歩かせたり走らせたりしてみる。

意外と素直で、こちらの意図を正確に読み取ってくれた。

そう思ってしまった時点で、また油断していたようです。


小川の近くを歩かせていると、そのまま小川に向かおうとする。

背ビレを引いて方向転換させようとしたら、鮫馬がギロッと睨んできた。

そして、ニヤリと口の端を持ち上げたように見えた。

直感。

ちょっと待て。

まさかコイツ!!

おれを乗せたまま小川にスルッと滑り込んだ鮫馬。

水中を猛スピードで泳ぎ始めた!

このやろう!!

『邪剣使い』じゃなかったら溺死だぞ!?

身体をよじってグルグル回る!!

加速して水上に飛び上がる!!

振り落としバトルの第2ラウンドが勃発しました!




日が暮れた。

程良い疲労感の中で、沈みゆく夕陽を眺める。

返り血はきれいさっぱり洗い落とされ、装備も日光を充分に浴びて乾ききっている。

一日中、鮫馬にしがみついて水中を泳いでいた。

振り落としバトルはいつの間にか忘れられていて、鮫馬は水中でも背ビレを引かせてくれた。

水上に飛び上がって何回転できるか限界に挑戦してみたり、水中をグルグルと高速で泳いで渦巻きを発生させてみたりして、遊びまくった。

遊び疲れたおれたちは、おれも邪剣も鮫馬も、仲良く砂浜に寝そべっている。


白い砂浜。


透き通った海。


遮るものなく広がる空。


風に流れる雲。


そしておれたち。


すべてが夕焼けに染まっていた。


美しい、一日の終わり。


(たまには、こういうのも悪くないよね、マスター?)


そうだな、邪剣。


隣に寝そべる鮫馬が、ブルゥ、と鳴いた。


そうだ、たまには悪くない。


反省はしない。


後悔はしていない。





ここは、どこですか?

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