2キャラ目、そろそろ進もう
現在地は、邪剣の神域。
目の前には、邪剣しーちゃん。
両手を腰に当てて、バーンと立っているドヤ顔の邪剣。
邪剣が女の子だよッ!
ちゃんと、本当に女の子ですッ!!
おれの頬を、ひとすじの涙が伝う。
会話選択肢が無いまま、いつの間にかフラグが立っていたらしく、邪剣ルートに突入していた。
しかし、邪剣の外見はただの剣だった。
詳しい内容については省略するが、そのままでは種々様々な問題、不都合があったのだ。
だから、おれは邪剣の外見を設定した。
変態の地、日本で鍛え抜かれた心眼による脳内補完が、おれの心を慰めてくれる。
そうなるはずだった。
ただの慰め、それだけのはずだった。
異世界、最高です!!
「さて、それではもう身体に戻ってくれ、マスター」
「なんだとう!!?もう身体に戻れだと!?そんなっ!!」
「だっ、だって今、マスターがここにいるから、身体の方はかなり無防備な状態だぞ?」
「しーちゃん!!そういう問題ではないのだッ!わかるだろう!?妄想が現実になるというこの奇跡ッ!!!愚者たちの飽くなき渇望ッ!!皆が願ってやまなかっ…」
「マスターすまん!」
うおおおぉぉッ!!!?
地面とこんにちは!
あ、ありのまま話させてください!
邪剣の神域で邪剣しーちゃんの半デコを堪能していたら、いつの間にか地面にぶっ倒れていた!
とりあえず立ち上がる。
『邪剣使い』の身体に戻されたらしい。
あぁ、そうか、おれの魂が邪剣の神域に行ってたから、この身体は抜け殻みたいになってぶっ倒れてたんだな?
っていうか、しーちゃん!!
おれは話の途中だったんだぞ!?
もっとしーちゃんの外見を眺め回したかったんだぞ!!?
(くっふっふっ、なにか問題でもあったのか、マスター?)
いやだから、話の途中でッ!!!
(話の途中ゥ〜?話の途中だとォ〜〜ッ!?)
ハッ!?
じゃ、邪剣ッ!!
コイツまさかッ!!?
(マスター、アナタともあろう方がッ!よもや忘れたわけではあるまい!?)
しーちゃん、恐ろしい子!!!
(我はアナタに散々、話の途中で鞘に戻されたのだぞ!!くっふっふーっ!!どうだマスター!とうとうやり返してやったぞ!!これに懲りたら、我をちゃんと大切にしてね!)
可愛いから許すッ!!!
そのタイミングでデレを交えてくるとはな!
あぁ、そうだ進まないと。
立ち止まってたらダメだな。
話の続きは進みながらしよう。
邪剣め、意外としっかり者じゃないか。
たしかに、今はバルゴンディア王国を目指す方が先決だからな。
邪剣の判断は正しい。
正しいけど正解じゃないんだよッ!!!
もっとじっくりと眺め回したかったのにッ!!
まぁ、しょうがない、また次の機会を楽しみにしておこう。
もともとただの妄想だったことを思えば、充分な戦果だった。
それにしても、進みながらまた邪剣に色々と確認しないといけないな。
名前のこととか、神性のこととか、もうちょっと詳しく教えてもらわないと。
………夢じゃなかったんだよね?
あのしーちゃんは夢じゃなかったんだよね?
残念なことが多すぎて、すっかり疑心暗鬼です。
邪剣と話しながら、走り続ける。
日が暮れて、夜になる。
日が昇り、朝が来る。
昼夜の別なく突き進む。
水精の土地というだけあって、やたらと小川が多かった。
木々のまばらな林、なだらかな平原、小高い丘。
その至るところに川が流れている。
ぱっと見ると自然な光景なのだが、越えても越えてもまた川が流れているのは、なんだか不気味な不自然さを感じた。
特に、丘を登っていく川の流れを目にしたときは、まず自分の目を疑った。
それを目にしてようやく気が付いたのだが、よく見れば地面の高低差に関係無く流れている川も多かった。
異世界だ。
ファンタジーすぎる。
そんな不思議川だらけの土地でも、この辺りはまだまだ序の口らしい。
現在地は、大陸中央の平野部と水精の土地との境界に近いんだそうだ。
もっと奥まで進むと、水精がさらに多くなり、池や湖が増えてくるんだとか。
そういえば、川の流れる方向はほぼ全て同じ向きだった。
おれたちの進行方向に対して、右から左に流れていく。
あの邪剣の地図の六角形、左中央の角に向かって水が集まっているんだろう。
今のところ水精の土地の奥深くには用は無い。
っていうか、できることなら行きたくない。
だって、これで序の口なんでしょ?
川の中から、馬が飛び出して襲いかかってくる。
旅立ってから、既に何度か受けている襲撃。
馬と魚を7対3くらいの割合で合成したような、魚馬って感じの謎の生き物が、ピョンピョン飛んできて暴れ回る。
なんとなく流線型の顔立ちで、ウナギっぽいヌルッとした印象を受ける肌、たてがみが背ビレっぽい。
4本脚の後ろには尾ビレがくっついていて、その中から1本の長い棘が突き出している。
おそらく毒針だろう。
こいつアレか、ケルピーだっけ、アレみたい。
たしか地球でも神話とか伝承とかに登場したよね。
正直、かまってる暇が無いから全力でスルーしてる。
魚馬たちがパカラパカラしながら必死で追いかけてくるけど、そのまま走り抜けている。
陸上では普通の馬みたいに走ってるのに、振り切ってから後ろを見ると、諦めたやつらが川の中に飛び込んでスイスイ泳いでいた。
何度か遭遇してから、魚馬が生息している川はやたら水深が深いことに気が付いた。
見た目はただの小川なのに、覗き込むと奥行きがあるとかいう意味わかんない仕様。
………これ引きずり込まれたらヤバそうだよね?
死属の土地とやらも過酷そうだったけど、ここも充分、物騒な土地のようです。
魚馬の他にも襲いかかってくるやつらがいたけど、全スルーで駆け抜けた。
双頭の蛇とか、蛇人って感じのやつとか。
蟹の群れとか、蟹人って感じのやつとか。
空飛ぶ蛙とか、蛙人って感じのやつとか。
そういう変なのがけっこういた。
残念ながら、そんなやつらの出番は無い。
馬も追いつけない速度で走り抜ける。
背景と同じように、日々が過ぎていく。
そして『邪剣使い』の12日目。
太陽が天高く輝いている。
そう、太陽だ。
ここまでの道中で、いつものように「しーちゃんの邪剣データベース」にお問い合わせしておいた。
邪剣によると、太陽には、これといって異常が感じられないそうなのだ。
夜の星には異常があったのに、昼の太陽には異常がないらしい。
つまり、夜を照らす「夜帳を司る神」は死んでいるが、昼を照らす「白昼を司る神」は死んでいない。
…………かもしれないのだ。
既に「白昼を司る神」が死んでしまっていて、今輝いている太陽は「均衡律」によって維持されているものである、という可能性もある。
数が減っていた星と違って、一つしかない太陽が減っているわけでもなく、明るさで判断するしかなさそう、ということだった。
まぁその言葉に続けて、十中八九、生きているだろう、と邪剣は言っていた。
生き残ってる神、他にもいるんだろうか?
そんな感じで、走りながら邪剣と色々な話をしつつ、ここまで来た。
気になることを教わったり、日本のことを教えてみたり。
もちろん、お互いに考え事をしながら、黙々と走っていたこともある。
周囲の様子は、小川の数もだいぶ少なくなって、変な生き物もあまり見かけなくなってきた。
右手の方角に見える景色が、なだらかになってきたような気がする。
中央の平野部に近付いてきたようだ。
そして、イベント発生です!!
魚馬に襲われている、人間の一団がいる。
まだかなり遠くだが、おれには既に見えている。
しょうがないから速力を上げる。
人がいる、ってことは、この辺りはどっかの国の領土かな?
こんなところで何やってんだ?
あっ、ヤバイ、魚馬が増えてる。
ここからだと、草原の中から急に馬がピョンピョン湧き出してるように見える。
あれは、あそこに小川があるんだな?
たぶん、周囲がそこそこ背の高い草だから、小川があることに気が付かなかったのかも。
あの魚馬、川の近くまで寄ると突然飛び出してくるからな。
馬の嘶きと、人の悲鳴が近付いてくる。
籠や荷物を背負った数名が逃げ出していて、それを護衛するように、他の数名が後退しながら応戦している。
戦ってるやつらは、うん、まだ大丈夫そうだ。
それよりも逃げてるやつらがヤバそう。
あの速度じゃ、後続の魚馬が護衛のやつらを避けてすぐに追いつくだろう。
あぁ、今まさにそうなりつつある。
護衛の人間たちも後退しているが、魚馬に気を取られてしまい、必死に逃げている人間たちと距離が離れていく。
その間隙に後続の魚馬が割り込んで、逃げる人間たちを追いかける。
そして、すぐに最後尾の人間は追いつかれて、間近に迫った蹄の音に焦ったのか、後ろを振り返りながらすっ転んだ。
そこに一頭の魚馬が迫る。
あと、おれも追いついたよ!
お約束だよね?
前脚を振り上げて勢い良く人間を踏み殺そうとしている魚馬。
その魚馬と倒れている人との間に割って入る。
必殺技なので叫ばせてくださいね?
(マスター、この身体は喋れないぞ?)
あっ、そうだった。
ってオイ!!
邪剣につっこまれた!?
あれ、しーちゃん、なんで…。
(ちょっ待っ、マスター!!!他の生物がいる前では名前を呼んではダメだぞッ!!?)
あぁ、そうだった。
名前についても色々と教えてもらったんだよな。
基本的に家族にしか教えないんだっけ?
ごめん、つい呼んじゃったよ。
(もうっ、ばかマスター!我は嬉しいのだぞ!?嬉しいのだが、万が一にも名前を知られるとまずいとあれほど言ったではないか!!)
あれ、でもこの身体喋れないじゃん?
だからおれ、発声してないじゃん?
頭の中ならいいんじゃね?
(ダメマスター!!!)
マスターって呼称、バリエーション豊かですね?
(万が一なのだぞっ!いくらマスターの精神防壁が馬鹿性能だと言っても、邪神様には思考を読まれたであろう!?普段から警戒する癖をつけてくれい!それほど名前は大事なのだ!!)
わかった、すまん、し……邪剣。
(ッ!!…………呼びそうになっちゃうマスターっ、キュンキュンだようっ!)
ちょっ、誤作動やめて!?
今それどころじゃないから!!
っていうか、そうだった!
なんでこんなに邪剣がこの思考速度についてこれてるんだ?
戦闘モードだからけっこう加速してるぞ?
(あぁ、これも気付いてなかったのか?まぁたしかに、「魂の牢獄」の外に出てから初の戦闘であったか。我はあの頃と格が違うと言ったであろう?)
格が違う?
あぁ、邪神の魂を喰ったからか。
なるほどなるほど。
よし、お待たせしました!
待ってない?
だって超速思考だもんね。
オーケー。
じゃあ頭の中で叫ぼうか。
『憤激の左拳』ッ!!!!!!
馬が爆発四散した。
血の雨が降る。
前脚を振り上げていた魚馬。
その下の前方に倒れ込んでいた人間。
そこに割り込んだので、下から突き上げる格好になったのだ。
おれは返り血をもろに浴びた。
後ろを振り返る。
助けた人も、血塗れだ。
あっ、女の人だったんだね。
目が合った。
「ギィヤアアアァァァァァーーーーーーーッ!!!!!!」
うん、逃げられました。
人も馬もみんな逃げた。
そして、おれだけ取り残されました。
黒ずくめの装備が、紅くベットリと陽光に照らされている。
右手には抜き身の剣。
見るからに禍々しい、柄頭の装飾。
真っ直ぐな刃は、血に濡れて妖しく輝いている。
えぇ、はい、これは「逃げる」で正解ですね。
そうだよね。
おれでも逃げるよ。
残念だったね。
しょうがないよね………。
(…………マスター、えと、大丈夫、かっこよかった、よ?)
※日数は変更する可能性あり




