2キャラ目、どうしてこうなった
回想終了。
邪剣がかつてないほど身体を侵食してくるよ。
もうベッタベタです。
こうして、おれと邪剣は結ばれました。
めでたしめでたし!
ふおおおおぉぉぉーーーッ!!!!!
いや違うってッ!!!!
どうしてこうなるの!!?
おっ、落ち着け!!!
落ち着け、まだ慌てるような、あの、アレだ、アレじゃない!!
慌てるようなあわあわあわわわ……。
どうしてこうなった?
よし、回想するとしよう。
いや違う回想はしたんだよ!!?
おっおっ、落ち着けッ!!
ヤバイ冷静にクールに超速で思考だ!!!
限界を超えろッ!!
おれはまだまだこんなもんじゃないッ!!
脳みそ焼き切れるまで考え尽くせ!!
超速で神速で言い訳をひねり出すッ!!!
今ここでどうにかしなければならない。
そうしなければ、もはや取り返しのつかない状況に陥ってしまう。
メインヒロインが邪剣とかダメだってアレほど言ったじゃない?
視覚的にダメだって言ったじゃない!?
どうしてこうなった?
初めての邪剣が彼女ってどうなってんだよ?
間違えた。
初めての彼女が邪剣ってどうなってんだよ?
あれ言い直したのにあんまり変わってないね!
っていうかおかしいじゃん!!
なんでこんな重要なルート分岐で会話選択肢が出てこないの?
会話選択肢が出てこないといつセーブしたらいいかわかんないじゃん?
現実?
なにそれおいしいの?
イベントCGとかR指定なシーンでも出てくりゃセーブもするよ?
でも邪剣じゃん?
邪剣じゃけん?
女の子的な外見が存在しないから、可愛いグラフィックとか存在しなかったじゃん?
これまでにイベントCG出てきそうなシーンってあったか?
お決まりのラッキースケベなシーンとかあったか?
あったわ!
邪神のアレが……。
完全にモザイク!!!
っていうか思考がずれてる!!
現実逃避しすぎだろ!
現実ッ!!!
現実なのか………。
しょうがない。
正直に言うしかない。
名前を付けたり教えたりっていうのがそんな意味を持ってるなんて知らなかったんだ。
邪剣にそう伝えよう。
(ねぇねぇ、マスター?)
どっどどどうした邪剣!!?
(くふふーっ、呼んだだけ!)
言えないよおおぉぉぉーーーーッ!!!
言えないッ!!!!
もうこの子完全に恋人気分だよッ!!!?
言われたかったッ!!!!!
一度でいいから「呼んだだけ」って言われたかったんだよおれはッ!!!!!!
夢が叶っちまったよオオオォォーーッ!!!
おっち落ち着け!!!
おれは冷静ッ!!!
この叫びも思考も一切邪剣には漏らしていないッ!!
邪剣はおれの思考速度に追いつけない!
諦めるんじゃない!!
考えろッ!!!!
諦めたら終了だって某先生も言ってたッ!!!
このままではおれの恋人は邪剣ッ!!!
剣なんだッ!!!
人型じゃないんだッ!!!
つまりそれはどういうことか!!?
つまり!!!!
『オッ○イが無いッ!!!!!!』
おれはオ○パイが好きだッ!!!!!
大好きだッ!!!!
触れたことなんて赤子時代!!!
生チチなんて偶像崇拝!!!
初めての恋人にオッパ○が無いなど許容できない!!!!
え、ツルペタですか?
大正義ッ!!!!!
「無」と「小」とでは比較にならないッ!!!
○ッパイとは、女の子の胸部なりッ!!
おれは好きだッ!!!
小さいオッ○イが好きだッ!!!!
なに、爆乳だと!?
けしからん!!!
もちろん好きだともッ!!!
大きいオ○パイが好きだッ!!!!
小さくも大きくもないだとッ!?
ちょうど良いじゃあないかッ好きだッ!!!!
邪剣は可愛いッ!!
だが可愛いだけでは胸は膨れないッ!!!
『乳無き可愛い』では、おれの心は満たされないッ!!!!
ハッ!?
………………邪剣に…オッパ○が……無い………?
ドクン!
それは、悪魔の囁きか。
ドクン!
はたまた、天使の導きか。
………○ッパイが……無いだと………?
…………………無いのなら。
………無いのであればッ。
オッ○イが無いのならッ、創ればいいじゃないッ!!!?
邪剣を女にしたのはおれだッ!!!
あっ、ちがっ、することはしてない!!
っていうか剣だからできないッ!!!
女の子設定にした!!
ならば、外見だって設定できるはずッ!!
否ッ!!!
できなくとも良いッ!!!!
おれが、おれの心の眼で邪剣の外見を見ればいいじゃあないかッ!!!
おれの心の眼で邪剣の心のオ○パイを眺めれば良いんだよッ!!!
高まれッ、おれの妄想力よッ!!!!
邪剣の外見を設定するッ!!!!!
妄想でかまわないッ!!!
もとよりおれはそうしてきたッ!!!!
擬人化すべしッ!!!!
日本の擬人化力は世界一イイィィィーーーーッ!!!
見えるッ!!!
おれには邪剣の擬人化イラストが見えているぞッ!!!!
これが邪剣だッ!!!
そのイメージカラーは語るに及ばず、暗黒の中二病カラー、黒ッ!!
黒髪黒眼。
艶やかで柔らかな黒い髪を、オカッパにするという贅沢。
そして前髪はパッツンッ!!!
眉の上空で、緩やかなアーチを描く、前髪パッツン。
超似合ってて可愛いのに「切り過ぎちゃった……」とか言って眉根を寄せて恥ずかしそうに前髪を意識する様を想像してみるがいい。
これぞオデコの絶対領域ッ!!!
デコ娘スキーならわかってくれるかな?
見えそうで見えてる半デコ娘、何かの拍子に仰向けに倒れ、乱れた前髪から覗くつるつるオデコッ!!!
フルオープンデコ娘とはまた一味違った趣のあるデコ娘ッ!!!!
おっと、フルオープンにあらずんばデコ娘にあらず、とな?
潔しッ!!!
邪道で結構、邪剣なればこそッ!!
さて、童顔であるべきか、妖艶であるべきか、これは実に悩むところだ。
しかしここは妖艶を選択していきたい。
邪剣、オカッパ、妖艶、素直にデレる!!
そう、本当は意外と妖艶な顔立ちなのに、悪女になれない素直さ。
その素直でだらしないデレ笑顔が、正統な妖艶悪女キャラとは一線を画す。
そして笑わなければ、影のある微デコ美女なのだ。
これぞ邪剣。
邪剣は細く、肉付きはよろしくない。
黒いワンピース、長め、細め。
袖は二の腕途中まで。
あのプニプニの女の子の二の腕が半分見えて半分隠れている。
しかしワキも捨てがたいな…………いや、刺激的すぎる、ワキは隠しておこう!
丈はヒザ隠れるくらい。
そうだな、ヒザには隠れていてもらわないと。
ヒザ裏が見えちまうなんて刺激的すぎるからな!
女の子の関節の内側に折れる部分はなぜあれほどまでに刺激的なのだろう?
靴も黒くてかかとはペタンコだな。
あとは靴下。
くつしたッ!!!
難問だ。
実に難問だ。
くつしたは、好物だ。
はっきり言って、履いている方が好ましい。
だが、ここまでの設定からは、きっと、ノーくつしたも似合うはずだ。
苦渋の決断。
くつしたは、あえて手放そう。
そうすることで、おれにとっての邪道となる。
それでこそ邪剣だ。
そしてオッパ○。
○ッパイは無限。
オッ○イは深淵。
ベストサイズについて語り合おうものなら、終わりの無い迷宮。
邪剣はツルペタか?
それも良し、妖艶美女の貧乳は歓迎だ。
邪剣は爆乳か?
爆殺してくれ、圧殺してくれッ!
どうだろう?
さぁ、あの頃の気持ちを取り戻そうか。
思春期の、若き求道の日々。
遥か遠い頂、上り始めたばかりのオ○パイ坂。
想像してみよう、初めての恋人というものを。
その黒い洋服をまくり上げて初めて気がつくほどの、ささやかなふくらみか?
それとも、ぴっちりとはち切れそうな、重力を無視した柔らかさの特大結晶か?
いいや、違う。
そう、そのどちらでもない。
Cだ。
Cであるべきだ。
初めての恋人、心休まる平穏無事なC。
それは、事の大小を忘れさせてくれる。
そのオッパ○は始まりにして終わり。
邪剣の○ッパイはC。
誰だって、大きいのも小さいのも、楽しめるものなら楽しみたい。
だからこそ、中庸。
わかっているさ。
それは逃げだと人は言う。
大こそ全て、小こそ正義、未踏の極地を求めて、男たちは彷徨い、永劫の戦いを続けている。
逃げではないんだ、オッ○イは、ただそこにある、なぜそれがわからんのだ。
いや、逃げで結構、邪道で結構。
それが行き着くべきところなんだ。
それが、邪剣のオッパイだ。
高まってきたな。
おれの妄想が、ここに結実した。
邪剣の外見をおれの頭の中で設定した。
これでいい。
わかっているさ。
いくら妄想の外見を設定してみたって、邪剣の外見はただの剣だ。
それが現実。
これまでと何も変わらない。
変わったのは、おれの心だ。
擬人化は、しょせん、人化ではないのだ。
だからこそ、おれの妄想をより鮮明にしてくれる。
いいんだ、これでい…。
(マスター?)
どどっうしどうした邪剣!!?
(…………ごめんね……やっぱり、イヤであろ?)
どっどうした急にッ!!?
(さっきから、我にバレないように色々考え込んでいるであろ?)
いやそれはアレだ!!
ロマンだッ!!!
いや違う、アレだ、なんだ、おれはこう見えて何も考えてないぞ!!?
(わかるもん………マスターのことなら、もうわかるもん)
(違ったんだよね?マスターの世界では、名を交わす、って習慣、無かったみたいだね……)
(マスター、名前を誰にも明かしてないみたいだったから、勘違いしちゃった!)
(先に、マスターの魂から教わっておけば良かった………そしたら、勘違いしないですんだのに……)
何言ってんだよ?
勘違い?
何が勘違いだって?
いやいや、おれの世界でも名前は親しい相手にしか教えないし、名前はマジ大事だし、名前を隠すとかそんなの常識だったわ、うん、そうだったわ。
大切な相手以外に教えたらアレだ、なんだ、大変なことになります。
だからアレだ、おまえは大切だ。
(よいのだマスター!我は邪剣だから!メインヒロインにはなれないなんて当たり前であったな!我はマスターの剣だから!それでよいのだ!)
………おれは本当にバカだな。
そして最悪だ。
クソ野郎だな。
異世界に来ても、神の代行者になっても、どうしようもないダメなヤツだ。
邪剣は女の子なんだろ?
おれのせいで女の子なんだよ。
おれは残念ながら鈍感系主人公にはなれそうもない。
ハーレムルートは存在しない。
現実の異世界に会話選択肢は出てこない。
自分で言葉を伝えるんだよ。
じゃけ……しーちゃん、大事な話があります。
(うぅっ、急に……名前で呼ぶでない…………なっ、大事な話?)
しーちゃん、おれにはやるべきことがある。
(………うん…)
本当は、それを果たすまでは、浮かれてる場合じゃなかったんだ。
異世界とか、ハーレムとか、チートとか、そんなことで浮かれてる場合じゃないんだよな、おれは。
そんなことより、やるべきことをやらなければならないんだ。
(そっ、そうであったな!うむ、そうだな……だから…)
だから、しーちゃん。
邪剣シークライド、おれが名付けた、おれの愛剣よ。
おれは、おまえとやり遂げる。
やるべきことを終えたとき、おれの手の中にはおまえがいる。
そこからが、おれたちの始まりだ。
……それでいいか?
(…………我は……邪剣なんだぞ?)
そうだな。
(そんな、メインヒロインみたいな扱いを……)
あぁ、そんな感じだな。
(視覚的にダメだって……)
問題無い、既に邪剣の外見は設定した。
(馬鹿者………さすがに外見は変わるはずないであろ?)
おれの心の眼には、もう可愛いしーちゃんが見えている。
(ばかマスターっ!…………ばかマスター……)
(我も………ばかだな)
(我も馬鹿者だ、アナタの言葉を真に受けた)
(くふふっ、外見の設定だと?)
(マスター、アナタは絶対に後悔するぞ?)
任せとけ、後悔するのは超得意だ!!
後悔して後悔して、後悔しながら突き進むッ!!!
(ならば当然、今すぐに後悔してもかまわんのだな?)
えっ?
なんて?
今すぐに後悔?
(神性を使う)
神性?
ちょっ、えぇっ?
(邪神様の魂と同時に奪った神性を消費して奇跡を起こす)
待って!!?
まて待って邪剣それは待ってッ!!!
(くふふーっ!待たない!邪剣心と乙女心をもてあそぶからだぞっ!!後悔するのだマスター!!!)
うおおおぉぉっ!!!?
気が付くと、謎空間にいた。
邪剣がカッと光を発したかと思ったら、おれは謎空間にいた。
突然のことに思考が追いつかない。
謎空間?
うそだろ?
何が起きた?
死んだのか?
謎女神は?
周囲を見回す。
明るいんだか暗いんだか、立ってるんだか浮いてるんだかよくわからない謎空間。
その中で、おれは一人だった。
邪剣は?
『邪剣使い』の攻略は終わってしまったのか?
おれにはやるべきことがある、ついさっき、邪剣にそう告げたばかりなのに。
終わったのか?
終わってしまったのか?
邪剣は、いったい何をしてしまったのだろう?
「後悔したか?」
「えっ?」
声がした方向を振り返る。
そこには、見知らぬ女の子が立っていた。
両手を腰の後ろでつなぎ、少し前かがみになって、ニヤニヤしながらこちらの顔を覗き込んでいた。
「マスター、後悔したか?」
黒髪黒眼、黒のワンピースに、ぺたっとした黒い靴を素足で履いている。
「残念ながら、神性はもう使い切ってしまったぞ?」
顔のパーツは美しく整っているが、ニヤニヤ笑うその顔は、屈託の無い女の子の素の表情そのもので、どこか幼稚そうな印象すら抱かせる。
「くふふっ、それにしても、ちゃんと成功するとはのう。我もやはり捨てたものではないな!」
幼稚に見えるのは髪型のせいかもしれない。
オカッパでゆるアーチなパッツンの半デコ娘。
「こんな髪型が似合う可愛い女の子なんてマジで実在したのかよ。そのデコぺちぺちさせてくれよ」
「マスター、無理矢理似合うように設定をしたのはアナタだぞ?」
「…………やっぱり、しーちゃん?」
「くふふーっ、名前で呼ばれるの嬉しいぞっ!!」
うおおおおぉぉぉーーーーーーッ!!!!!
抱きつかれたッ!!!!
抱きつかれたッ!!!
そして当たるぞッ!!!!!
双丘が当たるぞオォォーーッ!!!!
「推定Cカップの双丘がおれの心を絨毯爆撃ッ!!!!」
「残念マスター、ちゃんと発言調節してね?それ本当は心の声であろ?」
邪剣が、苦笑しながらサッとおれから離れて距離を取る。
「あぁっ!!離れてゆくっ!!!おれの夢マイドリームがッ!!!100万ダラーのCカップがッ!!!!」
っていうかなんだこれ?
夢なの?
マイドリームなの?
どうしてこうなった?
えっ?
この子、マジ邪剣なの?
「ようこそマスター、ここは我の神域だぞ!神性使って作っちゃった!物質的な外見は変わらないが、精神体の外見はちゃんとマスターの設定が適用されたようだのう!」
意味わかんない。
精神体の外見とか意味わかんない。
精神なのに外見って意味わかんない!!
でもわかったこともありました。
謎空間って、神域なのね。
万眼先生が言ってた、神々が基本的に引きこもってる空間ってやつ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「そう、おれの妄想が、ここに結実していた。おれが設定してしまった初めての邪剣が、目の前にいる。………しーちゃん可愛いよしーちゃんハァハァ…」
「……………マスター、ちゃんと発言調節してね?」




