2キャラ目、大事な勉強
旅立って、夜が明けて、そして『邪剣使い』の3日目。
打ち切り漫画のラストばりに張り切って旅に出たのだから、もっとすんなりと進ませてくれてもよかったと思う。
いきなり挫折しました!
このような事態に陥るなどと、いったい誰に予測できただろう?
事態は深刻だ。
どうしてこうなった?
回想するとしよう。
どんなに過酷な事態でも、向き合わなくては進めない。
「魂の牢獄」の入り口によく似た、ダミーらしき石の祭壇。
そのふもとでバローグの歴史と地理の勉強をしたおれは、2日目の深夜にさっそく旅立つことにした。
『邪剣使い』は睡眠も食事も不要、この利点を活かす為に、昼夜問わずに移動する。
もちろん、夜は暗い。
当然のことながら街灯なんて存在しない。
しかしおれはこの闇の中でも『視える』のだ。
「魂の牢獄」の中だって、だいぶ暗かった。
万眼先生には遠く及ばないが、おれはあの『視える』能力に慣れる為に、30日間ぶっ通しで感覚を鍛え続けた。
そして、極め付けにあの『奴』との戦闘。
おれの感覚は、『無明の万眼』によって鍛え上げられている。
それに、完全な暗闇というわけでもない。
星と月の明かりが、かすかに地上を照らしている。
邪剣が言うには、この世界には「夜帳を司る神」とやらがいて、星が夜を照らしているのは、その神のおかげなんだそうだ。
しかし、邪剣によると、その神もおそらく死んでいるということだった。
星の数がだいぶ少なくなっているらしい。
いやいや、そんな神が死んだなら、星がまだ残ってるのはおかしいんじゃないか?って思ったけど、それは「均衡律」があるからだった。
「均衡」が主神である限り、この世界の均衡はある程度保たれる、とかいうだいぶご都合な設定があったのだ。
万眼先生も言っていた。
「豊穣を司る神」がいなくなっても、実りある土地が存在する。
「夜帳を司る神」がいなくなっても、全ての星が無くなるわけではないらしい。
っていうか、この世界の星は夜を照らす為にあるのかよ。
なにそのファンタジー。
ひょっとして天動説がガチな世界なのか?
月も2つある。
邪剣を褒めておだててまた語ってもらったんだが、2つの月は、それぞれ生死二属を反映しているらしい。
月の満ち欠けは一定ではなく、それぞれの月が満ちているほど、その属性の力が活発になっているんだそうだ。
だから基本的に、満月とか新月は、この世界では異常気象だということだ。
邪剣と頭の中でそんな会話をしつつ、やけに多い小川を跳び越えながら進んでいると、やがて朝になっていた。
『邪剣使い』の攻略3日目、進みながら考える。
ただのチュートリアルだった運命改変アクションRPG、「ヴァーランド・リフォージ」をプレイして培った、おれの鉄則。
『初見のキャラは動かすな』
これ、もう使えない気がする。
『31日目』以降にこの世界に大きな変化があるかもしれないわけだし、今回みたいにそれに備えて動く必要がありそうだ。
むしろこれに固執して『無明の万眼』を30日間動かさなかったから、『奴』に出会ってしまった。
それが良かったのか、悪かったのか、わからないけどな。
なにか他の指標を定めたほうがいいか?
今こうして『邪剣使い』でバルゴンディア王国を目指してるんだから、バルゴンディアに集結する、って感じでいいかな?
いや、待てよ。
バルゴンディアに集結はダメか?
おれは、『奴』に喰われたらもう『運命改変』できずに終わるんだよな?
それなら、『奴』に近付き過ぎるのはまずいんじゃないか?
そうだ、だったらこの『邪剣使い』で、できる限り『奴』の動向を掴んで、比較的安全そうな場所を探せばいいか。
よし、邪剣。
何度か伝えているんだが、おれにはやるべきことがある。
(うむ)
この世界は、今、存亡の危機にさらされている。
覚えていられないだろうが、また説明しておくぞ。
この世界には、『認識不可』で、『世界喰らい』で、『神殺し』の化け物が紛れ込んでいる。
(うむ、知っておるぞ)
うむ。
知って……………えっ?
(え?)
え?
(ん?どうかしたか?)
ん?
『認識不可』だよ?
(うむ、もう知っておる、『認識不可』だな?)
いやいやいや!
待て、それはおかしいだろ、ナンデ突然もう知っておるですよ?
『認識不可』ですよ?
(だって、マスターも知っておるであろう?)
えっ?
いやだって、それはおれが、『無明の万眼』と、アレがアレして、だから知っておるだよ?
(『無明の万眼』、この世界で『奴』を知る唯一の存在、マスターが1周目の『運命改変』で選択した人物。だからマスターは『奴』の存在を覚えることができている)
おっ、おう。
あれ?
そういう話、説明したっけか?
(してない。だが、我は人の心を知る為に、アナタの魂を頂いたのだぞ?『奴』を知っている、アナタの魂を)
マジか。
ちょっ、マジか!?
そういうことかよ邪剣!!
おれの魂でッ!?
おまえも、『奴』を知ったのか!!?
それは嬉しいぞ!?
(クフフッ、アナタの喜びは我の喜びだぞ、マスター!)
てっきりおれは、『奴』とは孤独な戦いをしなければいけないもんだと思っていた。
「魂の牢獄」で邪剣に説明したとき、『認識不可』は覚えていられない、ってことを実感したからな。
誰も『奴』を知らないまま、おれ一人で挑むことになるんだと、そう思っていた。
でも、違ったのか。
おれの魂を喰ったから、おまえも『奴』を知ったんだな。
おれが『奴』と戦うことを、おまえは知ってくれている。
それが、こんなに嬉しいなんてな。
(マスター、我は知っているだけではないぞ。約束、したであろう?我はアナタと、共に戦うのだ。この世界を救う。アナタの愛剣は、アナタの為にある)
ありがとう、邪剣。
おまえに出会えてよかったよ。
(はうっ!マスターがデレた!!キュン死するぅっ!)
ちょっ!!?
誤作動ッ!!!
おまえマジで何喰った!?
(我が食べたのは、マスターの大事なモノ、だよ?)
魂なッ!!?
モノとか言わないで!?
そういう紛らわしいのはよくない!!
くそっ、邪剣がマジ邪剣!!
汚れちまった!!
おれの魂喰う前の純粋な邪剣はどこにいっちまったんだ……。
(マスターのモノが中に入ったんだよ?もう、我はマスターに汚されちゃった……)
だから魂なッ!!?
マジでやめて!!
なぜかすごい焦るから!!
謎の罪悪感がこみ上げてくるから!!!
とりあえず喋り方をデフォの設定に戻せ!!
(でも、こういうのが…)
好きだけどな!!?
ちくしょう!!
おれの魂めッ!!
余計な知識をッ!!
いや、っていうか待て。
邪剣って、そんな機能持ってたんだっけ?
喰った魂から情報を引き出せるのか?
なんかおれの魂からやたら無駄な情報を引き出しまくってないか?
(あぁ、ようやく気付いてくれたのう!たしかに、我はもともとこのような能力は持っていなかった。しかしマスター、我らは「魂の牢獄」でいったい何をした?)
ナニをッ!!?
えっナニもおれと邪剣はまだナニもだよな!!?
ナニはしてないよなッ!!?
(マスター………)
おいちょっと待て、『認識不可』なのか?
おれが忘れただけか!?
おれが覚えてないだけか!!?
『認識不可』なナニをおれはおまえに!!?
(落ち着け、残念マスター)
ざっ!?
残念マスター!!?
ちがっ、違うおれは残念じゃない!!!
(残念神に仕える残念の伝道師、残念マスターとはアナタのことであろう?というか、マスターは、自分も残念であるという自覚が無かったのか?)
いやいやいやいや!
ないないないない!!
おれが残念?
違うよ、残念なのはあの1号と2号だけだよ?
チガウ、おれ、残念、チガウ!
残念は空気感染しないから。
(ぐぬぬ………マスターは、接触感染したとか言いたいのか!?)
えっ?
残念が接触感染?
いやいや、接触感染するようなことなんて………アレか、ほっぺに、うん、祝福な?
したね、接触したわ。
そっかー、接触感染かー。
うん、まぁ、いいかな、残念でも。
(フンッ!フンだ!!ニヤニヤしおって!残念マスターめっ!!…………我はあんな残念小娘には負けんからなっ)
それでなんでだっけ?
なんでそんなに、おれの魂から知識を引き出したりできるんだ?
(わからんか?マスター、我らは邪神様を退けた。あのとき、邪神様の魂を喰ったのだぞ?ほんの一部とはいえ、まぎれもない、神の魂を喰ったのだ)
おぉっ!!
神の魂か!!!
まさかそれで!?
(我の存在は、これまでとは格が違うのだぞ!力の蓄積量も段違いとなったのだ!!クフフッ、褒めてくれい!我はマスターにたくさん褒められたいのだぞっ!)
マジか!!
邪剣がバージョンアップした!!?
邪神の魂を喰った邪剣!!
どうしよう、邪神剣か!!?
邪神剣ソウルディストラクションとかどうかな!!?
いや、違うな!!!
もっと禍々しく!
星海堕とすものの爪、邪神剣ッ!!!
惜しい!
もう一声!!
(………あのう、マスター、ひょっとしてそれ、ご褒美のつもり?)
えっ?
あぁ、すまん、ちょっと取り乱した。
中二病的になかなか熱い状況だから興奮してしまったよ。
(………そっか、そうであろうな……やはり名前をくれるわけでは、ないのだな)
なんだ、邪剣は名前が欲しいのか?
(うんっ!!!いいの!?えっ!ホントにくれるのか!?)
あぁ、そんなに欲しいならいいんじゃないか?
(…………本当に?……だって我だぞ?いいのか?我なんだぞ!?)
うーん、しかしアレだな、おれのネーミングセンスがいまいち不発だな。
これはやはり、邪剣にあげた魂は、おれの中二病魂だった、ってことか?
どうする?
どういう系の名前がいい?
(……えっ、うんと、いいの?でもダメだよ、順番が、ほら、ね?)
ん?
なんだ、順番って?
(もうっ!だから!マスターには、名前、あるのか?)
えっ、あぁ、そうだな。
そういえば名乗ってなかったか。
(思い出した?じゃあ、我に教えて?)
あぁ、おれの名前は…。
(ばかっ、もっとこっそりとだぞっ!)
えっ?
なんだよ、どっちみち頭の中じゃん?
こっそり?
(そういうものなのっ!もう!!)
まぁいいや。
……………………、聞こえたか?
(うんっ!!!)
で、邪剣は?
どんな名前にする?
(もちろん可愛い名前だぞっ!ちゃんと気持ちを込めてね!!)
可愛い!!?
それは難しいな……。
っていうか、邪剣、喋り方変わりすぎだろ。
どういうテンションだよ?
てっきり、またあの大傑作漫画のパクリで、「名前などどうでもいい」とか言ってくれると思ったのに。
あっ。
右手に持ってるから、ミ………ライト?
いや、これはパクリじゃなくて、ほら、オマージュ?リスペクト?的なやつだよ?
邪剣ライト。
いや、駄目だろ。
ぜんぜんダメ、センス無い。
ハッ!!
ライトセ○バー!!?
邪剣ライトセイ○ー!!?
もろパクリは駄目だろ!!!
しかもこの子、おれのことマスターとか呼び始めてるし、セ○バーさんのパクリにもなっちゃうじゃん。
ダブル、いや、トリプルパクリじゃん。
うーん。
邪剣は『魂喰らい』だから、そこからなにか……。
たましいぐらい。
たましいぐ、ライト?
たましーぐライト?
邪剣タマシーグライト!!
タマ取るか。
邪剣シーグライト!!!
それっぽい!!
どうせならジークにするか!?
ジークって響きは中二病的だからな!
ジークライト!!
いや、可愛いのがいいんだっけ?
濁点を取って。
シークライト!!
いや、濁点は必要か。
シークライド!!!
あっ、ライトじゃなくなった。
これならもうパクリじゃないじゃん。
決定です。
それでは発表します。
(うっ、うむ)
邪剣シークライド!!!
愛称はしーちゃんな?
邪剣しーちゃん!!
可愛いじゃん?
ドヤァ!?
(こっそりとだよっ!!!…………うそ、名前、もらっちゃった)
(いいの?ホントに?邪剣なんだよ?われはっ、マスターから、名前っ!!ありがとう!)
なんだよ、そんなに気に入ったのか?
(うんっ!!!ありがとう!すごくいい名前!!)
いや、そこまで言われるとさすがに照れる。
いいんだよ、名前くらい。
おまえはおれの愛剣だからな!
(はうっ!キュン死する!!幸せだよぉ!……いいのかな、こんなに幸せで。我も、マスターを愛してます)
ちょっ!!?
あっ、あいッ!!?
(名を交わしたんだもん、これくらい、恥ずかしくないよ?嬉しいな、マスターと、結ばれちゃった……)
おぉーっと。
待てよー?
なんなんだー?
これひょっとして大変なことになってないかー?
おれは、邪剣に、名前を付けただけだぞー?
なんでいつの間に、こんなMAXのデレがきてるんだー?
名を、交わす?
結ばれ、た?
あー。
あぁー。
これヤバイ。
これはかつてない危機かもしれない。
ヤバイヤバイ、絶対に早まった。
そうだよ、思い出せよ、異世界だぞ?
名前が深い意味を持つ、とか、ファンタジーの常識だろ?
ヤバイ、事態は深刻だ。
どうしてこうなった?
まさか。
まさか、名前を教えたり、付けたり、って。
この世界ではひょっとして!!!!
(マスターと恋人同士………くふふっ、幸せ死にしちゃうっ!!)
『邪剣ルート』
ーーー突入完了




