2キャラ目、落ち着け……
ヤバイ。
全裸の邪神が部分的に自己主張激しすぎる。
どうしてこうなった?
どうしてそうなってる!!?
艶やかな、黒く長い髪。
中性的な整った顔立ち。
全裸でアレがアレしてなければ、つい魅力的だと思えてしまいそうなほどの超美青年。
っていうかマジでコワイ。
アレがアレしてる全裸の男と密室でマンツーマン。
全裸の男にめっちゃ見つめられている。
「おっ?」
落ち着け、っていうかマジでヤバイ。
邪神と遭遇してしまった。
こんな変態に関わってる場合じゃないのに。
マジ邪神。
アレは見るからに邪神。
集中しろ!
とにかく敵対はしないように!!
邪剣はどうするつもりなんだ?
この身体を差し出すつもりなのか?
(えっ、あうっ、この身体を差し出す?じゃ、邪神様の立派なアレがオヌシの差し出された身体で、えっ、どうしようどうしよう!そんなのダメだぞ!?我はそのときどうしたらいい!!?)
邪剣 は こんらん している!
だめだコイツ、早くなんとかしないと……。
「おぉっ?貴様、なんだそれは。なかなか立派なモノを持っているじゃないか。硬くて、力強い。おもしろい、楽しめそうだ」
(えぇっ!!?硬くて、立派な?オヌシそうなのか!?ダメダメ!!そんなのダメなのだぞ!?邪神様とオヌシがあわわわわっ!!!)
邪剣ちょっと黙れ!
マジでやめて!?
ナニ考えてんの!?
っていうか邪神の発言もヤバイマジでガチなの!!?
どうしよう!
逃げられる!?
出口が見つからない!
邪神からは逃げられない!?
「見れば見るほど素晴らしいな。そこらの神では及ばない。主神級、だな。もっと近くでオレに見せてみろ」
ひいっ!?
近寄ってくる!!
「その、精神防壁」
(しゅ、主神級っ、オヌシそんなに!あっ、そっ、そうか、精神防壁の話であったか……)
なんだ精神防壁か、良かった。
いや良くない!
思考がまとまらない!
邪神と敵対しない。
かと言って、この身体を渡すわけにもいかない。
どうする。
どうする!?
「んん?この精神防壁、この構造、覚えがあるな。オイ、貴様は何者だ?なんの目的でここに来た?」
(御方様!お許し下さい!この者は、その、ただ迷いこんでしまっただけなのです!コヤツ自身も、御方様に敵対するつもりはないと、はっきり申しております!)
「なんだ?何か憑いているな?御方様、だと?貴様のような汚れた存在など、オレは知らんぞ」
(なっ、そんな!!お忘れですか!?我は御方様の一部であったのですよ!?御方様が封印される間際に、御自身で我をお創りになられたではありませんか!!)
「あぁ、あったな、そんなことも。遅すぎた。忘れていた」
(忘れ…て……いた…?………遅参…致しまして…申し訳……ございません)
「よい、最初から寄生虫なんぞに期待はしていない。もう要らん。後でオレに喰われろ」
(………わかり…ました)
「それより貴様だ。その精神防壁、隣接次元の主神のものに酷似している。貴様、まさか異世界から送り込まれて来たのか?あの出しゃばり女神、懲りずにまたオレのバローグに干渉しているのか?」
邪神と敵対はしない。
邪剣との約束だ。
約束は守る。
だがその邪剣は……。
コイツは、おれの邪剣をッ!!
「なんだ、オレとヤる気か?」
ゾッとした。
邪神の眼光、これは、見られている。
おれの精神防壁の内側を覗かれている。
思考を、読まれている。
「正解だ。ほう、警戒を高めたな?安心しろ、また読めなくなったぞ。相変わらず、難儀な防壁だな。隣接次元の出しゃばり女神め」
落ち着け。
思考を漏らすな。
先生の教えを思い出せ。
やはり敵対しては駄目だ。
おれが恐怖を感じた。
『奴』の精神攻撃すら軽減するこの精神防壁を越えて、邪神はおれの思考を覗き見た。
しかも、この身体に同居しているわけでもなく、肉体の外から、だ。
思考を進めろ、おそらくはこれが、本物の…。
「『魂喰らい』の使い手、というわけだ」
ぐっ!!?
また読まれた!?
「安心しろよ。読んでない、予想しただけだ。すぐに動揺するな、せっかくの美しい精神防壁が揺らいでいるぞ。どうせその汚いモノから、『魂喰らい』については聞いているだろう。察しの通り、オレは魂の観察には長けている。思考を見るまでもなく、単純な先読みくらいは造作もない」
ヤバイ。
これが、神か。
おれはやっぱり甘かった。
『奴』以上の化け物はいないと、そう思い込んでいた。
その思い込みが、おれの判断を甘くしていた。
『奴』以外にも、化け物はいた。
危険度の指標、だな。
おれが恐怖を感じたらヤバイ、的な。
少しも笑えねー。
「さて、そろそろ質問ばかりするのも飽きてきたぞ。だが、貴様はオレに情報を漏らすつもりはないらしい。このままではどうなるか、わかるな?」
ちくしょう!!
クールに!
おれ自身の目的を見失うな!!
ふー。
邪神様、ご無礼をお許し下さい。
まずは、あなたと敵対したくない、ということだけは、わかって頂きたい。
「普通の言葉遣いでいいぞ。貴様が必死で慎重になっている、ということは魂の揺らぎでわかる」
わかりました、ありがとうございます。
「さて、オレに言葉を読ませている、ということは、問いに答える気になった、ということでいいんだろうな?ならば聞かせろ、貴様は何者だ?」
おれは、『運命の女神の代行者』です。
「くくくっ、情報が少ないな。精一杯慎重になっているのがよくわかる。まぁいい、どうせこの問答はオレにとって暇潰しにすぎん。そして運命ときたか。また俗な冗談を引っ張りだしてきたな!『運命が働いてるはずないだろう?』とは、博徒どもの決まり文句だが、あの怠慢小娘が仕事をしている、とでも?」
その、怠慢小娘という人物について、おれは知りません。
おれが知っているのは、昨日、運命の女神は代替わりした、ということだけです。
「ほう?おもしろいな、運命神を引き継いだばかりで代行者を選出するなど、とんだ戯言だ。しかしそれほどの事態であるとも受け取れる。くくくっ、運命が、あの頃のようにまた無駄な足掻きを始めたか?ならば貴様、まさか『運命改変者』じゃないだろうな?」
………そうです、おれは『運命改変者』でもあります。
「ははははっ!!!そうかそうか!貴様も汚らわしい寄生虫かっ!!なるほど道理で!オレのその寄生虫と気でも合ったか!?他人の身体に魂を入れる運命の寄生虫を知ってから、あの醜さに興味がわいてなぁ、オレも戯れに創ってみたんだ。いやすっかり忘れていたがな!神としての性質の違いで、あの醜悪さは再現できなかったが、存外よく出来ているだろう?」
ッ!!!
「やめておけ、オレは今機嫌がいい、貴様のことは見逃してやってもいいんだ。久しぶりに思い出した。かつて運命を改変したあの男、醜悪な寄生虫だったはずが、いつの間にか愛おしくなっていた。喰らい尽くしたいと思っていたよ、アイツの魂、オレが欲しかった」
BLな展開はやめてください。
「びーえる?バローグの概念下に表すことができない、異世界独自の言葉か。やはり貴様は異世界人、とすれば、これはますますおかしな事態になっているな。この世界の人物だけでは対処できない問題、異物を交えてでも運命の振れ幅を拡げている。おっと、それだけではないな、貴様の精神防壁は、間違いなくあの出しゃばり女神の代物だ。あの隣接次元の主神も一枚噛んでいるとすれば、くくくっ、楽しいな、均衡の支配下のこのバローグで、均衡を乱すとわかっていながら、そこまでする理由はなんだ?ずいぶん久しぶりに楽しい事態になっているな!」
隣の次元についてですが…。
「待てっ!今いいところだ!見ろよ、ビンビンだろ?邪魔してくれるなよ!均衡と運命の対立か?違うなぁっ、違う違う!!あの出しゃばり女神でも、隣の世界の神座争いにまで出しゃばるわけにはいかんだろう!いや、それに近いことはしていたか?しかし今度はこのコマだ、代行者に直接肩入れしたとなると、流石に行き過ぎだ。それに、これはきっと神座争いなどと、単純な事態ではないだろう!きっともっと楽しいぞ!?」
………見たくないです。
「しかしまぁ、意外と単純か。隣の主神が手を貸せるような問題であり、手を貸さねばならぬ問題、そうなれば、このバローグの危機、というのが妥当なところだろう。しかしオレは何もしていないし、もはや何もする気はない。オレの知らぬ間に昇神した神が何かしでかしたか?いや、その程度ならあのジジイの均衡律を覆せるとは思えない。いやいや、まさか今代の均衡がとっくに主神でなくなって、均衡律が機能しなくなっている?あの偏屈女神なら有り得るが、おっと、それならオレの封印も解けているか!」
……………問答って言ってたよね?
おれ、喋る間が無いんだけど。
「さて、やはり本命は外敵、だろうな。異世界からの侵略、とすれば、隣の主神が出しゃばる理由もなくはない。そうなれば異世界間戦争だが、それはおかしい、それにしてはオレのところに巡ってくる魂が少なすぎる。とすれば、まだ戦争は始まっていない?いや、待てよ、魂が少ない?そしてこのコマ、精神防壁だけが強力過ぎる。まさか『魂喰らい』か!?いや!それは有り得ん!!それだけでこのバローグの脅威とはならない、それはオレが一番良く知っている!ならば、まさか、『魂喰らい』の上位の力なら…ッ!!?いるな!?くっ、くくくっ、はははははっ!!!!」
ヤバイな。
「はははっ!何かいるな!?このバローグにとんでもないものがいるぞっ!!?想像が干渉された!オレが自分の想像を忘れそうになったぞ!!この邪神たるオレの魂が干渉を受けたぞっ!!?間違いなく最上位!!!知覚妨害の最高能力、『認識不可』だなっ!!?くくくっ!当たりだっ!!忘れたぞっ!!!さて、また自分の想像を辿るぞ!まさかこのような呪いに出会う日が来ようとはっ!!」
すごいな、まさか想像で『奴』の存在を知るなんて。
すごく、邪神です。
「ふぅ、もういいぞ、だいたいわかった。もう行っていいぞ。その汚いものも持っていけ。見逃してやる」
えっ?
「行け、と言ったんだ。いい暇潰しになった。オレの気が変わらないうちに失せろ、寄生虫」
そっ、そうか、それならもう行きますよ。
邪剣もこのままもらっていきます。
おれは、後ろを向いて歩き出した。
「待て」
邪神に呼び止められた。
「貴様、なんだそれは?」
それ?
なんだろう、今度はなんだ?
また邪神の方に振り返る。
「見たぞ、見えたぞ、いい魂持ってるじゃないか、魂の破片、か?」
「見つけたぞ、強い男の魂だな。あぁ、熱そうだ、たまらないな」
「欲しい」
「貴様の熱いそれを喰らいたい」
「気が変わったぞ、なぜ早くオレの前から失せなかった?」
「気が変わってしまった、それが欲しい、その戦士の魂の破片、オレによこせ」
邪剣、約束破ってもいいか?
(……………わからぬ……我は…もう……わからぬ…)
おれはわかってる、おれは知っているぞ。
おまえは………。
さっきからずっと泣いていたんだよッ!!!!
「その戦士の魂、運命の寄生虫ごときにはもったいない!オレによこせ!オレに喰わせろ!」
戦士の魂だと?
喰らう、だと?
無明の、この壊れた魂のことか。
『奴』でもないこんな相手と戦ってる暇なんてない。
そうだよな。
壊れていても、やっぱり本物だよな。
おれなんかの勝手な涙に心を動かしてくれた無明の魂だ。
この邪剣の悲しみに応えないはずがないッ!!!
邪神をぶっ飛ばす!!!!
征くぞッ!!!




