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2キャラ目、話せばわかる

どうしよう。




『邪剣』の中の人とは、気が合わなさそう。


うるさいし。


なんか人の話聞かなさそうだし。


コイツとわかり合える気がしない。


なんで初対面でいきなりキサマ呼ばわりなの?


おれ何かしたっけ?


なんで急にキレてんの?




あっ、そうか。

『邪剣』だからか!

邪悪な感じの方なんですね!

なるほどなるほど。

じゃあしょうがない!

しょうがないから、地球生活で鍛えられた社畜力で我慢しよう。

苦手なタイプの相手でも、我慢してやっていかないといけないときって、ありますよね。

あのぐちゃっとしたドロッとした気持ち悪いやつも我慢しよう。

せっかくの異世界なのにね。

やっぱり残念だよ……。



まぁ、突き進むしかないんだよな。

こんなところで立ち止まっていられない。

このままでは、時間の経過がわからないのだ。

ダンジョン内では日が昇らない。

だから、何日経過したのかがわからなくなってしまう。

それじゃあ困るんだよ。


今日より30日後、あの戦いが起こる。


『無明の万眼』が、『奴』と戦う。


あの『31日目』以降に、この世界で何が起こるのか、おれはまだ知らないのだ。


あの日は節目だ。


5年間という定められた歳月を繰り返し、おれは『運命』を変えていかねばならない。


その最序盤の大きな転換点が、あの『31日目』なのだ。


おれはあの日、何もできなかった。


無明の命は『奴』との戦いの中で散ってしまった。


変えたかったはずのその『運命』を、変えられなかった。


それなのに。


無明は、もう運命を変えてくれたと、そう言ってくれた。


万眼は、キミのおかげだと、そう言ってくれた。


あのふたりがそう言うのならば、きっと何かが変わったはずだ。


先生の言っていた通りに、この世界の主神が『奴』の存在に気付くとするならば。


あの日、あの戦いを境に、この世界には大きな変化が起こるはずだ。


おれはそれを見届けなくてはならない。


進むべき道を見極めなければならない。


その為には、経過日数を正確に把握しておく必要がある。


この「魂の牢獄」から、脱出しなければならない。




『邪剣』に手をかける。




ズギュル!!

(キッサマァァァアアーーーッ!!!!話の途中で)



『邪剣』を少し抜いて、すぐ鞘に戻した。



ズギュル!!

(オォノレェーーッ!!!!!だから話のとちゅ)



少し抜いて、鞘に戻す。



ズギュル!!

(待てェーッ!!戻すなよッ!!!絶対戻すなよッ!!!!!我の話を)



戻す。



なにこれ、『邪剣』ちょっとおもしろいんだけど。

とりあえず、しつけが必要かなと思うんだ。

ちょっと静かにしてもらいたい。

まずは、落ち着いて話ができるようになってもらわないとな。


コイツが泣くまで、鞘に戻すのをやめないッ!


繰り返すこと十数回。

どうやら心が折れ始めたようです。



ズギュル!!

(………クッ、殺せッ!力の差は歴然であろう……我とて…御方様の使いとして誇りある身ッ!いっそひと思いに殺れい!!)



おやおや、クッころ、ですか?

今のってそんなに外道なシチュエーションだったの?

んー、そろそろちょっと話してみようかな。

頭の中で万眼先生に話しかけるのと同じ感じでいいのかな?



(………ムッ?も、戻さんのか?つ、次はいったいどんな辱しめをッ!?)


あー、あー、マイクテス、マイクテス。


(ふぁっ!!?詠唱かッ!?我の知らぬ呪文、だとぉッ!!?)


まずは一つ目の質問に答えてもらおうか。


(ッ!?………キサマァ……キサマに答えることなどないわッ!!!)


とりあえず性別は?男なの?女なの?


(せッ、性別!!?我には性別などないぞ!?なんなのだその問いは?)


ほう、答えたな?

そうかそうか、『邪剣』には性別がないのか。


(クゥッ!しまった!つい答えてしまった!!!安直な問いに答えさせることによって尋問を開始するとは……キサマ手慣れておるなッ!!)


口調は男だけど、たしかに思念の響きっていうか、頭の中で聞こえる音声のイメージみたいなのは、中性的なんだよなー。

ちょうどいい、とりあえずおれの中で『邪剣』は女の子って設定にしとくか。

自分の頭の中で、男にキサマ呼ばわりされたり、ギャーギャーわめかれたりって、そう考えるとすごいイヤだよね。

それに、チートで俺ツエーができないんだもの!!

それならせめて!

せめてハーレム展開ぐらいは夢見たっていいじゃない!?

頭の中でくらい、好きにさせてよ!!


(………何をおし黙っておる?キサマいったい何を企んでおるのだ!!?)


あれっ?

なんだろう、この違和感。

万眼先生と喋ってたときとは、何かが違う?


(フンッ、やはり我の問いには答えんつもりか…………この我が……この我がここまで格下扱いされるとはッ!!)


あぁ、やっぱりそうだ。

コイツ、おれの思考が読めてない。

なんていうか、しっかりと『邪剣』に話しかけてやろうと意識しないと、こっちの意思を読み取れないみたいだ。

たぶん万眼先生だったら、戦闘中でもない限り、さっきくらいの強さの思考は勝手に読み取って、ツッコんでくれたと思う。


(クッ、なんだというのだ?性別だと?この状況で……白々しいヤツめッ!)


オイ。


(ッ!?な、なんだ?)


ふむふむ、これくらい意識すればいいわけだな。

この思考、この今の思考は、たぶん届いていない。

コイツが弱いのか、万眼先生がすごいのか、まぁ、たぶんその両方だな。

『邪剣』の中の人って、なんか小者くさいんだよなー。


(フンッ、また黙りおって!なにか癇に障ったか?キサマが白々しいというのは真のことであろう!)


うーん、微妙に溢れる小者臭。

女の子っていう設定だと思えば、やっぱりマシになる気がするね。

フンッ、って言っちゃうとことか、ちょっとポイント高い。

なんとなくかわいそうだし、本人にいちおう質問してやるか。


オイ、お前はおれの思考が読めないのか?


(なァッ!!?ぐぬぬ………我を…この我をどこまで愚弄すれば気が済むのだッ!!?キサマは!!!)


ん、なんだ、実は読めるのか?


(わかり切ったことを聞くでないッ!!本当にどこまでも白々しいヤツよッ!!!)


あれ?

なんだよこの反応は。

読めてんの?

読めてないの?

先生みたいに記憶まで読めるようだと超イヤなんだけど。


オイ、ならば、おれの記憶は読めるのか?


(きおッ!?ふざけたことをぬかすでないッ!!!その馬鹿げた精神防壁を突破できるはずがなかろうッ!!!!それが出来るならとうにキサマの精神を侵しておるわッ!!)


あぁー、はいはい!

記憶も思考も読めないのね!

なるほど!

万眼先生が作ってくれた精神防壁のおかげか!

へぇー、ちゃんとまだ残ってるんだ。

しかも「馬鹿げた」ってことは、実はかなりすごい感じなのかな?


この精神防壁って、そんなにすごいのか?


(なんなのだキサマはッ!?さっきからとぼけたことばかりぬかしおってッ!!この我が太刀打ちできんほどの堅固な精神防壁を持ちながら、俗人のフリでもしておるつもりかッ!!?)


ふーん、それで、もし精神防壁が突破できたらどうするって言ったっけ?


(えぇいッ!決まっておろうッ!!キサマの精神を侵し、支配下に置いて、徐々にその魂を喰らってやるわッ!!!)


じゃあ、そんな感じでこの身体の持ち主の魂も喰ったんだな?


(クククッ、その通りよ!コヤツも人間の割になかなか強い精神力ではあったのだがな。ここに至ってようやく魂を喰らい尽くすことができたのだ。この上質な戦士の肉体を我のものとし、御方様に捧げるつもりであったのだが……ぐぬぬぬ………それをキサマがッ……今一歩というところでェーッ!!!!)


やだ、この子けっこうペラペラ喋ってくれちゃう!

ぐぬぬ、とか言っちゃうし、女の子設定だと微笑ましいかも。

なんか精神を侵して支配するとか物騒なこと言ってたけど、相手が女の子だと思うとたちまちご褒美になっちゃう不思議!

いや、冗談だよ?

本気じゃ、ないよ?



あっ、また亡霊が湧いてきた。

どうしようか、今『邪剣』持ってるから左手ふさがってるよ。


(ムッ、アレは!クククッ、キサマはもうお終いだぞッ!虜囚の怨霊が出て来おった!!さぁどうする?キサマがいかに強固な精神防壁を持っていようとも、並大抵の攻撃ではヤツには通用せん!!どうしてもと泣いて頼むのであれば、この我が、キサマに力を貸してやらんこともないぞ?その代わりキサマの魂を)


とりあえず、邪魔な『邪剣』を鞘に収める。

よし、と。

これで左拳が使える。

サッと払って、はいお終い。

この亡霊のシュワ消えっぷりがたまらんね!

さて、『邪剣』を抜くぞー。


ズギュル!!

(馬鹿かキサマはッ!!!早く我の力を使うと言え!!魂と引き換えに……………オイ、怨霊はどこへ行った?)


もう消しましたよー。


(消し………た?)


シュワっとね!


(シュワ?え?イヤイヤイヤ、ふざけるなキサマ、だって、え?ナンデ?オイ、怨霊はどこへ行った?)


だから消したって言ったじゃん!


(そう簡単に消せてたまるかアァァーーッ!!!何をしたのだッ!!?クッ、そうか!!我に手の内を明かさぬ為に鞘に収めおったか!!!)


いや、普通に左拳でシュワっと消せるよ?


(馬鹿者がァァーーーッ!!!怨霊を素手で殴れるなどとッ!!くだらん嘘をつくでないわッ!)


いや、殴るっていうか、もはやサッと払う感じだけどね。

なんだ?

たしかに物質透過っぽくて厄介な感じはしたけど。

あいつらそんなにやばいヤツらだったの?


(待て待てッ!「あいつら」とかぬかしたな?軽々とまるで何体も消してみちゃったかのような言い方をしたな?本来なら見ただけで発狂するほどのあの存在をッ!!)


見ただけで発狂って。

なにそれコワイ。

あー、いや、おれも似たようなこと感じたっけな。

でも大げさだろ、たしかに最初はちょっとビビったけど、今はもう余裕だし。


(なぜちょっとビビったくらいですむのだ!!?馬鹿げておるッ!!拳でサッと払っただとッ!!?ふざけおって!!)


んー、めんどくさいな。

そんなことより、帰り道が知りたいんだが、これはどっちに進めば帰れるんだ?


(ぐぬぬッ!またしても我を格下扱いしおるかッ!!って待て待て!か、帰り道?えっ?帰るのか?)


あぁ、この先に進むんじゃなくて、引き返したいんだ。

とりあえず外に出たいんだよ。

だから元来た道を教えてくれないか?


(な、なぜだ?なぜ此の期に及んで帰るなどと?ハッ!そうか!………………よし、いいだろう、教えてやる。帰り道は、キサマの右手の方向だ)


こっち?


(そう、そっち)


なんか怪しいけどなー。

まぁ、信じてみるか!

よし、とりあえず進んでみよう。


(えっ!?ちょ、ちょと待て待てッ!?ホントに帰る気なのかッ!?キサマは本気で引き返すつもりなのか!?)


んん?

なんだよ、だから、外に出たいって言ったじゃん。


(なッ、なら逆ッ!!こっちは進む道!本気で引き返したいなら逆の道だ!!)


えっ、なに、お前嘘教えやがったのか!?

オイオイ!

せっかく信じてやったのに、お前はおれを騙してやがったのか!?


(だッ!!だって!本気で帰るとか思わないであろうッ!?てっきり、帰り道を教えたら、「ほう、ならばこの逆が進むべき道なのだな?」とか言われると思ったからッ!!!キサマのような危険な存在を、御方様のもとに行かせるわけにはいかぬであろう!!?)


ふーん、そう、こっちは進む道なんだな?


(しっ、しまったアアァァァーーーーッ!!!!オノレ謀りおったかッ!!この策士めッ!いつか策に溺れてしまえェーッ!!うぅっ、おゆるしください、御方様、我には、もはやコヤツを止められませぬ!)


うるせぇな!

だから帰るって言ってんだろ!?

逆が帰り道なんだな!?

じゃあそっちに行くっつーの!!


(へっ…………?ほっ、ホントに、本気で帰るのか?)


何回言わせんだっつーの!

おれは一刻も早く外に出たいんだよ!


(なっ、なんなんだ、キサマは?キサマは我の大願を、御方様、邪神様の復活を阻止しに来たのであろう?だからこの我が、依り代として手に入れようとしたこの身体を、すんでのところで奪い取ったのであろう?そしてそのまま邪神様を害する為に、キサマのような手練れが遣わされたのであろう?)


いやいやいやいや、ちょっと待て、この子ペラペラ喋りすぎ!

っていうかなんだよこの展開!?

なに、この先って、進むと邪神がいるわけ?

よりしろ?

ふっかつ?


うーむ、ちょっと、おれの中二病魂をフル解放してみるか。

『邪剣』と『邪剣使い』のここまでの状況から導き出される、中二病的な最適解を妄想する。


点火せよ。

その魂は解き放たれる。

円環より逸脱せし星。

凶星の煌めき。

その焔は堕ちた。

回廊は満たされた。

中二病魂、解放!!


(なッ!!!?なんだこの詠唱はッ!!?なんだかわからんが禍々しい気がするッ!!!!しかし何も起きない気がするッ!!?)


うん、いいリアクションありがとう。

あれ、意外とわかり合えるかも?

なんだか『邪剣』とうまくやっていけそうな気がしてきたな。



さて、妄想の結果はこんな感じ。

『邪剣』は、御方様=邪神の、使い魔的な存在。

『邪剣使い』の精神を侵して、支配して、この「魂の牢獄」まで連れてきた。

最後まで抵抗していた『邪剣使い』の魂は、とうとう『邪剣』に喰らい尽くされて、身体を奪われてしまう。

そして『邪剣』は、この『邪剣使い』の身体を邪神に献上し、依り代として、復活させる、つまり、邪神を受肉させようとしてた、って感じか?



あぁ、そうか。




ここは「魂の牢獄」だ。




捕らえられているのは、邪神の魂。




ここは「魂の牢獄」なのだ。




捕らえられるのは、魂のみ。




ならばどうする。




肉体という、新たな牢獄に移れば良い。




そういうことか。






おけー、じゃあ帰ろう。


さっさと引き返そう。


一刻も早く外に出よう。


ただでさえ『奴』で手一杯なんだよ?





どうして邪神なんてものまで復活しそうになってんのおおぉぉぉーーーっ!!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、私、邪剣好きですw なんか可愛い♡ 邪剣はむしろ邪神のところに行ってほしいのかと思ってました。 復活させるという目的より、邪神復活を阻止されそうと思ったのね。 それだけ主人公が危ない存在…
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