1キャラ目、喋ってます
(さてさて、キミの質問にも答え終わったし、先生に付き合うって言ってくれたわけだし、これからあたしたちは『奴』と戦う、って方向で話を進めてもいいのかな?)
あの、万眼先生。
すいません正直に言ってもいいですか?
(ん〜、何を言いたいのかはだいたいわかるけど、よろしい、主神様は慈悲深いので、聞いてあげちゃおうかな)
そんな化け物と戦いたいやつなんて、いるわけないでしょ?
(ん、いるよ、無明のバカ)
いたわ。
ここにいたわー。
この身体だったわー!
(大丈夫、万眼先生はキミのこと見捨てないぞ?今の内に弱音吐いときなさい。ほれほれ、神が聞いてやんよ〜)
あー、いや、うん。
なんだろうね、この展開。
まぁいいや。
おれってさぁ、ただゲームをしてただけなんだよ。
あれそういや万眼先生には、ゲームって言って、通じるんですかね?
(ふはは、当然であろう!あたし、地球の日本って好きなのよ?良い意味で頭おかしいから!悪い意味でも頭おかしいけどね!あの世界って、このバローグの隣なんだよ?だからウチともご近所さん。あたしの『視える』能力って、他の世界を覗き見しまくったおかげで鍛えられたようなもんなのよ!)
あぁそうなんだ、なんとなく話が通じる感じはあったんだよね。
そういや、「中の人などいない!」とか口走ってたか。
なぁ、万眼先生。
おれは、ただゲームを全クリしただけで、それがいつの間にか、異世界に放り込まれて、世界を滅ぼす化け物と戦う、って状況になってたんだよ。
これ、どうすりゃいいんだ?
おれをここに連れてきた謎女神は、なーんも説明してくれなかったし。
そりゃおれも、異世界ってことでうかれて、浮き足立ってたところもあるかもしれないけどさ。
この世界がそんな状態だったんなら、最初から、世界を救ってくれ、とかって言えばよかったのに。
いや、おれはもう、ここで『奴』と戦うってことは決めたんだよ?
それがきっと、『無明の万眼』の運命だと思うんだ。
だけどさ、だからこそさ。
あの残念女神は、なんでもっと説明してくれなかったんだよ……。
(うんうん、なるほどね〜)
っておれは、この期に及んで、なんでこんな話してんだろうな。
(そりゃもちろん「元・主神様の聞き上手タイム」を発動したからだよ。懺悔もお気軽にどうぞ〜!)
あーそう!
そんなのもあるんだねー!
それはまた、ずいぶんなご都合能力じゃないですか。
(だって神だよ?話聞き届けてなんぼでしょ。キミの話も、先生はちゃんと聞き届けましたよ。その上で言わせていただきます。キミの女神を、責めないであげてね)
んー、いや、まぁ、たしかに残念女神だってことは知ってたけど。
たしかに超絶カワイイけどさ。
でも、今はもう、実際に『奴』を見たあとで、万眼先生の話を聞いたあとなんだよな。
ちょっと、責めないでいられる自信はない、かな。
(ねぇ、キミはさ、『無明の万眼』という人物を、一朝一夕で使いこなせたかな?)
な、なんだよ急に。
いや、まぁ、そりゃ無理だったよね。
準備期間30日使って、ようやく及第点、ってとこか?
万眼先生のオートモードには遠く及ばないし。
(同じことなのよ。キミの女神は、一朝一夕で、運命の女神をしてるの。だから、キミと同じでわからないことだらけ)
ちょっ、ちょっと待ってくれ万眼先生。
謎女神は、たしか自分で「ずっとがんばってきた」とか言ってた気がするんだけど。
一朝一夕なんて感じじゃなくないか?
アイツはいったい、いつ運命の女神になったんだ?
(あの子が運命の女神になったのは、『昨日』なのよ)
きっ、昨日!?
って、えっ、ちょっと意味わかんないんだけど。
じゃあ、ずっと、とか言ってたのは……。
(『昨日』だけど、『ずっと』なの)
(バローグの運命ちゃん、つまり先代運命の女神が、『奴』に敗北した。それが『昨日』の出来事)
(そのときから『ずっと』、キミの女神が、今代の運命の女神なのよ)
(ろくな引き継ぎなんてできなかったでしょうね。きっと無理矢理で、なりふり構わず運命神の力を引き渡したんでしょう)
…………その『昨日』って、いつから見た昨日なんだよ?
(その『昨日』は、今では既に31日前)
(30日前、『無明の万眼』にとってそれはキミが入ってきた日、キミにとってそれは運命改変アクションRPGを全クリした日、この世界にとっては、2本の運命楔、その始点が打ち込まれた日)
(それが30日前の日。その日から見た、『昨日』)
(キミがこの世界に来る前日、今日より31日前、先代運命の女神は『奴』に敗れ、今代の運命の女神が誕生した)
じゃあ、じゃあおれが、謎空間で謎女神に会ったとき、アイツは、「つい『昨日』運命の女神になったばかりだった」ってことか……?
(一つ、約束して)
(キミの女神は、キミが守りなさい)
謎女神の、その謎。
「運命の女神になったのは『昨日』、だけど『ずっと』がんばっている」
もしもそれが、言葉通りの意味だとするならば……。
おれにはその答えが、わかる気がした。
約束するよ、万眼先生。
『おれの女神は、おれが守る』
(よし、いい子だね。万眼先生とのお約束だぞ?)
まぁ、先生に言われちまったら、しょうがないよな。
あぁしょうがない、約束だからしょうがない。
だ、だから、残念女神のことがどうとかこうとか、ってわけじゃないし!
(よしよし、任せたよ、代行者クン)
あぁ、そうだ、万眼先生、もう少しおれの質問に答えてくれ。
まだ気になることがあるんだよ。
(もう、キミはしょうがない生徒だね。いいよ、先生の何が知りたいの?)
いや、そういうノリはもういいです。
お腹いっぱいです。
(先生はまだまだ物足りないぞ?じゃあ先生キャラじゃなくてお姉さんキャラにしとく?せっかくだからもっとかまってくれてもいいと思う!主神様をもっと崇めてもいいと思う!)
っていうか、そんなに悠長に喋ってるヒマがあるのか?
今、おれが『奴』から逃げ出して、それからどういう状況になってるんだ?
(あぁ、時間のことなら気にしなくていいよ〜。キミを気絶させてから、キミの代行者権限で、ちょこっと時間の流れに細工しといたから。実際の時間はあんまり経過してないよ〜)
ちょっ、待って万眼先生待って!
今なんか色々気になること言われた気がしたんだが!
気絶させて、って言わなかった!?
気絶「させて」、って言ったよな!?
(え?うそ〜なにそれこわ〜い!あたしそんなこと言った〜?)
あんとき、たしか何かに激突したと思ったんだが……。
まさか万眼先生、おれのこと、自動攻撃した?
っていうか、したよね?
したでしょ?
(案ずるな、急所は外してある)
当たり前だろ!!?
この全自動急所攻撃機め!!
っていうか身体は無明さんだし!
無明さん、とんだとばっちりだよ!
(不幸な事故だったよね。それもこれも全部『奴』のせい!あとキミが未熟なせい!)
うおぉ、それ言う?
それ言われるとおれ泣いちゃうよ?
(冗談だけど、泣いてもいいよ?主神様、見守ってあげちゃう)
あぁ、うん、まぁいいや、それよりも、代行者権限で時間の流れをどうたらこうたらとか言ってたよな?
ひょっとして『運命の女神の代行者』って、チート級の能力を使える感じなのか!?
(あぁ〜、ごめん期待させちゃったかな?安心して、キミは凡人だよ!チートなのは万眼先生だから)
………あぁ、そうなの。
(うん、そうなの。もともと時間とかあたしの得意分野だし、キミの代行者権限でバローグの理に働きかけて、そのままついついハッキングしちゃったって感じかな!良い子は真似しちゃダメだぞ?)
はい先生、間違いなく真似できないです!
(だから今はキミの神性を消費中です)
なにがだからなのか全くわからんし!
おれの神性ってなに?
いつの間におれはそんなもん持ってたの?
(神の代行者って、つまりは御使いよ?そりゃ多少の神性くらい持ってるわよ)
え、なに、それって、消費とかしちゃって大丈夫なものなの?
(むしろこれから『奴』と戦うわけだから、キミが神性を持ってると困るくらいよ。もしもなにかのはずみでキミが昇神でもしようものなら、『奴』に神殺されちゃうからね?キミの万眼先生のクールな仕事ぶりを、信じてくれないのかい?)
いや、そうか、それなら任せる。
おれのクールな万眼先生がそう言うんなら、おれは信じるよ。
それじゃあ、まだ時間があるなら他にも質問させてほしいんだけど、おれは万眼先生に、自分のことを『運命の女神の代行者』だって、言ってなかったはずだよな?
先生がそれを知っているのは、なぜなんだ?
(あれ、それ気になってたの?答えは簡単よ。キミが無明の身体に入った時点で、キミとあたしにも魂の繋がりが生じたから。つまり、キミの記憶を見せてもらったってわけ)
なっ……記憶を見た…だと?
(ばっちり見たよ〜。だって、いきなり無明が乗っ取られたんだよ?そりゃ相手が何者なのか調べないと)
あんな記憶や、こんな記憶も?
(全部見たよ!)
うぼわあああああぁぁぁーーーーーッ!!!!!!
(うんうん、記憶を見られた人間の反応って、いつ見ても愛おしいよね〜。落ち着くまで、主神様が見守っててあげるね)
おれを見るなああぁぁぁーーーうあああああぁぁぁーッ!!!!!
ちくしょう!
悔しいよう!!
恥ずかしいよう!!
(あのねぇ、あたしは元・主神様よ?記憶見るなんて日常茶飯事よ?赤ちゃんのおしめを取り換えるお母さんみたいなもんよ?だから恥ずかしいことなんて無いのよ?)
もう見るなよ!!
絶対見るなよ!!!
(はいはい、わかりましたよ〜。お部屋のドアもちゃんとノックしてから開けますよ〜。しょうがない子だねぇ、まったく。さて、そろそろキミの神性を使い切りそうだけど、もう聞いておくことはないかな?時間の流れが元に戻っちゃうよ?)
いや、最後に一つ。
おれの記憶を見たっていうなら、なおさら聞かせてもらわないといけないな。
万眼先生は、なんで今まで、こうして話しかけてくれなかったんだ?
(あぁ、聞かれちゃったね)
ん、聞いたらまずかったのか?
(そんなことないよ。これは、あたしの方から謝ろうと思ってたことなの)
(あたし、迷ってたんだ。キミに話しかけるべきなのか。あたしはこの世界の神じゃないし、ウチの世界も既に無い、神としての力も弱くなって、今のあたしにできることなんて限られてる。そんなあたしがキミの為すことに干渉するべきなのか、迷ってた。んーん、これは言い訳だね)
言い訳?
(そっ、ホントの理由は別)
(キミが『無明の万眼』を選んだ理由、その記憶も見たよ)
(嬉しかったんだ)
(無明の運命を変えたい、って、そう思ってくれて。あたしも同じ気持ちだから)
(だからごめんね、余計にキミのこと、あたしたちの事情に巻き込みたくなくて、「もしも『奴』に出会うことなく、無明とキミが無事に過ごせるのなら」って、そう思っちゃった。キミの行動を見守って、無明とあたしと3人で、5年間を無事に、復讐なんて忘れて楽しく過ごせたら、そう思っちゃった)
(言い出せなくて、ごめんね)
先生、それはきっと、謝ることじゃないよ。
それはきっと、有り得たはずの運命なんだよ。
(うん、ありがとう)
行こうか、万眼先生。
ここで『奴』を倒して、それから、3人で楽しく旅をしよう。
(キミも無明も、ホントに、バカだよね)
おれを守ってくれていた岩の壁が強く柔らかい光を放つ。
徐々に光が広がっていき、周囲の景色が見えてくる。
ここは、荒地か。
小川から西の湿地帯の方向に『奴』を見て、そこから逆、東の荒地まで、おれは逃げてきていた。
岩の壁がカッと輝いた。
気が付けば、地に突き刺さった岩の槍を片手に掴んでいる。
おれは立ち上がる。
『無明』が立ち上がる。
おれたちの相棒、『万眼』を引き抜いた。
『視界』拡張。
草原と荒地の境目を越えて、違和感が迫ってくる。
『視界』凝縮。
『奴』が来る。
『漆黒』を『凝視』する。
怖くないはずがない。
おれは『奴』がどれほどの存在なのか、既に知っている。
『認識不可』、『世界喰らい』、『神殺し』、正真正銘の化け物だ。
勝ち目なんて最初から無い。
それはとっくにわかっていたことだ。
「ーーーーーーーーーーーーーことだ」
それでもここでやらなければならない。
「ーーーーーーーーーーければならない」
例えこの命が尽き果てようとも。
「ーーーー命が尽き果てようとも」
おれは最後まで戦い続ける!!
「俺は最後まで戦い続ける!!」
ちくしょう、なんだよ、喋れんのかよう。
「すまんな、代行者殿」
てめぇ、無明、よかったなあ。
よかったなあ、ちゃんと喋れてよう。
おれはもうてっきりおまえは、だめになっちまってるんだど、おもっでだがらよう。
(ごめんね、代行者クン。無明の魂は、あたしの神域でずっと保護していたの。だから、身体に残ってたのは、魂の一部の、壊れてしまった部分だけだったんだ)
「奴は俺がやる」
「すまないが見届けて欲しい」
(無明にやらせてあげてね。悪いけど、身体は勝手に無明に返させてもらったよ。キミの決意を無駄にするようなことをして、ごめんね)
(でも、その決意は、これから先に必要だから)
「あぁ、君はまた泣いているな」
泣いてねえよ、わるいかよう。
「悪くない、男泣きというものだ。深いほど、よく湧くものだ」
「万眼」
(なによ、バカ)
「征くぞ」
(無明、本当に、これでいいのね?)
「無論だ」
この世界、バローグの運命を決する戦いが、人知れず始まった。




