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1キャラ目、戦闘する

チュートリアルは既に終わった。




異世界の夜。

無明さんは寝ちゃったけど、おれと『万眼』は眠らない。


『万眼』がその視界の片隅に捉えたのは、一体の歩く骸骨だった。

片手に曲刀を掴んだ、スケルトン。

ザシッザシッザシッと、思いのほか軽快な足取りで、まっすぐこちらに向かってくる。

森の中は相変わらず霧に包まれ、夜の闇は深い。

通常ならば見通しはきかないはずだ。

しかしどうやら、このスケルトンはこちらの位置を完全に把握している。

戦闘は避けられない。

少々危険は伴うが、実戦形式で『無明の万眼』の戦闘モーションを確かめることになりそうだ。


よし、無明さんを起こそう。




どうやって起こしたらいいの?




しまったぁぁぁーーーッ!!!

そうだよな!!

自分の意識が起きてるせいで勘違いしてたわ!

眠ってるときに自分の意思で起きるなんて、普通できないよね!

「頭がぶっ飛んでたら喋れない」のと同じだわ!

「眠ってたら起きられない」じゃん!!

バカなの!?

なんで誰がこんなところで寝たの!!?

ハイおれでしたーごめんなさーい!!

あーこれもう詰んだわー!

1キャラ目、死に戻り確定でーっす!


…………あー、骸骨歩くのはやい。

骨だから軽いんだろうなぁ。

骨のくせに曲刀なんて持ちやがって、危ないから捨ててこいよ。

ごめんな、無明さん。

おれの選択ミスのせいで、『奴』とやらまで辿り着けなかったわ。

おれって、この程度なんだよ。

やっぱり現実じゃダメなんだよ。

何かを達成できたことなんて、無かったんだ。

ゲームをちゃんと全クリしたのだって、「ヴァーランド・リフォージ」が初めてだった。

だから嬉しくてなぁ。

それで異世界に行くなんて。

自分は選ばれた人間なんだ、って思って、調子に乗っちゃったよなぁ。



こんなおれでごめんな。

無明さん………謎女神……。



気が付くと駆け出していたスケルトンは、曲刀を振り上げてそのままの勢いで突進してくる。

怖い。

曲刀の硬さ、金属の鋭さがよく『視える』。

動くはずのない白骨の、窪んだ眼窩がこちらを見ている。

あらゆる角度であらゆる視点で『視え』ている。

これからおれは、おれが操る身体にあの金属が斬り込まれる光景を見るのだ。

死んだらちゃんと痛い。

あの女神はそう言っていた。

怖くてたまらない。

目を背けたくても『視え』てしまう。

こんなもの、こんな岩の棒きれなんて投げ捨ててしまいたい。

駄目だ、動かない。

曲刀が振り下ろされる。








「槍の名は万眼、この相棒を決して手放してはならない」








両手に抱え込んだ槍が、曲刀を弾き飛ばしていた。

スケルトンの曲刀が宙を舞う。

槍が両腕を強く引き、『無明の万眼』は立ち上がる。

既に槍は窪んだ眼窩を突き通した。

槍の柄が骸骨の体を粉々に打ち砕く。

穂先に残ったしゃれこうべが、からりと地に落ちて、降ってきた曲刀に串刺しにされた。



岩の槍『万眼』は見逃さない。



無明の肉体は既に覚醒している。

槍に縋り付いて歩いていたときとは違い、身体中に力がみなぎっている。

相棒に迫る危険は、決して見逃さない。


『万眼』が視点を追加。

望遠、俯瞰、『視界』を大幅に拡張する。

四方八方、森に溢れた骨の軍団は、次々と「見」破られていく。

「ナーン森林」は既に『視えた』。


この森は、最早『万眼』の『視界』が支配下に置いた。

闇に蠢く骸骨の軍勢。

その骨の軋みが、無骨な刃が、軍装の奏曲が、全て手に取るように『視える』。


第1波、曲刀や直槍、手斧、長弓の内、それぞれ一種のみ携えた雑兵の群れ、総数617、それぞれ指揮官級を中心にまばらに寄せつつあり、各部隊間に連携の兆しなし、指揮官級は鎧兜に曲刀と円盾、総数21、体格は雑兵より一回り大きい。


第2波、指揮官級だった個体の武器が曲刀、短槍、長弓の3兵種になった正規兵、総数239、曲刀は腰にもう一振り、短槍は計5本、矢は平均38本、骨の馬に跨った将官級、総数8がこれを率いる、布陣は相互連携を想定。


第3波、スケルトンライダーズか、重装騎馬兵、12騎が3部隊、総数36、軽装弓騎兵、6騎が3部隊、総数18、敵将1騎、武器は斧槍、護衛2騎、直剣1と長弓1。

第1波、総数638、第2波、総数247、第3波、総数57、敵軍戦力、総勢942。


第1波は既に遠巻きに包囲が完了し、雑兵スケルトンはバラバラに『無明の万眼』目がけて殺到してくる。

第2波は足並を揃えて包囲陣を成形しつつある。

第3波は、騎馬隊だというのに森林の中を3隊に分かれ悠々と進んでくる。



今ならば、穴だらけの布陣の隙を突いて、包囲を抜けることができるだろう。

『万眼』がおれにいくつもの脱出経路を見せてくる。

だが、おれはその経路のいずれも選択するつもりは無い。

『無明の万眼』は強い。

推定難易度インフェルノ?

いや、この推定はきっと間違いだった。

強大なデメリットと引き換えに無双の武力を手に入れた、戦闘特化キャラ。

おそらくそれが『無明の万眼』の正体だ。

この身体にみなぎる充実した戦意。

おれはこの「合戦」で『無明の万眼』の戦力を見てみたい。

千にも満たぬ骨の群れなど歯牙にもかけぬであろうが、異世界初日の準備運動としては、ちょうどいいだろう。

そんな確信がある。


無明の戦意と万眼の視界。


2つが揃って初めて、『無明の万眼』となるのだ。




チュートリアルは既に終わった。


さぁ、その力、おれにも『視せ』てくれ。

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