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1キャラ目、思い出してみる

チュートリアルは既に終わった。




今だからわかる。

ホントに「ヴァーランド・リフォージ」ってチュートリアルだったのな!

現実の異世界の人物を操るとか、クソむずい。

これが本番ってことか!

でも、すごいわ。

他人の身体の感覚、なにもかもが新しい。

違和感だらけで落ち着かない。

っていうか、「落ち着かない」ってレベルですんでるのはおかしいんじゃないか?

むしろ、おれは落ち着きすぎてるんじゃないか?

だってこれ自分の身体じゃないんだぜ?

なんか、謎空間で死にかけてから、精神が頑丈になりすぎてないか?

普通もっと混乱するような気がするけど。

っていうか、思考速度が速すぎないか?

まぁいっか!

だって異世界だし!

そういうこともあるよね!!



さて、1キャラ目に選んだ『無明の万眼』は、マジでヤバイ感じのやつでした。

パネェっすよ!

このキャラの最大の長所である『視える』能力。

虫とかの複眼なんてメじゃない。

いや目だけど。

ホントに万くらい眼がある感じ。

しかも単純に自分側から『視える』だけじゃなくて、自分から離れた、俯瞰視点だとかのいろんなカメラ視点も持っている。

そしてまた厄介なことに、それら全ての『視える』情報が、同時に頭の中に映し出されてしまう。

さっき長所って言ったけど、これ短所じゃね?とか思っちゃうくらい『視え』すぎてつらい。



この『視える』能力のせいで、『無明の万眼』に憑依?した瞬間から、動き始めるまでにかなり時間がかかってしまった。

この場所がちょうど霧深い森林の中で、本当によかったと思う。

自分がちょっと動くだけでも、ものっすごい情報量が『視える』のだ。

視界がひらけていたら、頭の中がとんでもないカオスになっていたに違いない。

それで、この『視える』能力のせいかはわからないけど、無明さん、精神がぶっ飛んじゃってます。


「…………ブツ…ブツ……」


喋ろうとするとこんな感じ!

何言ってんだか全然わからない!


残念カワイイ謎女神!!

って言わせてみようか?


「……………………」


うん、ブツブツすら言ってくれなかったりね!

こんな感じで、いくらおれが『運命改変者』とはいえ、そのキャラクターの能力的な限界は超えられないってことがわかりました。



それで、『視える』能力をもたらしているのは、身長よりも長い、ごつごつした岩っぽい槍だったことが判明したわけだ。

この岩っぽい槍から両手を放すと、何も見えない。

岩っぽい槍?

槍っぽい岩か?



その名も『万眼』だ。



さて、なぜ槍の名前が判明したのか?


憑依してまず確かめたかったことは、このキャラクターの戦闘モーションがどんな感じなのか、ということだった。


『視える』能力に慣れないせいでしばらく硬直してしまっていた無防備な時間は、幸いにして、何者にも遭遇することがなかった。

いやこれ実際かなり危なかったでしょ。

いつ何どき、何者と戦闘に陥ってしまうのかはわからない。

1キャラ目の開始早々に死に戻りとか、情けないにも程がある。

きっと謎空間に帰り着いた瞬間、「お早いお帰りでしたね」ぷーっクスクス!って感じで謎女神にバカにされるに違いない。

あの残念女神にバカにされるなど、おれのプライドが許さない。

いや、許さなくもない。

うん、そうか、死に戻りすればすぐに謎女神に会えちまうのかー……。

ハッ!

ちっ、違うモン!!

べ、別に、あんなやつ、なんとも思ってないんだから!!



うん、それで、戦闘モーションを確かめておかないと、満足に戦えないわけだよね。

というわけで、この槍のように長いけどゴツゴツした岩みたいな槍って、いったいなんなんだろう?

って感じで思考していたら、思い出したのだ。

『無明の万眼』が持っている記憶を、おれの頭が思い出した、って感じだ。

そんな感じで、槍の名前が判明しました。


この槍が『万眼』だということがわかった!


ちなみに、他には何も思い出せなかったよ!!

なぜかって?

無明さんの頭がぶっ飛んじゃってるからでーっす!

難易度インフェルノすぎない?

これさ、この、関連する記憶が自動的に頭に浮かんでくる状態ってさ。

他の、頭がまともなキャラなら、憑依するだけで、もっとしっかりしたこの世界の知識が手に入った、ってことだよね!?

ねぇ、泣いてもいい?



いや、ホントに泣けてくる。


無明さん、マジで、末期だった。


『万眼』の名前は覚えている、思い出せる。


それなのに、いつから持っているのか、入手した経緯まで、記憶がぶっ飛んでいた。




『無明の万眼』、この男が覚えているのは、たった2つの記憶だけだった。






「槍の名は万眼、この相棒を決して手放してはならない」



「そして、奴を必ずこの手で殺す」






覚えているのは、その2つだけ。


『奴』とは、誰か?


わからない。


なぜ、殺すのか?


わからない。


『無明の万眼』に、お前に、何が起きたんだ?


その記憶は浮かばない。


他の道は、他の生き方は無かったのか?


そんな記憶は失われている。




『無明の万眼』は、復讐者だった。

復讐するべき相手を知らず。

復讐するべき理由を忘れ。

復讐の為に永らえて。

復讐の意志に生かされる。




おれは泣いた。


なんでか知らんが泣いた。


他人の身体の中で、勝手に泣いていた。


『無明の万眼』の、その身の内で、その身の歩んだ道を想った。


『無明の万眼』の、この身の内で、この身が向かう末を嘆いた。


無明だ。


明かりが無い。



変えてみせるさ。

おれが、お前の『運命』を。

改めて心に誓う。

おれと、『無明の万眼』の、戦いが始まる。




チュートリアルは既に終わった。


ならば、おれという存在の全霊を以って事に当たらねばなるまい。

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