紙芝居 『三人の騎士』
むかし、むかし、アルディリアに三人の騎士がおりました。
三人の騎士の名前は、バレンティア、シンセロ、バリエンテ。
誇り高いバレンティアに、賢いシンセロ、そして力持ちのバリエンテ。
三人はアルディリアの様々な村や町を見て回っては、困っている人がいれば手を差し伸べ、恐ろしい獣から人々を守っていました。
「オレに掛かればどんな大岩だってちょちょいのちょいと動かしてやろう」
「バリエンテ、そこに置いたら通行の邪魔になりますよ」
「なんだとう」
「おいおい、二人とも。喧嘩する前に大岩の置き方を考えよう」
わいわいと賑やかな三人組は、喧嘩をしても直ぐ仲直り。
まるで兄弟のように仲が良かったのです。
そんなある日のことです。
三人が通りかかった村から「キャー!」という悲鳴が聞こえてきました。
三人は顔を見合わせると、すぐさま声の方へと駆け出します。
するとそこには、大きな姿をした悪者と、悪者に掴まった少女の姿がありました。
「何をしている!」
バリエンテが叫びます。
悪者の周りには多くの村人が倒れていました。
シンセロはすぐに村人に駆け寄ると彼らの様子を見ます。
「何故騎士がこんなところに」
「騎士様!」
悪者は驚いたように大きく目を開き、少女は騎士達に向かって叫びました。
悪者を睨みつけているバレンティアとバリエンテに、村人の様子を見ていたシンセロが言います。
「村人は無事です」
「そうか、良かった。ならば、あの子を助けよう」
三人は剣を抜きました。
悪者は少女を人質に、じりじりと後ずさります。
「この村で何をしていた!」
「知れた事。この村を支配下に置き、私のこの力を研究する為の役に立ってもらうのだ」
そう言うと悪者はバリエンテに向かって大きく腕を振ります。
悪者の腕、その手の指の先から、銀色の光がバリエンテを目がけて飛びました。
その光が当たった瞬間、バリエンテは大きく目を開いて倒れ、眠ってしまいました。
「バリエンテ!」
バレンティアとシンセロは叫びます。
悪者は笑うと同じように今度はシンセロに向かって腕を振りました。
先程と同じように銀色の光がシンセロに目がけて飛びます。
村人をかばって立っていたシンセロは避ける事が出来ずに同じように光に当たり、倒れて眠ってしまいました。
「シンセロ!」
バレンティアが叫びます。
悪者の力によって、一人が眠り、二人が眠り。
やがて最後の一人になったバレンティアに、悪者は言います。
「どうだ、この力を見ただろう。無駄な抵抗はよせ。私の手下になれば、お前は助けてやろう」
けれどバレンティアは首を横に振ります。
「俺はアルディリアの騎士だ。バリエンテも、シンセロもアルディリアの騎士だ。アルディリアの騎士はアルディリアを守る為に存在する。お前の手下になど、絶対になりはしない」
それを聞いて怒った悪者は、バレンティアも眠りにつかせようとします。
「そうか、ならばお前も他の騎士と同じく眠りにつくがいい!」
悪者は大きく手を振って二人の騎士を眠りにつかせた力を使おうとします。
バレンティアは悪者目がけて駆け出しました。
その時です!
悪者が眠りにつかせていたはずの二人の騎士が、力を振り絞って悪者目がけて石を投げました。
二人は眠るまいと歯を食いしばって何とかこらえていたのです。
飛んできた石が悪者の腕や顔にあたり、少女を掴んでいた手が緩みます。
バレンティアはその隙を見逃しませんでした。
バレンティアは少女を自分の方へ引き寄せると、そのまま悪者に向かって剣を振るいました。
「ばかな……こんな事が……!」
悪者がどさりと倒れると、眠っていた村人達が目を覚まし始めました。
バレンティアは少女に「もう大丈夫だ」と安心させるように言って笑い掛けました。
少女は頷くと村人達に駆け寄ります。
「ああ、騎士様、何とお礼を申し上げたら良いか!」
村人達は騎士達にお礼をさせて欲しいと言いましたが、三人は首を横に振ります。
自分達へのお礼は村の人達の為に使って欲しいと言って三人は村を出発しました。
やがてその村では三人の騎士に感謝の心をこめて、その日を『騎士の日』とし、彼らの無事を精霊に祈るようになりました。
悪者を倒し少女と村を救った三人の騎士はきっと、今もこのアルディリアのどこかで、わいわい賑やかに旅をしては誰かに手を差し伸べている事でしょう。