プロローグ
それはある秋の終わりの頃だった。
雪国とされるアルディリア王国の、王都より北に位置するコンタールと言う町の門を、一台の乗合馬車がくぐった。
馬車の中には身の丈に合わないような大剣を抱えた少年や、にこやかに同乗者に話を振りながらもどこか影のある商人、青色の石のついたペンダントを大事そうに握っている丸眼鏡の少女に、月明かりのように輝く銀色の髪の少女など、何やら訳ありのようにも見える四人が乗っている。
この四人にはそれぞれに物語があり、それぞれに様々な出来事を歩んで行く事になるのだろうが、ここで彼ら全員に焦点を当てて行くには膨大な時間が必要となる。
なので、この物語ではその中の一人を追って行こうと思う。
馬車が止まると、中から順番に、それぞれの荷物を手に持ちながら乗客が降りて行く。
雪が止み、地面の雪はかかれているとは言え、この寒さで少し凍りついている。
滑って転ばないように注意をしながら、まずは少年が降りる。
次いで商人が、商人の手を借りて眼鏡の少女が降り、同じく商人の手を借りて銀髪の少女が降りた。
「いやぁ、さすがにコンタールは冷えますねぇー」
白い息を吐きながら商人は笑う。
鼻を赤くしながら少年と眼鏡の少女と銀髪の少女は頷いた。
「アルディリアでも北の方だってのは分かっていたけどなぁ」
「でも今日は良い方だと思いますよ。雪が降ると、酷い時には腰まで埋まるらしいですし」
「雪かきが大変ですわねぇ」
「ですねぇ」
そう言って笑い合い、コンタールを見回す。
少しの沈黙の後、四人は名残惜しそうに別れの挨拶をした。
それもそうだろう。乗り場こそ別々だったものの、コンタールに到着するまでの間、三日間は一緒だったのだ。
友情とまではいかないが、三日間を共に過ごしたとあって、少なからず寂しさも覚えていた。
コンタールはアルディリアの町の中では小さい方なので、またどこかで会えるかもしれないが、別れは別れだ。
「では、ここで」
「ええ、ではまた」
始めに歩き出したのは商人だ。
彼に続くように少年と眼鏡の少女も、それぞれ別の方向へと歩き出す。
最後に残った銀髪の少女は三人を見送ってから、ふと、灰色の空を見上げた。
また雪が降るかもしれない。
そんな天気であるのだが少女の心は晴れやかだった。
「ようやくコンタールに来ましたのね、わたくし……」
銀髪の少女は感慨深く呟くと、少しだけ目を閉じた後、左手に大きなトランクを、またその右手にもチェロケースのようなトランクを持って歩き出した。
少女の名前はセレッソ。
この物語の、いわゆる主人公という奴である。