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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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君も一方通行

 後輩が窓の外を見ている。その姿を僕は見ていた。校庭に熱い視線を向ける後輩が誰を見ているのかは知っている。その視線がけして自分に向けられないことも、知っていた。

「根岸。行くよ?」

「あ、ああ」

 友人に呼ばれ、後ろ髪引かれながら僕はその場から離れた。

後輩は小野寺沙織といった。軽音部の後輩で何も出来ない初心者だった彼女だが、もう何も出来なかった一年生ではない。進級して後輩への指導もしっかりしている。去年、僕が手ほどきをしたことを彼女が今度は新入生に教えていくのだ。そう思うと不思議な気分になった。

「根岸ー?」

「今行く」

 友人の長沢に追いつくと、彼が笑う。

「また後輩ちゃん? あの子っていつも校庭見てるよね」

「知ってる」

「知ってるんだ。何かしないの?」

「しない。見てるだけでいい」

 長沢がふーん、と首を傾けた。あの子が誰を見ているかなんて一年ずっと見ていたんだ。知っているに決まっている。そして見た目以上に積極的な彼女の性格もよくわかっている。

「木場は部活してる時は格好いいのにねえ」

「……そうだな」

 この友人はどこまで知っているのだろう。後輩のことはともかくその想い人まで知っているとは思わなかった。

「難しい関係だなあ」

 困ったような顔をつくる友人に僕は目を動かす。

「何がだ」

「うーん。色々。根岸も木場も後輩ちゃんも同じ方向しか見てないから。見てる方はいじらしいというか、滑稽というか」

「冷静に分析するなよ。哀しくなる」

 かわいい後輩に懐かれて単純に嬉しかった。気付けば目で追うようになっていた。だが告白する勇気もない。そのつもりもない。

「もう少し欲を持ってもいいと思うよ。根岸はやさしすぎるんだ」

「長沢に言われるとは思わなかった」

 この友人こそ欲などなさそうに見える。笑顔を絶やさず、心地良いリズムで話をする友人。

「それは見込み違いだったね。言う時は言わないと損をするよ。この場合は言うべき時だと思っただけさ」

「それでも僕は言わないさ。あの子が笑っているだけでいいんだ」

「やっぱり欲がない」

 嘆息した彼はふと足を止め何かに気づく。前からこちらへ向かってくる女子に目をやった。五人ほどの集団が歩いてくる。そのうちの一際背の高い女子に視線を留め、次いで僕に移し、にっこりと微笑んだ。

「根岸、後輩ちゃんの泣き顔を見たくないなら一つ教えてあげようか」

「は?」

 僕の間の抜けた声に長沢は珍しく含んだ笑みに表情を変える。

「一方通行なのは皆同じみたいだ。根岸も木場も今の子も、ね」

 長沢が言う意味を知ったのはそれから程無くのことだった。


 僕は小野寺を想う。

 小野寺は木場を想う。

 木場は三嶋を想う。

 そして三嶋は――?



南天台高校三年六組 根岸明弘(ネギシアキヒロ)

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