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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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憧憬


 五月に入ると早々に文化祭の話し合いが行われる。意見を出す者は少数で皆のやる気のなさが窺えるのだが、そこは学級委員の腕の見せ所。神城君が無造作に指名して無理矢理意見を出させていた。最初に月岡さんを指名すれば、彼女は当然劇がやりたいという。続けて史を当て、賛成意見を叩き出す。そうして気がつけば皆、出し物は劇で決まりという雰囲気を醸し出していた。

 教卓に手を置いて満足そうに、神城君は微笑していた。彼はイベントのたびに実行委員に参加している。すごい人だ。どんな劇を企画するのかと思っていたら、神城君が私にくるりと目を向けた。

「……と三嶋も出てもらうぞ。やるからには妥協は許さん」

「え」

 自分の名前に反応したが、その前を聞き逃した。

「だから、吉田と三嶋にも出てもらうよ。客入りがいいからな」

 開いた口が塞がらないっていうのはこういう時に使うんだろう。吃驚した。私自身はあまり目立つことは得意じゃないんだけど、後ろから史サンにこっそりダメ押しされた。

「残念だけど逃がさないよ。あたしもアンケート一位を狙ってるから」

 全校最優秀出し物グループには教師陣か生徒会から希望の品を一つ頂けるのだ。ちなみに昨年最優秀クラスになった三年のあるクラスは教師陣から一日自習権を奪取した。ただしクラスで一品だからそれを巡って駆け引きも色々あったらしい。史サンは一体何を望むつもりなのだろう。

「神城が脚本を書いてくれるんだってさ。実は既に根回しは万全でね。生徒会でも受理されているから。本当に逃がさないよ」

 恐ろしいことをサラッと言う。もう神城君と史サンの間で協定が結ばれているなんて、……怖くて後ろの席が振り向けないよ。

「三嶋はともかく、親友はやる気十分のようだぞ。三嶋なら舞台に立つだけで女子生徒から黄色い悲鳴が上がる。心配するな」

 史サンのさらに背後を窺うと幼馴染の勇希は隠しきれていない笑み浮かべている。どうやらこの劇に参加することに異議を唱えるつもりはないらしい。

 勇希は私と違って女の子らしい。小さくて、可愛いものが似合って、私の憧れの姿を持っている。彼女が劇に出るのなら、きっとその役柄は可愛らしい守られるための姫の役なのだろう。けれど私の場合は全く逆。背ばかりやたら高くて、本当はひらひらした可愛いスカートだって着てみたいのに似合わない。髪も短いから一見すると男のようにも見られてしまう。私が似合う役はさしずめ姫を守るための王子なのだろう。名前ばかりが女らしくても名前負けしていては仕方がない。

「小町。何か馬鹿なこと考えてるんじゃないでしょうね」

 私の視線に気付いたのか、勇希が眉を顰める。

「女らしいとか女らしくないとか、細かいところに拘ってるんでしょ。あんたが気に入らない役を指定してきたら、私が神城君を蹴り倒してあげるから大丈夫よ。史が心配無用と言ったなら無用。大体この二人に加えて月岡がいるのよ、役の配置なんて最適なもの以外ならないわ」

「でもさ、勇希」

「でもも、だっても、何でもないの。絶対楽しいからやるの。いい?」

「勇希ってば……」

 史サンが私たちの会話にけたけたと笑う。

「本当に面白いな。見た目と性格が一致してない。でもだから二人の名前はぴったりで面白い」

 何がぴったりなのか。史サンは尚も笑みを浮かべて私たちを交互に眺めた。

「男前な吉田の『勇希』と、女らしい三嶋の『小町』で釣り合い取れてる」

 女らしいなんて初めて言われて私は少し恥ずかしくなった。つい目を逸らしてしまう。

「……いいね。あたしは三嶋みたいな女の子が大好きだよ。可愛くていい」

「かっ!」

「三嶋みたいな女の子が私の憧れなんだ。格好よさと可愛さが同居する。うん、羨ましいよ」

 私が驚きに史サンを見ると、彼女はやさしい微笑を湛えていた。

 私の憧れは勇希だった。それはきっと一生変わらないんだろう。でも私を憧れだと言ってくれる人がいる。ちょっぴり自己評価を上げてもいいと思った。それが嬉しくて、こそばゆくて、私は自然と笑みを浮かべていた。


南天台高校二年三組 三嶋小町(ミシマコマチ)

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