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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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未来のボクラへ

 進路希望の紙には無難な大学名が並んでいる。覗き込んだ用紙は、本郷のものだ。

「はあ」

「溜息? いいとこ行くつもりなんだな、本郷って」

 並んだ大学は一流とはいかなくても、底辺ではけしてない。そこそこの大学で、本郷の成績を考えれば納得も出来た。

 だが、本郷は不服そうだ。

「いいとこな訳あるか。なんもまだ考えてないよ。とりあえず並べただけ」

「そう? いいんじゃないの?」

「ダメダメ。どーせまたすぐ変えるから」

 ひらひらと手を振る本郷に勿体無いなあと思う。適当に志望校を並べることだって出来ない人もいるっていうのに。

「それなら花園は?」

 本郷が僕に振り向く。机の上で腕を組んで首をめぐらせている。僕はその質問に軽く首を傾けた。僕の進路は決まっている。それが嫌いなわけじゃない。だけど少しだけ夢をみることも許されないことを考えると、さみしいなあって思う。

 薄く笑んでやると、本郷は眉を顰めた。

「ま、適当に決めてるよ」

「……ふーん」

 言いたいことはあるようだが、突っ込むつもりはないらしい。そういうところが本郷のいいところだと思う。言いたくないことの一つや二つ、僕にだってある。それに言いたくても言えないことだって、たくさんある。

「花園は経営学部なんだろ?」

 深谷が進路用紙を指で摘まんでひらひらさせながらやってきた。どうやら今の会話を聞いていたらしい。

「どうやって決めたんだ?」

「どうやって?」

「そ。俺も迷ってるんで参考にしたい」

 相変わらず真面目な男だ。けれど僕の答えはあまり参考にならない気がする。それはだって、こういうことだから。

「約束したんだよ」

「約束?」

 下から本郷が、横から深谷が疑問を口にする。

「親御さんと?」

「なんで?」

 不思議そうな顔の二人がひどくうらやましく見えた。

「兄貴と、昔約束したんだ」

「花園先生と?」

「うん。その兄貴と」

 兄はこの南天台高校で校医をしている。やさしくて若い大人の先生だと、女子にはもてはやされ男子には気安い存在になっている。

「約束ねえ。何、先生の代わりに大学行けとか?」

「そんなとこ。まあ、単にどっちが会社を継ぐかってことなんだけどね」

 一応小さいけれど父は会社を持っている。昔、兄貴が進路を考える時になって二人で決めたんだ。僕が会社を継ぐ。兄貴は僕のサボートをする。

「そういえばお前の親父さん、そうだったな」

「ついつい忘れてしまう」

 この二人には親のことを話しているのだが、話した時もあまり驚かれなかった。普通はもっと驚く気がするんだが、まあそれはそれで構わないけど。

「けどどうやって決めたんだ?」

「うーん……」

 どう言おうかと僕は目を一寸閉じる。理由はある。だけどそれは僕たち兄弟にしか意味がないものだ。

「まあ、兄貴よりも僕の方が得意そうだったということかな。一応理系だし、僕」

 簡単に言ってしまえば才能の差だ。兄貴はやさしいし、頼りになる。だけど大勢の人の上に立つのを好まない。僕だって好むわけではないけれど、やろうと思えば出来る。それに誰かを支えることは出来ても自ら立つ積極性をあまり持っていない。そういう差だ。

 それに兄貴は別にやることがある。

「ふうん。俺はあの人でも大丈夫だと思うけどな」

 深谷が不思議そうな顔をする。

「でも、そんなんで決めちゃっていいの? やっぱりやめたいとか思わないわけ?」

 少しだけ心配そうな本郷の様子に僕は笑みが零れそうになる。やめたい、なんて思わなかったわけがない。

「いいんだよ。興味がないわけじゃないからさ。それよりもお前らはどうするんだ?」

「あー、俺はとりあえずこのまま出すよ。また変える可能性はあるけど」

 ひらひらと紙を揺らしながら本郷がはは、と笑う。疲れたような笑みにあれでも相当悩んだのだろうと推測した。

「深谷は?」

「俺も大学には行くよ。まあ、その間に身の振り方が決まればいいんだが」

「身の振り方って?」

「実を言えば、俺は祖父さんの跡を継ぎたいんだよ。祖父さんと同じように書で生計をたてられたらいい」

「へえ」

 驚いた。深谷はてっきり体育大に行くのかと思ってたのだけど、もう一つの趣味の方がメインだったらしい。だがそれも深谷らしい。

「難しいのは十分承知だが、可能性はゼロじゃないだろう」

「そういえば書道部って意外に入選とかしてるよな。掲示板にこそっと書いてあった」

 本郷の言葉に僕も頷く。連絡掲示板を時々見ると、色々な部活動の状況が書かれているのだが、そこに書道部の名前も何度か見かけたことがある。

「皆、一応考えてるんだなあ。俺どうしよう……」

 僕と深谷の状況に本郷が溜息を吐く。ただ漫然と進学を選ぶ人だっているだろう。そんなに深刻に考えなくてもまだ大丈夫だと僕は思うが。

「まだ時間はあるし、大丈夫だろ」

 僕の思考を読んだように深谷も言う。そこに浮かぶ表情はどこかやさしげだ。

「だって、何処に行っても何をしてても本郷は本郷のままだろ。好きにやればいいさ。それに今も大事だ」

 珍しく励ますような言葉に、僕と本郷はちょっと顔を見合わせた。なんでもない顔で目を瞬かせる深谷に、僕たちの目許も自然和らいだ。

 進路の問題は僕たちにとって大きな問題だけど、でもそれ以上に今のこの時間もとても大切なものだ。例えばこうやって笑い合える友がいること。例えばこうやって笑い合える日々があること。

 その尊さを実感するのはきっと、ずうっとずっと後になるんだろう。それでいいと僕は思う。


南天台高校二年五組 花園拓真(ハナゾノタクマ)


とりあえず春夏秋冬編はここまでしかございません。読んでくださりありがとうございます。

この後はちょっと違う形式でのものをと思っています。

本編まだ完結してませんので、いつの日か割り込み投稿にて完結させたいと思います。いつになるやら、ですが…。

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