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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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勝てそうにない相手


 新年明けの学校で、最初に会った人物は贔屓目に見ても好意を持てない相手だった。

「よ、よお、橋口。あけましておめでとう」

 五組の本郷。僕はあまりこいつが好きじゃない。無言で横をすり抜けると、背後から腕を掴まれた。

「挨拶ぐらいしたらどうだ。こっちだって、そんな態度とられたらやりにくい」

「別に。僕と本郷は友達じゃないじゃん」

「……そりゃ、そうだが。顔見知りなんだから」

 見下ろされるのは気分がよくない。新年最初はやっぱりニキチに会いたかったのに、よりにもよってこいつだなんて運がない。それはこいつも同じなのだろうけど、わざわざ挨拶なんてしたくもない。

 僕の腕を掴む手を振り払って、自分の教室へ足を向けた。本郷に構っている時間が無駄だ。

「おい……」

 背後から嘆息する音がした。でもそんなの、僕には関係がない。あいつは言わばライバルなんだ。どうして僕が仲良くしなくちゃいけないんだ。そんなの変だろう。廊下を進んで、教室の手前で卓郎に会った。本郷と同じように新年の挨拶をしてきたので、今度は僕も返した。

「おめでとう」

「おう。ところでさ、今度また募集があるぜ。今、優から聞いたんだけどさ。紗斗はまたニキチを撮るのか?」

「た、卓郎!」

 ぎょっとして卓郎の口を塞ぐ。

「はにふんはよ」

「何するんだじゃないよ。どっからニキチにばれるかわかんないんだから、やめてよ」

「ばれるって、その写真で賞もらったんだからいいじゃん」

 僕の手を剥がして、卓郎が誰に聞かれるとも知れない場所で喋りだす。

「俺なんか一回も掠ったことないんだぞ。いいじゃん。あの写真は確かによかったし、隠すことないだろ。テーマがちょっと、アレだけど、ニキチだったら気付かないって」

「そういう問題じゃないの」

 僕がもう一度卓郎の口を塞ごうとしたけど、卓郎がひょいと避けた。

「どういう問題だ? あ、もしかして本郷に知られ……もが!」

「卓郎! 頼むからもう口開かないで」

 もがもがと呻く卓郎に僕は真剣な表情で迫った。一瞬大人しくなったかと思えば僕の後ろを見て、またさらに騒ぎ出す。もがもがと聞き取れないので仕方なく手を離すと、卓郎が後ろを指差した。

「本郷」

「うわあ!」

 振り向くと本郷が立っていた。

「なんでいるんだ、お前」

「二吉の名前が出たから気になったんだよ」

「い、今の話聞いてた?」

 本郷がこっくりと頷いた。血の気が引く。

「ふーん。やっぱり橋口って二吉が好きなんだ。やっぱり」

 さ、最悪だ。ニキチに知られたくないのはもちろんだけど、こいつにだって知られたくなかった。僕よりも背は高いし、ニキチとも気軽に話せる奴になんか知られたくなかった。どうせ鼻で笑われるのが関の山だ。僕は髪の中に手を突っ込んでぐしぐしゃに掻き回した。本郷が僕を見ている。その口がゆっくり開いた。

「じゃあ、同士だな」

 は?

「二吉って鈍いだろ。まあ、お互い気長にアプローチしようぜ」

 本郷が僕の右手を勝手に掴む。その上ぶんぶんと上下に振って、あっさり離した。

「んじゃな。今度からは挨拶くらいしろよ。そうじゃなきゃ俺が馬鹿みたいだろ」

 面食らう僕を置いて爽やかに笑って去っていく。その背中に僕は曖昧な返事をした。傍で見ていた卓郎と目が合う。意地悪な笑みを浮かべて、卓郎が僕の肩を叩いた。

 深く長く、僕は溜息を吐いた。



南天台高校二年九組 橋口紗斗(ハシグチサト)

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