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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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春待ちの朋友


「進級したくねえな」

 そう呟いた島は同じクラスで同じ部活の友人だ。島がそう言った理由を俺は知っていたので共感するにはいたらなかった。

「一生、愛子さんのクラスでいいのにな」

 島は担任の女性教師に懸想していた。

「………」

 なんとも返答しがたい答えに俺は無言で眉を顰めた。我らが三組の石森愛子担任はさばさばした性格と、比較的生徒に年も近いこともあり人気の高い教師である。女子にも男子にも自然体で接する愛子さんに俺も好意を持っている。ただし、それは大多数の生徒が持つものと同じ教師への親愛の情である。なのに島は違った。

「春休みに毎日会えるだろうよ」

 俺と島が所属するバスケットボール部の顧問は件の石森担任だ。といっても女子部の顧問だが、結局練習場所は同じ体育館なのだからほぼ毎日会うことになるのだ。

「なあ、何がそんなにお前をかきたてるんだ」

 兼ねてから訊いてみたかった。島が愛子さんを好きだと知ってからずっと。

「そんなの俺だって知るか」

 しかし島の答えはすげない。つり気味の目を細めて島は俺を不審そうに見やる。

「気づいたら目で追うようになってた。好きになってた。理由なんかない。河野はあるのか、小野寺を想う気持ちに理由なんて」

 何を無粋なことを、とでもいうように島は当然のように答える。まさかそんな答えが出てくるなんて思わなくて、俺は目を丸くする。考えてみれば俺の小野寺を想う気持ちも島と大して変わらない。気づいたら気になっていた。切っ掛けなんて理由にならない。好きだ。その気持ちだけで小野寺に近付きたいと思ってた。

「お前は何をぐだぐだしてるんだ」

 島が俺を真っ直ぐに見つめる。つりあがった目は彼の特徴だけど、無愛想にみえて実はよく笑いよく喋る男だと俺は心得ている。

「俺が愛子さんにこうやって毎日会えるのも、河野が小野寺と何とかなれる機会も、あと一年だけだ」

 風を切って島の手が俺の額にゴツッとおろされる。

「俺は動く。河野も動けよ」

「……俺はお前じゃないんだ、簡単に言うなよ」

 額をさすりながら島を睨めば、彼は平素の無表情からは想像の付かない無邪気な笑顔を作った。島はすでに幾度も愛子さんに気持ちを伝えている。相手にされているやら、されていないやら微妙なところだが本人は好意的に解釈している。

「でも、ホントに後少しだ。受験もあるしな。…愛子さんとも来年が勝負だから」

 笑んだまま島は真面目に答える。俺にはない積極性が羨ましい。

 そして眩い。俺は島の眩さに目を眇めた。


南天台高校二年三組 河野宙太(コウノソラタ)

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