手の熱
寒くなったと思う。そろそろ手袋が必要かな。両手を擦りながら駅から学校までの道のりを歩く。
白い息はまだ出ないけれど、吹きすさぶ風は日に日に冷たくなっている。指の先が冷えて動かしにくい。
「あれ、涼? 今日は早いね」
後ろから自転車のベルが鳴って首をめぐらせれば、横に並んで自転車から降りた梶栗君。
「今日英語の小テストなの。勉強しようと思って」
「偉いね。そういうとこ、努に見習って欲しいよ」
笑う彼を見れば、手袋が装備されている。自転車は風を切るから寒いのだろうなんて思ったのだけど、熱いと言って彼は手からそれを外した。
「寒くないの?」
「止まると熱いんだ。ああ、どうぞ。使いなよ」
私が拝むように手を合わせているのを見て、梶栗君が手袋を差し出した。どうしようかと一瞬迷ったが、有難く受け取る事にした。焦げ茶色の皮の手袋。指を中に差し入れれば彼の温もりがまだ残っている。
「あったかい。ありがとう」
礼を言うと梶栗君は女子を魅了する微笑を浮かべる。
「どういたしまして」
こうやって彼に微笑されるとつい心臓が高鳴ってしまう。罪作りだなぁ、なんて思いながら他愛ない話をしながら学校まで歩いた。校門に着く頃になるとさすがに梶栗君も手が冷えてきたのか息を吐いて温めていた。
「もう、私はあったまったから返すね」
手袋を外して渡すと、彼は少し困った表情をしたけれど結局受け取った。もうすぐ校舎だ。あの中に入ってしまえば風は当たらない。そう思って門を通り抜けたら、後ろから乱暴な足音がして振り向いた。
「慎吾のアホ。俺を置いてくな。あ、涼! おはよう!」
田村君だ。梶栗君には睨み、私には満面の笑みをくれる。田村君のこういう率直なところが好きだ。
「おはよう」
私の返事ににこーっとさらに笑う。嬉しすぎてたまらない。そんな感じの表情に私の方こそたまらない。
「あ。手ぇ、寒くない?」
「大丈夫だよ」
先刻まで梶栗君の手袋をしていたから本当にまだ寒さは感じなかった。けれど田村君は私の手を取り、ぎゅっと力強く握った。びっくりしているとさらに、息を吹きかけられる。
「た、田村君?!」
「こうすれば、あったかいでしょ?」
確かにあたたかい。でも今度は熱い。しかも手もだけど、私の顔も。さっきまでずっと寒かったのに彼のこの行動だけで寒さなんて吹き飛んでしまった。しっぽを振る犬のように私に輝く目を向けてくる。傍で梶栗君が忍び笑いを漏らし、さらに私の熱を上げる。
もう、かなわないな。
南天台高校二年三組 佐川涼




