素直に喜べたなら
新生生徒会の面子に私が含まれていること、すごく不思議に思う。
数日前に松屋崎君が私の前に現れた。彼は強張った顔をして、私を生徒会に誘った。それを私は二つ返事で引き受けた。その時の松屋崎君のほっとした顔に私も笑顔になった。
だけど何故私なのかという真相を聞いたら複雑な気持ちになった。
「松、アイス買ってきて。暑い」
まだ暑さ厳しい休み明け。だらりと机の上に突っ伏して、彼女が松屋崎君に命令する。それは前からの生徒会の人たちには当然のことのようで、誰も突っ込まない。
「イチゴのカキ氷が食べたいー」
「はいはい。他は? 高本は?」
「僕はカップアイスのバニラがいいな」
「りょーかい。じゃ、ちょっと行ってくる」
何よりも松屋崎君本人がそれを受け入れていることが腹立たしい。
諦めたように溜息を吐いて、当たり前のように生徒会室から出て行く。閉じられた扉をつい怨めしく睨んでしまった。どうして誰も彼女をたしなめないのだろう。それは彼女だから許されるのかな。そう思うとちょっと哀しくなった。
「藤田さん、松なら気にしないでいいよ」
書類の束を整理しながら私を見ずに答えたのは高本君だ。私と同じく新生生徒会の一人であるはずなのに、既にこの場所に馴染んでいる。私一人だけ何か居場所がないみたい。彼の科白は到底頷けるものではなかった。けれど、続く言葉に呆気に取られる。
「松、休憩まだ取ってなかったから」
「え?」
「ああでもしないと休みなしで働く。だからいいんだよ」
確かに真面目な人柄は知っていたけれど、幾らなんでも休みなしで働く人はいないだろう。
「それが、前例があるらしいんだ。まあ、一度ぶっ倒れたら無茶はしないけど、それでも続けようとするからね。史の我儘が松には丁度いい休憩になる」
史、と呼ばれた彼女は話を聞いているのかいないのか、両手を無造作に垂らしてぐったりしている。そこにはとても気遣いなんて見られない。
「史」
「なにー?」
「藤田さんが困ってる」
高本君がそう言うと、やや間を置いて彼女が勢いよく起き上がる。そしてしっかりと私を見た。
「ごめん、藤田」
「えっと、……何が?」
何がごめんなのか、わからなくて首を傾げてしまった。だが彼女は急にハキハキと喋りだす。
「来たばっかでわかんないよね。怠けてた。ごめん。何かわからないことあったらすぐ言って。あたしでよければ答える」
「あ、うん。ありがとう」
意図したわけではなく、自然と答えていた。そして彼女はそんな私に嬉しそうに笑う。
「藤田がいてよかったよ。松も藤田にまで振られたら立ち直れない所だった」
「振られる……?」
何のことだろうと呟いてそれが副会長のことだと気付いた。色々な人に断られていたのは知っていたけど、そんなに落ち込むほどたくさんの人に断られていたのだろうか。だって松屋崎君は結構友達が多い。人当たりがいいから嫌っている人も少ない。全員とはいかなくても私よりも先に声を掛けたなら、やってくれる人もいたはずだ。
「……まあ実際、結構振られててね。部長と掛け持ち出来ないからってのもあるけど、無理強いはしたくなかったから。だから藤田が丁度――って言ったら言い方悪いね。藤田に声を掛けてないことに気付いてさ。よかったよ」
思わず目を丸くする。そんな風に感謝されるなんて変だ。私を誘うように言ったのは彼女だと聞いた。松屋崎君が自らの意思で誘ってくれたわけではないのだと知って、私はちょっとへこんだ。
でも、彼女は私に感謝をするのか。
「ありがと、藤田。楽しくやろうね」
言いながらもう顔が笑っている。彼女は心底この生徒会が好きなんだ。そう思うと、子ども染みた嫉妬のようなものを感じていた私は顔から火が出そうなほど恥ずかしい気持ちになる。
今まで噂でしか聞いた事のない彼女だけど、噂よりもずっといい人だ。勝手に作り上げていた人物像は実物とは何か違った。
「う、うん、楽しいものにし……」
楽しいものにしようね、と答えようとして生徒会室の扉が音を立てて開かれた。松屋崎君が帰ってきたのだ。彼女も、高本君も松屋崎君におかえりとやさしく笑いかける。それに私も自然と微笑むことが出来た。けど――
「おっそいぞ、松ー! あたしのカキ氷ー!」
「ちゃんとあるから落ち着け。ほら」
彼女にカキ氷を手渡す松屋崎君の表情が今まで見た中で一番やさしいものだと気付いたら、やっぱり――何か腑に落ちない。
南天台高校二年四組 藤田悠子




