時と銀杏
来週から新しく生徒会が生まれ変わる。経理の仕事を史ちゃんに引継ぐ準備をしながら、生徒会室の窓から外を眺めた。中庭の銀杏の葉がはらはらと舞っている。その落ちていく葉の中に誰かが立っていた。
「西岡君、何やってるの?」
西岡君が私の声に顔を上げる。
「ちょっと」
そう言って銀杏の幹に手をついた。その行動を見ていると、彼はその幹をまるで励ますように叩く。銀杏と友達だとでもいうのかな。
暫くすると彼は生徒会室に戻ってきた。手には銀杏の葉が握られている。
「銀杏に挨拶してきた」
そう言う彼の鼻頭は近頃冷たくなってきた風のせいか、少し赤い。
「あの銀杏の木、会長の机から丁度見えやすい位置にあるんだ。ここから見るのもあと少しかと思うと感慨深くてね」
柄にもないことを彼は珍しく口にした。確かに銀杏は会長席からよく見える。
「松君は西岡君の後をきちんとやってくれるよ」
「松は真面目だから。俺と違って。副会長が決まらなくて泣いていた」
「大丈夫、松君は人望があるから。史ちゃんもいるしね」
史ちゃんに惚れている松君なら、彼女を失望させないために何でもやってくれそうだ。
「ところでその銀杏はどうするの?」
西岡君は手の先で玩んでいた銀杏の葉を私に向けた。キョトンとする私に彼は言う。
「最期まで俺についてきてくれた土岐に餞別。こんなものしかやれないで悪いけど」
頭をカリカリと掻きながら彼は差し出す。
「しおりにでもしてよ。受験勉強のお供に」
時々、彼はこんな風に私を喜ばせることをする。その心遣いが嬉しくて、そして申し訳なくも感じてしまう。
「……これでも気づかないか」
「え?」
呟かれた言葉の意味がわからずに首を傾げれば、彼はなんでもないと言って私に銀杏を押し付ける。
「ほら。土岐、卒業までまだ時間があるし、よろしくな」
「ええ。よろしく」
何が言いたいのか分からぬまま、私は彼に応える。私の手に納まった銀杏の葉が彼の体温を静かに主張しているのにも気づかないままに。
南天台高校三年四組 土岐二葉




