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教室の裏側  作者: ケー/恵陽
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青空の続き


 二年前の体育祭で、約束をした。

 同時にゴールして笑いあったあの暑い日に、約束をした。けれど来年決着をつけようと言ったあの日から、あまりにも時間が経ってしまった。

 彼女は覚えているだろうか。彼女は忘れていないはずだ。私が記憶している、ならば薫も必ず覚えている。一年も姿を消していた、薫。でも確信していた。だから本当に薫が約束を覚えていたことを、嬉しく思った。


 一周200メートルのトラックにはバトンを待つ選手が並んでいる。その中に私もいる。そして本来なら三年生女子から選出されるリレーに一人混じった二年生も。

「圭子、調子はどう?」

「上々よ。薫がいない間もしっかり走ってたからね。そっちこそ、午前中に走りすぎてばてたんじゃない?」

 薫の目が私を捉えて、眇められる。そして同時に笑い出した。こんな会話をするのも一年ぶりだ。

「あっはは、薫ってば変わってない」

「圭子こそ。全然変わんない」

 約束をした二年前、その翌年には叶えられるはずだったのに、彼女はこの学校からも世界からも姿を消した。おかげで約束は一年も延長されてしまった。だけど、今、漸く、果たすことが出来る。

「ちゃんと走ってたでしょうね」

「もちろん。部に戻ってなくても、それはやめられないよ。今度こそ決着をつけよう」

「ええ」

 大きく笑む薫に私も頷いた。今日もあの日と同じように青空が広がっている。この下を私たちは走る。

 ギャラリーから歓声が上がって、走者に視線を移した。ちょっと目を離した隙に、一位の走者が入れ替わっている。しかし離されたわけではない。すぐ後ろに二位の走者が食らいついていた。

「二年男子は接戦みたいね」

 バトンを貰う相手を確認しながら、私はトラックへ入る。僅かに薫のチームが勝っている。並んでバトンを待つのも懐かしい感じがした。

「圭子」

「何?」

 顔を向けると薫は以前と変わらない、でも少しだけ大人びた笑みを浮かべた。その笑顔からは楽しさが滲み出ている。

「負けないよ」

 楽しい。すごく楽しい。薫と走れることが嬉しい。薫と戦うことは面白い。心の奥底から溢れてくる感情は、留まることを知らない。

「もちろん」

 顔に、態度に、走りに溢れていく。走れるという楽しい喜び。

 そしてバトンはいよいよ私たちの手にやってきた。汗まみれで息を切らす前走者からバトンを渡される。先に受け取ったのは残念ながら薫の方だ。しかしその差はさほどない。

 頼む、と渡されたバトンをしっかと握り、小さな背中を追う。応援する声が聴こえる。荒い息遣いが聴こえる。私が土を蹴る音が聴こえる。薫の、――肩に並ぶ。


 最終アンカーにバトンを渡してしまうと、私も薫もその場でどうにか息を整える。言葉を発したいのに、呼吸をするのに必死でそこまでする余裕がない。アンカー走者がトラック半分を過ぎたあたりで、漸く薫の顔を真っ直ぐ見ることが出来た。どうやら薫も同じだったようで、飲み込むような呼吸をしながら口を開こうとしていた。

「……約束」

 辛うじて絞り出せた言葉は単語一つだったようだ。私も喉をごくりと鳴らし、切れ切れに返す。

「リベンジなら、いつで、も、……受けて、たつよ」

「ふふ」

 汗を拭いながら声をあげて笑う私たちに奇異の目が向けられる。だけどそんなの問題じゃない。湧き上がる充足感はどうしようもなく気持ちがいい。

 空を見上げる。その青空は、あの約束の日の空に続いている。


南天台高校三年九組 千鳥圭子(チドリケイコ)

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