約束のとき
南天台高校二年三組 白井薫
二年前の青い空の下、約束をした。
忘れてないよ。覚えている。今年はその約束が果たせそうだよ。
夏休みも目前に迫れば、生徒の足も浮き立つ。でも休みなのに学校には課外があって、しかも勉強の後には体育祭の準備がある。忘れていたけど、強制参加だった。
「白井、元陸上部って聞いたけどリレー出る?」
確か名前を高原といった級友が私の前に種目の書かれた用紙を掲げる。高原の顔には面倒くさいと書いてある。どうやら彼はこの行事にさして興味がないらしい。私はあるのだけれど、大半の生徒は彼と同じ思いだろう。せいぜい勉強時間が減ることを喜んで、どれだけ楽に過ごせるかが一番の気がかりなのだ。
「どれにするんだ」
やる気のない調子のままに高原の声が掛かる。私は用紙を受け取って眺めた。リレーといっても種類は色々あるし、もうすでに埋まっている欄もある。
「短距離と長距離、どっちが得意?」
考えていると高原が訊ねる。悩んでいるのに助け舟を出したというよりは、さっさと終わらせたくて訊かれたようだ。
「どっちもいける。高原君、好きなのにぶちこんどいていいよ」
「掛け持ちもいいのか」
「うん。走るのは好きだから。でも一つだけ走りたい種目があるんだ」
太っ腹と口笛を鳴らし、彼は構わないと答えた。
「どれがいいんだ」
私はそれに返す。
「最終色別対抗1000mリレー。アンカー女子の200」
「………」
黙りこくった高原の理由はわかる。これは用紙に書かれていなかったものだからだ。
「それ、先輩方に伝えれば通る案?」
私の要望に何かを感じたのか彼はわずかに目を細めた。
「多分。実は二年越しの再戦なんだ。これが走れるなら、他のも出来る限り走るよ」
「それさえ、走れればいいんだな」
「うん」
力いっぱい頷くと高原はやる気のなさそうな顔を一変させる。
「じゃあ、何とかさせる。そんで白井には目一杯働いてもらえるようにしとく」
正式に決まったら教えるからと高原はそのまま他の級友のところに去っていった。
一年の時に出た対抗リレー。それはこの種目ではなかったけれど、決着が着かなかった。そして今度は二人の得意の200mでと約束した。それも大一番、最期のアンカー勝負で。
去年は果たされなかったこの戦い。今年は果たすことのできるこの戦い。
さあ、夏が始まる。




