始業式の朝
始業式にはまだ早い。四月の風は冷たくて、少しだけ心細い気持ちにさせる。誰もいない教室はひどく淋しく、僕に孤独を味わわせる。
窓をそっと開ける。正門からまばらな人影が校舎に吸い込まれていく。不思議な光景だ。はっきりとはわからなかったが、見知った者も数人いたようだ。確か今年度はクラスが違ってしまった奴だ。同じクラスになるハレオは始業式にちゃんと来るのかな。身体の弱い友人が心配になる。もう一人の友人である弥生とはクラスが分れてしまった。彼は新しいクラスできちんとやっていけるのだろうか。人見知りの激しい友人が心配になる。
隣のクラスで教室の扉が開く音がする。人の波が少しずつ押し寄せてきたようだ。足音が静かな廊下に響く。挨拶を交わす声も聞こえた。あの声は高本姉だろうか。考えている間に僕のいる教室の前で一つの足音が止まる。さあ、今年度最初に挨拶を交わすのは誰だろうか。ピリリと怜悧な春の空気が僕の髪を掻き回す。催促されるような空気に押される。窓枠から身体を起こし、扉に目を向けた。ガラリ、音が鳴る。
「おはよう」
開かれた扉に挨拶をする。
「はやいね。おはよう。神城君が同じなんだ。よろしく」
にっこりと微笑む新しいクラスメイトに僕も頬を緩める。
「こっちこそ。一年間よろしく頼むな」
孤独ではなくなった教室に春の空気が混じる。まだ冷たさは残るものの暖かい。不安にも増して期待を抱かせる。この始まりの空気がとても好きだ。これを何と言うか知っている。それは春そのものだ。
南天台高校二年三組 神城正臣