釣れ釣れ草
先日私の元に訃報が届いた
それは私の黒鯛釣りをより明確にしてくれた指標と言うべき言葉を残してくれた人の死であった・・。
思えば、30有余年 釣りが好きで 誰よりも負けない位好きで
自分にとって見れば黒鯛釣り・・ほとんどそれ一筋で 忙しい日々を縫い
眠る時間を割き・・それでも週末になるとそわそわしている自分・・この私も既に50歳になった・・
仕事をしていても ふと・・仕掛けを思いつき・・餌を今度は・・
ああしようか、こうしようかと。
10代後半から一時期大阪へ転職するまでの5、6年は自分でも呆れる程釣り場に通った。
より釣る事・・それが楽しくて仕方が無い時期であった。とにかく釣った。魚の大小等全く無関係に。
釣る事が私の楽しみだったのだから。
大阪へ転職しても、釣りの仲間はどこにでも居る。誘い、誘われ・・釣りの回数こそ激減しても、
又釣った。
秋の当歳シーズンになると、伊丹空港から飛行機に乗り高松空港へ・・
寸暇も惜しんでなるものか・・真っ暗い夜明けから深夜まで・・又釣った。
深夜に乗っていた70ccのスーパーカブのチェーンが切れて、父・兄に迎えに来て貰った時・・
情けない・・父が嘆いた。兄が冷ややかな視線で自分を見つめた。
弟が私の車に乗るなり、ゲロを吐いた。当時凝っていたガーリックたっぷりの練り団子の匂いが
車のハンドルにどっぷりしみついていたからだ。
おはよう!会社の女の子はそっぽを向く。
ぶ男には違いないが・・同様の理由からである。
思うがまま 形に囚われず 釣りは全くの我流 こだわるのは自分が釣れない魚をどう取ろうか・・
それだけの為に。
再び大阪から戻り、再就職 釣り場で一人の職漁者に出合った。
「チヌ狙うとんか?」
朴訥で黒い顔 これがおっさんだったんよな・・
「わしゃあ トロ箱から尾がはみ出るようなん釣った事ある」
聞けば 65せんち・・・?それも瀬戸内で・・?
「そななん なんぼでも居る」
おっさんは自分の趣味としてチヌの大きいのを狙っていると言う
自分にとってはまだ未知の世界 しかし確かに居った。
しかし、よお釣らん・・おっさん・・2号や取れんで。
「ええやないか わしはそれで取る・・それが趣味ちゅうもんじゃろが」
「わしはばらして悔しいで寝られん・・4号で取る」
「好きにすりゃええわ・・お前の釣りやが」
居った・・確かに・・釣った・・感動した・・しかし・・こなん汚いチヌ・・
「どうじゃ・・それが年無しゆうんじゃ お前より長生きしとる」
まさか・・
この変骨で気難しいんは おっさんそっくりやな
「お前も充分素質あるわ・・はは・・そやきんど こんなもん金にはならん
けどこれがわしの生き甲斐」
何かが自分の中で弾けた・・
「おっさん・・わし・・弟子にしてくれんか?」
「お前見たいな下手くそ弟子には要らん・・はは」
拒否されたが拒絶では無かった
それから 随分通った・・段々遠くなって行く 釣り場が。
おっさん あんたの言葉思い出すで・・今・・
「お前は何の為に釣りしよんぞ?何か目的持たんとつまらんじゃろが?人生においてもそうぞ?」
おっさん あんたにわしの人生講釈してもらわんでもかまへん 又・・思い出す
「人が笑うてもええじゃ無いか 自分の為に釣りしよんじゃけん」
おっさん・・今少し分かったで・・それが新鮮な言葉に聞こえるわ なんかしらんけど・・
ムキになって反論もした 自分の釣りが否定された思うたからじゃ。
わしはわしで真剣に釣りしとるもん 否定されたら怒るわいや
せやけど 道具でチヌ釣るんか? 理屈こねたらチヌ釣れるんか?
何しよんぞね・・わしは・・?
気が小さいきん 癇癪も起こす 相田みつをやないきんど わしゃあ・・人間じゃもの
わしは真面目に自分の釣りしよんじゃ
あんたらも自分の釣りすりゃええんじゃない?
人がどうでも 競うこともあらへん
自分の楽しみで釣りすりゃええんじゃない・
おっさん・・あんためんどい(気難しい)人やったきんど・・
釣りしよる時の顔・・好きやった 真剣やった。
わし 何年後になるか分からんきんど そっち行ったら又楽しい釣りやろな?
又一緒にやろな?
わしはもう我武者羅な釣り止めたわ
ほんまはおっさん見たいな人嫌いやったきんど
一緒に釣りしとって ほんまに楽しかったわ
最近な腰も痛うてもう何ヶ月も釣りに行ってないきん
ほんでもぼちぼち又釣りやるわ
おっさんへ・・・あんたの出来の悪い弟子じゅんより