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(2)

 鳶は今、何と言ったのだろう?

 借金が返せない場合、自分の娘を嫁に出すから許してくれ……そんな内容に聞こえたのだが、聞き間違いだよな?


“グーギュルルル”


 もしかしたら聞き間違いかも知れないので確認したいのだが、何と聞いて良いのか分からず混乱していると腹の虫が鳴き始めた。

「なんか食うか?」

「そうですね」

 鳶と私は車から下りると、ディスカウントショップの店舗の一部にあるファーストフード店に入り、早めの昼食をとることにした。注文と支払いは別々にした。

 鳶と向かい合って座り、黙々とハンバーガーやフライドポテトやらを咀嚼していた私だったのだが、鳶はハンバーガー単品を早々に食べ終えておもむろに口を開いた。

「さっきの話だが……冗談でもなんでもなくて、マジでお願いしたい」

「えーと…………すいません。もう一度、聞いて良いですか?」

 口の中のハンバーガーをコーラで胃に流し込んでから尋ねると、鳶は先ほどの車内とは打って変わってなんら迷い無く言ったのだ。


「最悪、金が返せなかった場合、娘を嫁にやるからそれで勘弁して欲しい」


「えーと…………」

 聞き間違いではなかったことに驚き、何と答えて良いのか分からずにいると、鳶は続けて言った。

「正直なところ、今の実家の状況を聞いてると返すアテがあるようには見えないんだ。こっちでも毎月給料から生活費とは別でコツコツ貯めて鷲に少しずつでも返そうとしてたんだが、そのたびに実家から催促がくる。その度にお前にも迷惑かけてしまってるし……もうどうしていいのか分からん」

 テーブルに両肘を着いて頭を掻き毟る鳶に、こちらもどう声をかけて良いのかわからない。俯いていて表情がよく見えないが、ため息ばかり漏れていて相当追い詰められているようだ。

 とりあえず、何か言わなきゃいけない気がして、でも何と言って良いか分からず鳶の様子を見ながら固まっていると、しばらくして鳶は顔をあげて真剣な表情で言うのだ。

「悪い話ではないはずだ! 親の贔屓目かもしれんが娘は可愛いし、最低限の家事くらいは出来る。鷲だったら生活とか将来とか真面目に考えてやってるし、嫁に出したところで別に問題ないと思うんだ」

「あー……う、えーっと…………」

 私はもう言葉を失っていた。

 要するに借金の形に娘を……そういうことだよな。

「……冗談ですよね?」

「否、本気だ」

「…………」

 どうにか言葉を搾り出したものの、即答されてそれ以上何も言えなくなる。

(何でこんなことになってんだよ……?)

 気がついたときには額を手で押さえていて、私は天井を仰いでいた。鳶はまた俯いている。

 私と鳶の間にはなんとも重たい空気が漂い、そんな状態が小一時間ほど続いた。

 そして、少しだけ冷静になった私は鳶に言ったのだった。


「あんた、それでも親か?」


 冷静になって考えてみれば冗談ではない。

 嫁にやるだと? 私が結婚そのものにメリットをあまり感じてなくて、独身の老後を真剣に考えてる旨はついさっき話しただろ。

 こっちにしてみれば貸した金が返ってこないどころか、将来がリスキーに……下手すりゃマイナスじゃないか。

 ましてや鳶の提案は結婚を傘にした“人身売買”の申し込みだ。自分の借金の形に(わがこ)を売るって、そんな話じゃないか?

 冗談でも言っていいことじゃないぞ!

 だが、鳶はいたって真剣に語るのである。

「否、親だからこそ子供を親の不幸に巻き込みたくない。だからこそ、最悪の場合の最善の手段を申し出たまでだ」

 まぁ、家が貧困だと子供の人生に大きく影響するとは聞くけどさ。

「いやいやいやいや……親に売られた時点で不幸じゃないですか。しかも、もしそれに私が応じたとして、傍から見たら買った私が確実に悪人になりますよ。そんな対外的にリスキーな嫁はいりません! てゆーか……娘さん、お幾つでしたっけ?」

 鳶に娘がいるのは聞いていたが、今まで見たことがないのでどんな女性か知らないし、なにより“学生”だったような気がするのですが……?

「ああ……今年で14歳になった」

「はい、無理!」

 つまり“JC2”じゃねーか! 青少年保護条例引っかかるどころか、結婚すら出来ねーよ!!

「鳶さん、私を犯罪者にしたいのか!?」

「違う! そんなつもりはない!! 今すぐにとは言ってないだろ。借りた金については、あと2年以内にケジメをつける! この提案は、最悪それが無理だった場合の“落とし前”として考えてくれ」

 婚姻で16歳で成人させりゃ良い(合法)ってか? 強引にもほどがある!

「無理に決まってるでしょ。私にはデメリットに加えてリスクばっかりで、まったくメリットが感じられないどころか、こんな三十路(オッサン)に売られる鳶さんの娘さんだって不幸だし、お互い良いこと1個もないじゃないですか!?」


「否、そんなことないぞ。俺の話を冷静になって聞いてくれないか?」

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