雨
私が初めて雨を好きだと思ったのは18歳の頃だった。
悲しいかすら分からないのに泣いていた私の涙を雨は隠してくれた。
泣いてるの?と聞かれても、雨で濡れただけだよと雨のせいにすることもできた。
本当は誰かに気づいて欲しかったのかもしれない。
あの時確かに私は泣いていた。
クラス全員に無視されようが変な噂を流されようが泣かなかった私が、たった一言死ねとゆう言葉によって私の心は果てしなく遠いどん底に落ち、目から涙が止まらなくなった。
高校生活の今まで私は何回も心を踏みにじられた。理由なんてなかった。
ただ女の子にとってイジメの標的をつくることが1日を楽しくするネタだったのだ。
物を隠されるなんて日常茶飯事だった。
私は泣かなかった。そして学校も1度も休まなかった。
でも、あの日、死ねと言われたとき私の中で何かの糸が切れてしまった。
あの日から私は学校を休んで1週間と3日。
皆勤賞とかどうでもよかった。
早く学校からいなくなりたかった。
そして皆、私のことなんか忘れてしまえばいい。
今日も朝起きてカーテンを開けると雨だった
私は安心して、もういちどベッドに戻った。
「瑠維。今日も学校休むの?何で学校に行かないの?友達と喧嘩した?」
喧嘩?そんなものなら、まだ全然よかった。
そもそも友達すらいないというのに。
お母さんの声に返事をせず、私はまた眠りについた。もう物事を考えることにすら疲れたのだ。
再び目を覚ましたのは夜中の2時だった。
何故か急に孤独に襲われ学校で辛いことがあったと誰にも訴えることが出来ず1人で強がっていた日常がフラッシュバックした。
死のう。
そう思ったのはイジメられていたからではない。
死ね、とゆう言葉を投げつけられたからだ。
別に死ねと言ってきた子を恨みたいとかそういう感情ではなく、確かに辛いなら死ねばいいんだと納得したからである。
死にたいと思っていても死ねないのは、まだどこかで生きたいと思う自分がいるからだ。
死のうと思えば簡単に死ねるんだから。
だから、私は死にたいではなく死のうと思った。
12月。今から死のうと決意したのに、寒いとゆう感情を持ってしまう自分が憎い。
サヨウナラ。サヨウナラ。
お母さんお父さんごめんなさい。
わたしが死ぬのは誰のせいでもなく、私自身が決めたことです
サヨウナラ。サヨウナラ。
18年間の自分にもサヨウナラ。
私はトボトボと歩いた。
長い長い道のりをひたすら歩いた。
さぁ、どうやって死のうか。
「ねえ」
か細く高い声に私は振り返った。
私のおへそくらいまでしかない身長の小さな男の子が私を見上げていた。
「お姉ちゃん。雨に濡れてるよ。傘ないの?」
「雨?」
私は空を見上げた。
ポツポツと雨が降っている。
「雨降ってるの気づかなかったの?」
男の子は大きな目をクリクリさせた。
「うん。君が教えてくれてやっと気づいた。雨、降ってたんだね」
でも。どうしてこんなに小さい男の子がこんな夜中に外にいるんだろう。
「きみ、ママかパパは?お家どこ?」
「お家?ないよ!もうすぐ、りょう兄が迎えにくるんだ。今日は、、どこに寝るんだろ」
あとから考えれば、この言葉は普通に考えれば驚くはずなのに今の私は何も考えられず、そうなんだねっとしか言えなかった。
「ルー!ごめんな待ったろ?」
五分後くらいにすごく身長の高い男が男の子を抱き上げた。
「んーと、君がルーの相手してくれてたの?」
男は私を見下ろす。
「話してただけです、それじゃあ」
私は軽く頭を下げてスタスタと歩き出した。
「女の子がこんな夜中に危ないよ?」
男の声に私は笑いがでた。
「危ない?どーなろーが、どうでもいいよ」
何故か笑いが止まらなかった。
今から死ぬんだ。危ない目にあって死んだ方が好都合だ。
自殺ではなく殺されてしまえばいいんだ。
「何言ってんの?とんだ馬鹿女だ」
男は真面目な顔で言った。
その隣で男の子は黙って聞いている。
「馬鹿女かあ。そうかも。今から死のうとしてることも世間からしたら馬鹿なこと?」
「死のうとしてんの?」
「うん」
「俺は、きみと知り合いでもなかったから、きみが自殺しても今までと変わらない生活を送る。でもこうやって今しゃべってるから知り合いっちゃ知り合いになったんだ。だからきみが死んだら俺はこのあともきみのこと思い出して複雑な気持ちになる。」
「なにそれ、私の気持ちは変わらないよ」
幼い男の子にも死ぬとゆうことが、どうゆうことか分かっているみたいで一回も笑わなかった。
「じゃあ、1分間だけ時間をちょうだい。それでも気持ちが変わらなかったら、きみが好きなようにすればいい。自殺でも何でも」
男は小さい男の子に、ここで待っててと言ってスタスタと私の近くまで来た。
そして、何も言わずにただ強く抱きしめたのだった。
彼は1分間何も喋りはしなかった。
ただ抱きしめた。
自分が泣いていると気づいたころ、もう1分間は終わり彼は離れた。
本当は誰かにこうやって抱きしめられたかったのかもしれない。
親や友達、誰でもいいから。
「まだ、死にたい?」
「分からない。死にたいのに、もう一回誰かの温もりを欲してる自分もいる」
「それは生きてないと出来ないことだね」
「雨つよくなったね!雨宿りしようよ」
小さい男の子が叫ぶ。
私は急に死ぬことに足がすくんだ。
この2人のことをもっと知りたい。
そう思ってしまったのだ。