第一話
初投稿です
色々問題アリかもですが少しでも楽しんでもらえたら幸いです
「悪いが、もう一回言ってくれねぇか?」
スキンヘッドのオヤジは目の前の青年に聞き返す。
傭兵ギルドの店内には掲示板に張られた依頼用紙を見る傭兵で多少騒々しいが、もちろん聞こえなかった訳ではない。目の前の青年が言ったことが少々信じられなかったのだ。
歳の頃は二十にはまだ足りない。よくて十八、見ようによっては十四。身長は歳の割には高めだ。歳が見た目通りなら、だが。
「聞こえなかった? ならもう一度言うけど。新人でいいから、金の掛からない奴を頼みたいんだ」
オヤジは頭を撫でつつため息混じりに
「……あのなぁ、兄ちゃん。このご時勢だ。夜盗の類はわんさか、野犬や熊ならまだしも、はぐれも居るんだ。とてもじゃないが――」
この男もギルドの主だ。見た目で判断するのが危険だとは知っている。と思いつつも言わずにはいられない。
「兄ちゃんみたいな優男が、安値の傭兵一人で旅が出来るとは思えんのだ」
傭兵ギルドの店主をしていればある程度の実力はわかる様になる。中には雰囲気を変えたり、気配を殺したりして実力を隠せる者もいる。
しかし、この青年はそこまでの経験を積むにはまだ若い、と。
「何を考えてだか知らんが、やめといた方がいいと思うがなぁ。金がないならその容姿だ。しばらく貴族連中の相手をすれば最高クラスの傭兵だって雇えると思うがね」
大陸一の大国エルディンの王都エルド。大陸一の国の王都だけあって人の行き来が激しい。そのため様々な容姿の人間がいるが、この青年はずば抜けているとオヤジは思っている。
角ばったところの見えない滑らかな線を描くほっそりとした顔立ちに、長い手足。青みがかった髪は窓の光に透け、銀色に輝いて見える。何より特徴的な蒼と緋色のオッドアイだ。オヤジの見立てでは、一回貴族の相手をすれば半月は仕事をしないでも済むのでは、といったところだ。
「生憎だけど、お金がないわけじゃない。それに、おっちゃんは信じないだろうけど、自分の身くらい守れる程度の腕ならあるさ」
そう言って自分の腰に着いている細身の剣をぽんぽんと叩く。
「護衛と言うよりは道案内さ。傭兵なら地理に詳しいだろう? それに一人旅ってのも寂しいし」
「やれやれ、だな。お前さんの言葉、一応信じてやるさ」
オヤジはそう言って奥に引っ込み、一枚の紙を持ってきた。
「こいつでどうだ」
紙には『アリア=セイルマン 十六歳 マルアール出身 魔法剣士』とある
「魔法剣士が何で傭兵に?」
魔法が使える者はある程度いるが、魔法が使えるのに剣技も鍛える者は少ない。さらに達者に魔法が使える者は国が軍に徴兵することが多く、傭兵になることは稀である。魔法剣士ともなればほとんどが軍の士官クラスだ。
いくら自己申告だとしても魔法剣士である。最安値の傭兵とは到底思えない。
「ああ、そいつは女だからな。いくら魔法剣士でも女は徴兵の選考外だろ。とはいえ珍しいからな、名声が轟けばすぐにでも推薦状が来るだろうよ。だがアリアはあのド田舎から出てきてすぐ登録したらしい。おかげで名前は売れてない、金が無いから装備も貧相。紹介して顔合わせたら口々に『変えてくれ』だ。まだ登録して一月経ってない。そんなわけで実力不明で客の取れないアリアは安値の傭兵なのさ」
「実力くらい見てあげればいいのに」
当然の疑問だがオヤジは溜め息混じりに話した。
「あのなぁ、傭兵しようなんて奴は腕に自信のある奴がほとんどだ。仕事が仕事だからな。実力も無いのに傭兵になろうなんざ自殺行為もいいとこだ。だがな、アリアは女だぞ? そこそこの腕が無けりゃそもそも傭兵になろうなんて思うかよ。俺はここに来る奴の腕を最低限信用してるんだ。――とはいえ、俺はただの仲介人だ。やる気のある奴はへぼでも登録するし、責任も持たん。仕事中に死んでも文句言う奴はいねえしな」
「ならその実力を保障してあげればいいのに」
オヤジは飽きれた溜め息と共に顔をしかめ、諭すように言った。
「いいか? いくら俺が言ったところで選ぶのは客なんだよ。ほとんどの仕事が命にかかわる。疑わしきは選ばない。アリアは装備が貧相で、女だ。実績が無いし頼りなさげに見えるんだ。俺も客に強くは言えん」
「へぇ……いいよ。アリアにしよう」
「本気か?」
オヤジは驚きに目を丸くした。
「最初に言ったけど欲しいのは護衛より道案内だよ。だからもともと実力は期待してなかったけど、おっちゃんはその子は実力があると見ている。なら僕は傭兵を信用しているギルドの主を信用するよ」
軽く微笑みながらそんな事を言う青年をオヤジは再度凝視した。
「――そんなことを言われたのは初めてだな。……なら、紹介する条件だ。アリアを見た後で変更は聞かない。当然依頼のキャンセルもだ。したがって普段は成功報酬だが今回は前払いだ」
どうだ? 断るなら今だぞ、と目で問いかけると青年は笑いながら頷いた。
「おっちゃんも僕を信用してくれればいいのに」
言葉とは裏腹にとても嬉しそうだ。
「安い傭兵の中でも実力のありそうなのを紹介してくれたんじゃないのかな? ここのギルドの主はお人よしでお節介だね。この子と僕と二人の心配をしてくれてる、と思ってるんだけど?」
図星を指され、苦々しく笑いながら答える。
「そりゃ兄ちゃんの考えすぎだろ。――名前と依頼内容は?」
「名前はケイディア。依頼内容は護衛、期間は……一週間。腕、良いんでしょ?」
それを聞いたオヤジは豪快に笑い出した。ひとしきり笑った後、わざと沈痛な顔をした。
「やれやれ、アリアも可哀想に……。初めての依頼がこんな変わった客とはね。器量はいいから色でも売ればかなりの稼ぎになったのによ」
「それは益々楽しみだ」