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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不孝

作者:



 一番の親不孝が自殺だと言う人がいる。


 本当にそうなのだろうか?

 僕の親にもその言葉は適用されるのだろうか?


 そして十何回か目の誕生日を迎えた今日、産まれた日に死ぬ方が更に親不孝なのではないかと考えた。


「よし、死のうか」


 スチャ っと効果音をつけたいくらいの勢いでナイフを取り出す。

 もちろん台所でだ。


 そこを母親に見つかった。


「…………。」


「…………。」


 ナイフと僕を交互に見比べる母。

 とりあえず誤魔化そうと笑う僕。


 長く感じる沈黙はまだ続こうと言うのかどちらも行動を再開することはない。


 さてどうしよう。


 流石に人の目の前で首をかっさばく勇気はない。

 だって自分の目の前で知ってるやつが血を吹き出して死んでいくのを見るのは普通嫌だろう? 僕は嫌だ。

 だから自分が嫌がることをしたくない主義の僕は動けないというわけ。


 どうしたものかと表情を気にしながら悩んでいると、意外にも母親の方から口を開いた。


「…死ぬんなら別のところでやりな」


「はーい」


 あ、なんか場所だけ注意された(笑)


 じゃあどこでやるか…。


 母親の後ろ姿が奥の部屋に消えていくのを見届けながら顎に手を当てる。


「ふーむ」


 簡単に考えれば風呂あたりが無難だろう。 掃除も簡単そうだし。

 しかし問題はそこじゃない。


 人が死んだ浴室を再び使う気になるか? 僕は使う気になんかなれない。


 そうなっては迷惑だろうし可哀想だ。

 とか考えるともう野外、家の外で死ぬ方がやっぱりいいよなと思う。


 じゃあどう死ぬか。


 飛び下り、飛び出し、飛び込み、縊頸(首吊り)、入水、首切り、…切腹?、大量服薬・服毒 、焼身、感電


 ……死に方ってたくさんあるなあ。

 候補を挙げていくうちについつい感心してしまう。

 楽なので挙げると低温、大量服薬・服毒、飛び込みといったところだろうか。



 しかし低温はよほどの寒さがなければ難しいだろう。 それこそ、真冬の氷が張っているような湖に飛び込むくらいは考えておかなければ。 …入水になってしまうな。


 それにいくら眠るようになんて言ってもそこまで寒い環境は僕の近辺にはない。

 更に根性無しな僕はきっと感覚が麻痺するまでの寒さに耐えられず暖かさを求めて動いてしまうだろう。



 じゃあ大量服薬・服毒か。

 しかし大量服薬は市販されている薬の、それこそ瓶一つ分を飲みほしたとして確実に死ねるのだろうか?


 これはなかなか難しいと思う。 薬の効き目なんて個人差があるし、ぐったりしてるところを病院に運ばれて一命をとりとめたなんて話しは多々ある。


 強い薬を…なんて考えても、そんな薬が市販されているわけがない。

 医者に頼んだとしても至って健康体な人間に処方するわけがないだろう。


 服毒はあれだ、元から科学が苦手な僕にはどんな毒を飲めばいいのか全くわからない。


 それこそ刑事ドラマの定番(?)青酸カリなどくらいならわかるが、どうやって手に入れる?


 学校…とも考えたが、流石に鍵のある棚にしまってあるだろうし盗む勇気なんてない、というか盗みたくない。


 飛び込みも候補に挙げていたがダメだな絶対に。

 飛び込み=走っている電車の前に飛び込むことなのだが、まあバラバラになるだろう。


 いや、バラバラになるのは別にいい。確かにきれいな姿で死ぬ方が理想だがこの際それは諦めたとしよう。


 電車に轢き殺されると、あちこちのパーツ(身体の)が飛び散る。

 それも各パーツごとにではなく、大体が肉片となって飛び散るだろう。

 血だってあちこちに撒き散らされる。


 どこかで聞きかじった話だが、轢かれたばかりのときに血が車輪の熱さで蒸発していたとか 吹き飛んできた手がまだぴくぴくと動いていたとか。


 実際それが本当かはわからないがあり得ない話ではない。


 で、その飛び散った肉片や血液などを片付けるのは誰か。



 まあ運転士さんや車掌さん、それから駅員さんが嫌でもその役目を与えられるだろう。


 それだけじゃない。現場を目撃してしまった人や電車に乗っていた人、これから乗ろうとしていた人にかなりの迷惑がかかる。


 それに、鉄道会社には遺族に賠償金を請求できるらしいから、親にまで迷惑が…それはいいか。

 いややっぱよくないな。


 金銭面での不孝は今まで生きてきたことでかなりのものとなっているだろう。 これ以上は気が引ける。



 ううむ、迷惑かけないように自殺をするのはなかなか難しいな。

 なんだか眠くなってきたし、さっき飲んだ睡眠薬のせいかな。


 足元に転がっている空になった瓶をつま先で弄びながら重力に任せて座り込む。


 瓶が勢いよくつま先に押し出されて壁に向かって突進していく。

 ガゴトンッと鈍い音がしてゴロゴロと瓶がこちらに戻ってこようとしはじめた。


 しかし、すぐに止まってしまった。まだ小刻みに揺れる瓶がだんだんとぼやけていく。

 物音がした気がして顔を上げると、誰かがいた。

 死神さんでも来てくれたのかな、それとも天使だったりして。


 霞んだ視界ではそれが誰かを見分けることができなかった。

 でも、わかっていた。



 母親さん、あなたは 今

どんな気持ちですか?



 口に出すのすら億劫で、聞こえないことはわかっていたけど こころの中で尋ねた。


 近づいてくる霞んだ人影。その手に握られている黒いもの。


 それはなに?


 ──ああ、声が出ないや。

 ぱくぱくと動く唇からは呻きのような言葉になれなかった音が漏れた。


 音が、色が、光が


 だんだんと遠ざかっていく。

 あの手に握られていたのは携帯なのかナイフなのか、それともどちらでもない別のものなのか。


 銀色の光が見えた気がした。でも僕はそのとき意識を手放した。






 どこで仕入れたんだかわからない知識ばかりなので書いてあることは真実でない場合もあります。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 広い知識が主人公を縛っている部分が何か面白く感じました。 [気になる点] 自殺に向かっている主人公の行動があやふやすぎて、結果を包み込めていない感じでした。 [一言] 自殺に対して色々と考…
2012/03/25 22:02 退会済み
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