アリエン~あるいは読書系宇宙人がいかにウザいか問題
美少女が空から落ちてくることを妄想した人間は多いが、「落ちる」ことについて真剣に考えた人間はいなかったに違いない。
「重力はピーナッツバターを好む」というマーフィの法則を引くまでも無く地球には重力が存在する。
美少女の場合はどうか。まず大抵は人体で一番重い頭部から地面に叩き付けられる。衝撃は人体を易々と破壊し美少女は美少女だったものに成り果てる。
具体的に言えば、当然頭は砕け、中身をそこら中にまき散らす。まず間違いなく手足はうち捨てられた操り人形のように好き勝手に折れ曲がる。おまけに白い骨が飛び出す。
なぜ分かるかって?なぜなら僕が空から降ってきた美少女の死体を目の前にした高校生だからだ。簡単な推理だね。
「というか冷静すぎるぞ。僕。」
初体験なのにこんなに冷静でいいんだろうか。目の前のいつものコンビニへの道がいきなりスプラッターな現場になったというのに頭は冷静だった。
「いいんじゃないかな。冷静で的確な描写じゃないか。」
声が響いた。
「・・・・・・はい?」
・・・・・・何も聞こえなかった。聞こえるはずが無いのだ。なぜなら美少女の頭だった部分に残された美しい顔からは無残にも目玉が飛び出し穴という穴から血を吹き出しているのだから。話せるはずがない。理論的だ。矛盾は無い。
「いいね。あくまで死体続ける鉄の意志。君、絶対に殺人鬼とかに向いてるよ。」
・・・聞こえない。だって肉体だったものが無意味な生理的反応の結果として、びくびくと電気的にひきつけを起こしている様が、不可逆的な死の進行を感じさせているのだ。これは死体だ。死んでいる。生きていない。逝ってしまった。仏さまで神様で、元美少女だ。
声がむしろ楽しげに否定した。
「残念ながらその表現はNGだ。なぜって僕は死んでないのだから。」
「・・・・・・なぜ生きてる?」
思わず尋ね返すぼく。
「冷静になった?」
元から冷静だ。心に棚が作れないようでは現代っ子はやれない。死体に「進路・殺人鬼」を推奨されるレアな状況にも耐える鋼のゆとりズムに今日だけは感謝だ。死体はこちらの反応などお構いなしに言葉を続ける。
「コングラチュレーション。君は地球を救うヒーローに選ばれたんだよ。」
「ヒーロー?選ばれた?」
「そう。おめでとう。ぱんぱかぱーん。」
音まで言いやがった。全く訳が分からない。沈黙する僕に死体が歌うように告げる。
「うん。美少女とボーイミーツガールな感じで地球を救っちゃって下さい。無論、無報酬で。」
くらり。
試験勉強に疲れた僕がコンビニに行こう向かう道の途中、空から女の子が振ってきて、そのまま地面に大激突。連日の疲れと、ブラクラもびっくりのグロ映像と、なぜか元気な女の子の声のトリプルパンチだ。逃げたい。それも今すぐに。そんな欲求に体は素直に応じてくれて、ぼくは無意識の世界へとあっさりと逃げ出してしまった。