プロローグ 神に見捨てられた世界
プロローグ
神が去ったあとの世界
紀元前およそ五二〇〇年
――〈離脱の時代〉
天使と人間は、かつて同じ時代に生きていた。
別々の世界ではない。
別々の時代でもない。
同じ空の下、
同じ大地の上で。
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神は、人間に星を与えた。
生きていて、
温かくて、
壊れやすい世界。
変えることのできる世界。
そして、壊すこともできる世界。
人間は――
それをうまく扱えなかった。
森を焼き、
大地を血で染め、
共に生きることを学ぶよりも早く、
互いを殺し合った。
天使たちはそれを見て、
憎んだ。
それでもなお、
神が人間を愛し続けていたからだ。
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神は気づいた。
人間は「生きる」ことより、
「勝つ」ことを選ぶのだと。
だから、裁かなかった。
罰もしなかった。
ただ――去った。
空は空っぽになり、
声は消え、
つながりは断たれた。
それ以来、
神を見た者はいない。
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天使たちは取り残された。
命令もなく、
意味もなく、
赦しもない。
そして天使の国家――
エイリアーク。
天上の星 アエリオス にて、
一つの決断が下された。
「神が戻らないのなら――
秩序は、我々が作る」
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人間は〈誤り〉とされた。
汚く、
弱く、
あまりにも多様すぎる存在。
完全な世界に、
居場所はなかった。
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俺の名は――ミレム。
その瞬間、
俺はエイリアークの天使であることをやめた。
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俺は、人間を上から見なかった。
隣で見た。
未熟で、
うるさくて、
どうしようもなくバラバラな存在。
それでも彼らは、
天使が最も恐れることをやってのけた。
――適応だ。
人間は変わる。
合わせる。
生き延びる。
すべてを失っても、
またゼロから始める。
……だから俺は、
彼らを好きになってしまった。
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エイリアーク評議会が
〈人類完全消去〉を宣言した時、
俺は反対した。
聞き入れられなかった。
追放。
死刑判決。
指名手配。
表向きの理由は――反逆。
だが、本当の理由は別にある。
俺は、
ルシフェル最後の血を引く者。
その存在自体が、
許されなかった。
⸻
今、彼らが狙っているのは
俺だけじゃない。
俺の後ろに立つ者すべて。
永遠を捨てた者たち。
消滅を恐れず、
翼を得る覚悟をした者たち。
天使は、生まれつき翼を持たない。
白い肌。
人間と変わらない身体。
そして――
力を使うとき、
瞳が淡い蒼に光る。
翼は、
消える覚悟をした時にだけ現れる。
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俺は、
ついてきてくれた者たちを見る。
強くて、
かけがえのない仲間たち。
だからこそ――怖い。
勝率は、ほぼゼロだ。
それでも。
下の世界で人間たちが、
喧嘩して、
笑って、
作って、
壊している限り――
俺は、
空に決めさせはしない。
⸻
これは戦争の物語だ。
だが始まりは、
戦いじゃない。
――俺が、人間を選んだ日の話だ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、ずっと書きたいと思っていたものです。
こうして公開できたことが、何よりも嬉しいです。
これから定期的に更新していく予定です。
よろしければ、最後までお付き合いください。




