第2話 魔法陣解析の力
お茶を飲み終わった後、俺はガルスに尋ねてみた。
「その、他の魔法陣も見せてもらえないか?」
「ほう、興味があるのか?」
ガルスは少し意外そうな顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「まぁ、異界人なら当然か。いいぜ、いくつか見せてやろう」
そう言うと、ガルスは棚から何枚かの紙を取り出した。どれも不思議な模様が描かれている。
「これは明かりを灯すライト。こっちは水を生成するウォーター。あとはちょっとした風を起こすウィンドだ」
一枚一枚丁寧に説明しながら、ガルスは実演してみせる。その度に俺の目の前にウィンドウが現れた。
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魔法:ライト
属性:光
効果:小規模な光源を生成する
構成:光生成(60%)、維持(40%)
消費魔力:1
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それらの内容を確認すると、それぞれ構成比率や消費魔力が違うことに気がついた。それとほぼ同時に、ウィンドウの項目の横にボタンのようなものが追加されたことに気づく。
「これは……」
思わず指でウィンドウに触れると、数値が変更できることに気づいた。試しにライトの消費魔力を3に上げてみる。
「お、おい!」
ガルスが驚きの声を上げた。部屋全体が太陽のように明るく照らされたのだ。
「お前……まさか、魔法陣を改変できるのか?」
ガルスの表情が一変する。真剣な眼差しで俺を見つめた。
「どうやらそうみたいだ。ウィンドウが見えて、そこで魔法陣の構成を変更できる」
ガルスは深いため息をついた。
「それはまた厄介な……。隼人、その能力のことは誰にも言うなよ。特に王家の耳になんか入ったら、間違いなく狙われるぞ」
「……そんなにやばいのか?」
「ああ。魔法陣を作れる奴なんて、この国でも片手で数えるほどしかいない。その殆どは王家に仕えている。お前の能力が知れたら、絶対に放っておかれないだろうな。まぁその代わりに生活には困らなくなるだろうが」
ガルスの言葉に、俺は背筋が寒くなった。確かにこの能力は便利そうだが、それを理由に自由を奪われるのは御免だ。
「分かった。他人には秘密にしておく」
「そうしておけ」
こうして俺の密かな魔法陣研究が始まることになった。
ガルスの家で数日間を過ごすうちに、俺はこの世界の常識も少しずつ学び始めた。
森に囲まれた静かな村、そして村人たちが日常的に使う「魔法」という技術。それは俺の生まれ育った世界の技術とはまったく異なる概念だった。
この世界の人々は「魔法陣」というものを使用して魔法を行使する。魔法陣には事前に魔力の流れや発動条件が刻まれており、それを適切に起動することで、魔法が発動するらしい。
俺が特に興味を持ったのは、その「魔法陣」の設計部分。構成要素や配置のルールがまるでプログラミング言語のコードのように思えたからだ。実際、俺がスキル「魔法陣解析」で表示される情報も、どこか数値や構造に基づいた形式を感じさせた。
突然見知らぬ土地で目覚めた隼人にとって、不安なことも色々と多かったが、それ以上にこの魔方陣を解析することは、彼の新しい楽しみになっていた。