ユーステッド、起床す
ピチチッ…チチチ―
鳥の……声?
僕は……たしか……港まで歩いて……カーターに誘われて……ぬ……?なにも思い出せない……何故だ……日差しも眩しすぎる……い、いだい……頭がガンガンする…………
「ぐぁ……なん…だ…ものすごく頭が……内側から叩かれてるような……うぅ…………」
割れるような頭の痛み……今まで経験したことのない痛みだ。
もしかして僕は、なんらかの疫病……風土病にでもかかってしまったのか……?ありえなくはないぞ……旅の疲れもあって体力も落ちていた……始めてくる土地に僕の体が耐えれなかったに違いない……!
「ろ、ロベリア……あ」
ベッドから起き上がり、ふちに腰を掛け、重たい頭を上げて視線を向けると、ベッドサイドのテーブルに水の入った……これはデキャンタかな?きれいな水が入っており、日の光を受けてキラキラと輝いて……僕は誘われるようにテーブルまで歩き、グラスになみなみと注ぎ飲み干した。
「……まるで僕の症状がわかっているような準備……やはり……」
水を得た体と頭は、寝起きの時より少しすっきりした気がしたが、痛みは未だに続いていて……あぁ……僕は病気になってしまったんだ……
ガチャっとドアが開いて人が入ってくる。
「ロベリア、僕は…………だれ?」
「ユーステッド様?起きてるっすね!おはようございます!」
誰だこいつは。誰だこの男は。
「始めましてっす!ユーステッド様付の使用人のジュリアン・オーリガっす!気軽にジュリーって呼んでくださいっすー!!」
体調が良くても寝起きで目に入れたくない胸やけがするような顔だな……カーターもそうだが、ここの男たちの遺伝子の基準はどうなっているんだろう。
「ユーステッド様も18歳なんすよね!自分もなんっす!うれしいっすねぇ~!」
本当にどういう遺伝子だ……あごひげなんて僕には生えていないぞ……
「あ、あぁ……よろしくジュリー……ところで、ロベリアは?」
「ロベリ……?あぁ!それなら灯台のある島の方に視察に行ってるっすよ~夕方にはもどるんじゃないっすかね?」
そう……なのか?
ロベリアは辺境伯付きの侍女だし、僕が案内を断ったからそっちにいったってことなのかな?……僕ひとりだけ屋敷に残すなんて……常識がないのか……
「そうだ、ユーステッド様。」
「うん?」
「ちょっとにおうんで風呂でも入ったらどうっすか?」
……僕が、臭いって?
「そ、そうだろうか?僕は……気にならない、けど……」
「いや、くっさいっすねー!」
そんな元気いっぱいに言うことはないだろう。さすがに傷つくんだが……いや、でも……船で過ごした数日間は風呂なんて入ってないし、良くて濡れタオルで体を拭いたくらいだ。それも毎日じゃない。
城に来た行商人もたまに気になる臭いを放つ者がいたし……そうなのか……僕は今、臭いのか……。
「わかった……はいる」
「了解っす!着替えはこれっすか……?ん……?」
「ま、まて!それは違う!!」
恥ずかしいからカバンの下の方に詰めなおしたのに、なんで引っ張り出してるんだ!一応、主の持ち物なのに勝手に!僕の国だったら処罰されているぞ!
「……はっは~ん?ユーステッド様もなかなかやりますねぇ……初日でこんな……」
「違う!誤解だ!僕はそんな破廉恥なことはしない!!」
「ほんとうっすかぁ~?」
「ないっ!……うっ……頭が……」
ジュリーの声も大きいが、自分の大声まで重なって、またガンガンと痛み出す頭。
「頭痛いのも風呂で汗を流せばよくなるっすよ~!デトォックスゥ!」
「わかったから、大声を出さないでくれ……」
「はいはーい!あ!お水ももう一杯飲んでくださいね~!」
もう見られたパンツに関しては諦めるとして、言われるがままもう一杯、水を飲む。
……水なんてどこも一緒だと思っていたけど、すごく飲みやすく感じる。こんなに体に浸み込むような、なじむような水は初めてかもしれない。うん、頭の痛みもやっぱりすっきりする……美味しい水。
飲み終わるころ、ジュリーは僕の着替えとタオルを抱え、ついてくるように手招きをした。
王城にも浴室はあった。全体的に白を基調として作られていて、天井に取り付けられた天窓からは、昼は太陽が、夜は月明りが入って湯のお湯がキラキラとしてて、大きな浴槽に体をしずめると疲れなんて吹っ飛んだなぁ……
……しかし、この屋敷の浴室は僕の想像している物と違った。
そもそも、ジュリーについて行くその先は地下へと進んでいる。昨日、屋敷を出る時には気付かなかったけど、食堂の奥に地下へ続く階段の扉があったみたいだ。
その扉を開けると、温かい、少し湿り気を帯びた空気が肌をかすめる。ちょっと独特な臭いも感じる……僕の臭いじゃないよな……スンスンッと、着ている服の袖を嗅ぎながら石でできた階段を下りて行くとせまい脱衣場に着いた。
「ここで脱いでくださいねー!脱いだ服はこっちのカゴに入れてもらって……こっちに着替え置いておくっすよ~?」
言われるがまま……服を脱ぎ、入浴用の下着を身に着ける。
「別に自分とふたりだけなんでパンツ履かなくても……大丈夫っすよ?」
俺の体を舐めるように見るジュリーの視線……なぜか身の危険を感じる。
「なぜそんなに見ているんだ……」
「いやぁ~せっかく広い風呂なのに窮屈じゃないかなぁって思ったんすけど……」
「そ、そんなことないぞ!僕は昔からこのスタイルだから、このままでいい!」
「そうっすか?じゃあオレも合わせるっすね~」
なんでちょっと残念そうなのか不思議でならない……ここでははかないものなのか?
体を流してもらうことは王城でもあったが、担当をしている使用人は入浴用の召し物をちゃんと来ているがこいつはどうだ、全然素っ裸だぞ……そもそも一緒に入る気満々なのが謎でしかない。
まさか……ちまたで耳にしたことがある……これが『男同士の裸の付き合い』というものなのか?
僕……一応、主なはずなんだけど……?
ジュリアン・オーガスことジュリーはユーステッドのお世話係さん。
同い年の18歳にもかかわらず、ムキムキで顔も濃い目であごひげがあります。話し方こそ下っ端ぽいですが、力仕事はもちろん、洗濯や片づけもこなせます。距離感がバグってるので、今後ユーステッドとどんな仲になっていくか楽しみですね。