ユーステッド、案内す
そんな彼だが……自由にしているとはいえ、好き放題しているわけではない。
ホセはいつも通り、街で一番高い宿の、一番高い部屋に泊まる。
長期滞在なら屋敷で過ごしてもらってもいいのだが……こういう時、ホセは絶対に断る。理由は『金を落とす』ため。
王位継承権を放棄しているホセが王族として知人にしてあげられることはほとんどない。できる事といえば……その土地で買い物や食事、宿で宿泊をすること。
自由に使えるものは金だけだというのを理解し、少しでもその土地で生きる者たちの生活の足しになるようにと務めている。さりげない気遣いというか、どこかスマートな振る舞いができる。だから、僕に対しても前と変わらず、こんなところまでサクッと遊びに来たりするんだ。
「相変わらずだなお前は。ここに来てまでそんなことをする必要はないんだぞ」
「祝儀だと思って受け取ってくれたらいいのさ。それよりユース……彼女はフリーなのかい?」
「彼女って……ダメだっ!!ロベリアはダメ!!」
本当に相変わらずだ。感心したらいつもこれだ……自由に生きるのはそりゃ勝手だけど、女性に対して見境がないのは本当に勘弁してほしい。いつもなら「はいはい勝手に行ってこい」という僕の反応が違ったことにホセは驚いている。
「ロベリアは僕の大事な人だっ!」
「そんなに怒る事……なのかい?もしかして君……もうすでに侍女にまで手を出しているのかい?」
「違う違うそうじゃない!っ……あとで説明する!とにかくダメだ!!」
宿の手続きをしながら聞こえていたのだろう、ロベリアは耳を赤くしている。
「ふぅん?ん~……あとでと言うなら彼女に島を案内してもらってから――」
「それこそダメだ!僕が案内する!ロベリア!君は屋敷に帰ってるんだ!」
「で、でも……案内すると言い出したのは私ですし……」
「その姿で連れ出したのは僕なのに……ごめんロベリア……その……ちょっかい出されたら困るのは僕なんだ。あとで埋め合わせをするから……」
「困るの……?なぜ?」
「だ、だからそれは――」
一生懸命ロベリアに説明と説得をする。僕とロベリアのやり取りを見てホセはなにか感じたのか、
「わかったわかったユース……案内は君でいいよ。積もる話もあるからね?」
「は、はじめからそうしてくれ!……ごめんね?屋敷でまっててロベリア」
「ふふ……わかりました。ごゆっくりしてらしてください」
軽くお辞儀をして宿を後にするロベリア。一安心して、ホセの方に向き直る……なんて顔してるんだこいつ。
「じゃあ行こうかユース?」
なにか察しているのかいないのか……ニヤニヤ顔で僕の頭をワシャワシャ撫でまわす。その手を振り払って坂を上っていくロベリアの後ろ姿を目で追った。はぁ……っとため息をついてから、ホセについて来るように声を掛けて島を案内して周る。
港の広場へいくと僕が作った屋根がそのままになっている。『大漁祭』の時に燃やすまでは片づけることがなく、いい観光スポットになっている。僕が手伝ったことを話すと穴が開くくらい隅々まで屋根を観察する。去り際にまた……頭を撫でられてた。同い年のくせに、身長差のせいでどこか子ども扱いされる。
大分緑が無くなってしまったブドウ畑の島を見ながら『収穫祭』の話をし、その後は坂を上り、中腹にある少し開けた場所から海と港を見下ろす。
「屋敷から見る景色も素晴らしいんだけどな、ここから見る海も綺麗なんだ」
「本当だね。でもなぁ……ユースじゃなく女性と一緒ならもっと素晴らしかっただろうなぁ……」
「またお前は……ロベリアは本当にダメだからな!」
「……一番大事なものを見つけたんだねユース」
急に真面目になると調子が狂う。
事実は事実なのだけど……再会してまだ時間も経っていない友人に言われると気恥ずかしさが勝る。
「……城で生きるのは息苦しく窮屈。これは君も俺も同じだった。だけど君は嫡男であったが為に自分を押し殺して生きざるを得なかった。それが原因かわからないけど暴走してしまったみたいだけどね?ふふふ」
「それはまぁ……申し訳なかったと思うけどな……結果的に良かったんだと思うよ」
「変わったからねユース……君は。迎えに来た君を見てすぐわかったよ……君も自由になれたんだってね。これでも友人としてずっと心配していたんだよ?本当によかった……」
嬉しそうに笑って話すホセ。ここまで僕を分かってくれる友人は彼以外いないだろう。お互いに小さい頃から知っているから、深く話さずとも、分かり合える。
「素晴らしい女性とも会えたみたいだしね。これも俺が話した経験談のおかげかな?」
「おかげさまでな……そのせいでロベリアを困らせて……」
「そうだ、その侍女とどんな関係なんだい?本妻を差し置いていかがわしい関係になっているのはさすがに感心しないんだが?」
僕から色恋の話をすることはほとんどなかった。アリアンナとエリカの話くらいだったけど……それはどこか話半分に聞いていて興味がない感じだった。けど、今回はどうだ?そんなニコニコと口角を上げなくてもいいだろうに。喉も乾いたし……ゆっくりと座って話したいとのことでマスターのいるカフェに向かいながら……ティアとロベリアと僕の関係を説明した。
「くっ……ふふふ……そ、それは本当かいユースっ……ブフッ!!」
「……そんなに笑うことないだろっ!」
「妻が別人の姿をしているのが気に入っているからわざわざ侍女の格好をさせて……自分の欲求を満たすなんて……なかなかの変態具合じゃないか!あーははっはっ!!」
返す言葉もない。でもな?その基盤を作ったのは自分だということを忘れないでほしいな。
各地を気ままに旅をしながらその先々で現地妻を作り、やれ彼女はああだったこうだったと僕に刷り込んだのは誰だと思ってるんだ……まったく……。
「色々素直になっているようで本当に安心するよ……クフフフっ」
「言いふらしたりするなよな……マスター!久しぶり!」
カランカランといつも通りのドアベルの音、店内に入ると香るいつも通りのコーヒーのいい匂い。
「あら!ユーくんじゃない!いらっしゃい!」
「……っ?!」
「今日は友人がきてくれたんだ!紹介するよ!彼はホ――……ホセ?」
僕がマスターに声をかけたあとに、「素敵なところじゃないか」と笑顔で話していたホセの顔が固まっている。あんな顔しているのは初めて見る……一体どうしたんだ?




