ユーステッド、試着す
バルコニーのガラス扉を開けると冷たい風が肌に刺さってくる。明け方はもう息も白くなり、冬が近づいていることを感じる。
はじめの手紙が届いてから2週間経ち、昨日もう1通の手紙が届いた。友人はデルフィヌスに向かう旅の途中で出したみたいだ。寄り道をしながらゆっくりとこちらに来ているようだが……日付から逆算すると……今日明日くらいにはここへ来るだろう。
出迎えの準備をしたいのは山々なのだが、僕の……僕とティアの婚礼の準備も佳境なのだ。どちらかと言えば、婚礼の準備の方が大事。
「まぁ適当に案内したらいいだろう……それよりも今日は……」
コンコンッ
と、ノックの音。一瞬で顔がふにゃっとなるのが自分でもわかる。
「は、入っていいよ!」
「……失礼します。ユース……テッド様」
ゆっくりと入室し、スッと綺麗な礼をする……ロベリア。早足で駆け寄って、手を取って元気いっぱいに話しかける。
「ロベリアおはよう!今日はいい天気になってよかったね!僕はもう準備できているよ!」
「は、はぁ……では参りましょう」
なんだか怪訝な顔をしていたけど、上機嫌な僕は気にすることなくロベリアの手を引っ張って部屋を出る。今日は街にある仕立て屋に行って、婚礼の礼装を試着してサイズ合わせをするんだ。礼装自体は新しいものではなく、デルフィヌス家に代々伝わるものを着用しようって話をした。新しく仕立てることもできたけど、ティアは最初からアザレアが着用したドレスを着るつもりだったんだって。それなら僕も……って賛同して、シエル辺境伯の着用した礼装を、と。
先日、シエル辺境伯とアザレア夫妻の墓の前でティアと気持ちが通じ合えたのは……僕の言葉と想いだけじゃないって感じてるんだ。ふたりがいたから……ティアの幸せを願っていてくれたから……だから僕も『ふたり』と一緒に婚礼を挙げたいと思ったから。
街から屋敷までの坂の中腹にある仕立て屋のドアを叩き、入店する。
壁には色鮮やかな生地がたくさん詰まれ、カウンターの奥に見える広いテーブルには型に留められた作業途中の服、合わせた色はとてもセンスが良く、マネキンに掛けられた服も細かい刺繍が施されていて技術の高さを感じさせる。
「装飾店の時も思ったけれど……デルフィヌスの職人の技術はとても高いね……」
「交易は盛んではあるのですが……外来の技術を取り入れることは少ないので島にずっと伝わっている技術に磨きをかける者が多いのです。ですので……ひとつひとつが洗練されていっているのだと思います」
「流行り物をなんでも取り入れたらいいというものではないもんね。しかし……このデザインなら大陸でも十分通用する……だから交易品に高値がつくし少しづつだけど注目されて――」
最近書斎でずっと読んでいる交易の記録や関連書物のせいか、良い品物をみると勝手に脳内で思考が始まってしまう体質になってしまったようだ。ロベリアに肩を叩かれて我に返る。
「ユーステッド様……熱心なのは大変結構ですけれど……今日の目的は違います」
「あ、うん、ごめんね。店主!いるかい?」
奥からのそっと現れた仕立て屋の店主に挨拶し、婚礼で着る衣装を見せてもらう。
白いドレスには金色と緑で鮮やかに。そして……繊細にブドウの葉と蔓が刺繍されている。
僕が着る礼装はデルフィヌスの伝統的な衣装、白を基調としたデザインに落とし込み、ドレス同様、刺繍があるが同じ柄なのにどこか力強さを感じさせる仕立てになっている。
ロベリアは奥の試着室へ。僕はカウンターをカーテンで仕切り、その場で着替えをする。元のサイズはもちろんシエル辺境伯に合わされている。でも、『収穫祭』の衣装を着た時よりも体にピタッときている気がする。柔らかい素材で作られた服ではないからそう感じただけかもしれない。それでも、身長は変わっていないはずだ。少し……筋肉がついて体格が良くなったのかも。
「少し詰めれば大丈夫そうですね……なにかご要望があれば追加で刺繍か飾りなどお付けできますがどうなさいますか?」
「いや……このままがいい。このまま僕のサイズに合わせてくれるだけで十分だ」
「かしこまりました」
十分素晴らしい礼装なんだ。余計なことはしなくていいだろう。
シャッ――っと試着室のカーテンが開き、白いドレスに身を包んだ美しい女性が姿を見せる。
「……どう……かしら?」
「あぁ……うん……とても綺麗だ……」
さっきまでロベリアだった彼女は、ティアとなって僕の前で恥じらいながらドレスの裾を上げる。
あぁ……とても綺麗で……とても美しい。今すぐ抱きしめたい……けど今抱きしめたら針が刺さるっ!
両手をワキワキと上下に針が刺さらない程度に動かす僕はとてもマヌケに見えたんだろう。姿はティアなのに目線がロベリアになって「私は直すところがないので着替えます」と言って試着室に戻ってしまった。
「あ、あの……進めてもよろしいです?」
「はい……」
店主に引かれながら小一時間……礼装の試着を終え店を出た。
どこかで一緒に食事でもと思ったけど、昼の旅客船が入港するのが見えたので、ロベリアと一緒に港へ行くことに。友人の到着予定が近いことはロベリアも知っている。もし来ているなら迎えがないのはさすがに失礼だから。
冬になる前の旅行として観光に来る貴族が多くなる時期なんだそうだ。長期滞在し、『大漁祭』を楽しんでから島を出る。冬になればデルフィヌスに入港する船はほとんどなくなるからだ。
港へ着き辺りを見渡す……相変わらず目立つ奴だ。歩き回って探す必要がないのは助かるけど。
「……おや?迎えに来てくれたのかいユース!」
「たまたま予想が当たっただけ。でも……来てくれてうれしいよホセ」
キラッキラに輝く長い金髪をかきあげながら僕を見つけて喜んでいる長身の男。名はホセ・サジタリウス。サジタリオ王国の第4王子で、小さい頃からの僕の友人で……
「あまりにも遠すぎてどんな田舎かと思ったけど……いい所じゃないか。ここから見る限りでも女性たちも美しいね……」
王位になんて興味がないせいで父親に呆れられて、勝手に生きていいと王命を授かるほどの自由人で、運命の女性を探すという名目の元……手当たり次第女性に手を出そうとする……変態だ。




