ユーステッド、前進す
ひと悶着あったが『収穫祭』が始まる。
まずはティアと共に広場まで行き、昨日のあったことと新しく作った大桶の屋根の説明もしたんだ。そしたらすごい喜んでくれて……飾りを取り付ける時が楽しみだって笑ってくれた。
露店の店主にも挨拶しようって言ったんだけど、寝ているなら申し訳ないから後でまた来ましょうって……優しい。
最初に挨拶をしたのは、今日一緒に大桶に入る少女たち。
「ティアさまこのおじさんといっしょにやるの?」
「おじさんじゃなくておにいさんっていわないとおこられちゃうよ」
「よろしくおねがいしますゆー……ゆーしゅ?」
思った以上に少女だったので驚いた。一応まとめ役として今年はリリーも一緒に参加するとのことなのだが、屋敷で衣装の準備と残った雑務をして、ブドウの収穫後に合流するとのことだ。
「ユーでいいよ?僕は初めてだからみんなに教えてもらわないとわからないから……よろしくね?」
「いいよー!こうやってやるんだよー!」
「ちがうよぉ!こうやって、えいっえいっだよ!」
「ユーがはいったらこわれちゃうかもよーできるのー?」
カイと同じくらいかもう少し幼いくらいの女の子たち。あまりにもカイが大人すぎていたせいで忘れていたけど、同年代の子供ってこうだよな……ってなんだか安心した。ちょっとだけませてる感じはあるけど、とても可愛らしい。少しだけ厳しいご指導を受けて、またあとで……と別れを告げて広場を後にした。
ブドウの収穫まで少し時間があったので、マスターの店でお茶をしようってことになった。
店に入るとマスターはちょっと驚いた顔をしていたけど……すぐににっこりと笑って「いらっしゃい」といってテラスの席に案内してくれた。
「ティアちゃんひさしぶりね~!いつものでいいかしら?ユーくんも!」
「えぇ。おねがいします。」
向かい合って座って、朝のさわやかな風を浴びながら海を眺めて……しばらくして運ばれてきたのはカフェラテが2つ。
「はいおまたせ。ティアちゃんもユーくんもおこちゃまだからあまーくしてあるからね?ゆっくりしていってね?」
どうやら僕もティアも味覚が同じらしい。
一度も一緒にお茶をしたことがないし、お互いの好みなんて知らなかったからふたりしてきょとんとしてしまったけど……照れ笑いしながら同意にカップに口をつける。
ここへ来た直後には思わなかったけど……海鳥の飛ぶ様とかすかに聞こえる鳴き声が心地よく感じた。根絶やしにしようと思っていたことを思い出して心の中で謝罪をする。
気分もさっきより落ち着いてきたのか、ティアが話始める。
「先程は……ありがとうございました。まさか入り込んでいるとは思わなくて……」
「こういった催事がある時は人の横行が増えるからすべて把握しきれないことはよくあることだよ。ただ今回のことは僕もびっくりしたけどね……あははは……」
「どこまで……お知りになっていらっしゃるのですか……?」
それはそうだ。自分が話していないこと……しかもティアにとっては思い出したくもないだろう出来事を僕が知ってたんだ、気にならないわけがない。カイはきっと僕と会っていることは言っていないだろうし、リリーにも口止めはしていそうだ。けど、ここまできちゃったら話さないわけにはいかない。
カイと会って話をしたこと。そこで聞いたこと。シエル辺境伯の日記を読んだこともうひとつの秘密を除いて全部。
「ティアに会えなかったからっていうのは言い訳になっちゃうかもしれないけど……君を知りたいと思って結果的に色々なことを知りすぎてしまっていたかもしれない。いやだよね……自分から話をしていないのに……」
「いえ……いずれ知られていたことだと思います。隠していたわけではない……いずれ話そうと思っていたなんていうのは……私の方こそ言い訳になります。」
お互いに少しの後ろめたさがあり沈黙しまった。せっかくの『収穫祭』の日に、こんな気分でいては良くないだろうと僕は思い切ってティアに話しかける。
「私の――」
「そうだティア!これを受け取ってほしいんだ!」
ズボンのポケットからテーブルに置いたのは先ほど購入したティアへの贈り物。
「開けてみて?」
「は、はい……あ…きれい……」
繊細な銀細工で作られた小さい花がいくつも束になり、白と青の石が散りばめられて輝き咲き誇って揺れるイヤリング。手に取ったティアはイヤリングを見つめて嬉しそうに笑っている。
「僕はそこまでセンスがないから……ドレスとの色とかデザインのバランスを考えた装飾品……なんてところまでは考えられなかったけど……ティアのことを考えたらこれしかない!って思って……ええと……どうかな?」
「とても素敵……うれしい……ありがとうございますユーステッド様」
あぁ、良かった。その笑顔が見たかった……いや、これからずっと見続けていられたら……。
店内のカウンターからマスターもこちらを見ていて、グッと親指を立ててにこにこと笑ってくれていた。マスターも心配してくれていたし、これで少しは安心したかな?
「……ティア。すぐにこれを身に着けてくれなくてもいいんだ。君の心が落ち着いてからで構わないから……ね?」
「ユーステッド様……?それは……私はそんな……」
そうやって僕に触れようとした手は震えている。
「うん……大丈夫……無理しないで?ティア。そんな君を見ている方が僕は嫌だからいつも通りでね?」
「……っ」
そう言って僕は笑顔を向けた。目が合ったらティアは俯いちゃったけどね。困ってるとは思うけど、そんなティアも可愛いと思えちゃったんだ……少し意地悪だったかな……?ティアをずっと見ていたいなって思っていたけど、港の方からラッパの音が響いてきた。
どうやら結構な時間が経っていたようで、ティアがハッとして慌てた様子で立ち上がった。
「いけない!着替えをして向かわないと……!」
「もうそんな時間?遅刻したら笑われちゃうね?!急ごう!!」
「今日のお代はいらないわよ?いいもの見れちゃったしね?また広場で会いましょう?いってらっしゃい!」
マスターに見送られ、店を出た僕とティアは早足で屋敷に向かう。
屋敷の前でリリーがウロウロとして落ち着かない様子で左右に歩いているのが見えた。
「あーー!!おふたりとも急いでください~~!!」