ユーステッド、相談す
それこそ、僕の勘違いであってほしいと思う。
貴族同士の結婚は家同士の結婚であることは、平民でも分かっていることだ。だから日取りを決められいることは仕方のない事ではあると思う。元々感情を表に出さないで話をするロベリアだ。けど、所々、雰囲気的に喜んでるとか、恥ずかしがってるな……とかわかったりしていたんだ。
でも……今回、僕に婚礼のことを伝えた時のロベリアからは……なにも伝わってこなかった。嫌なこととも、嬉しいこととも、恥ずかしさとも……なにもない。
だから僕は余計に勘ぐってしまって。
僕が今やっていることは無駄なんじゃないかもって怖くなってしまった。もちろん、自分がティアとロベリアのことを知っているということを隠して過ごしていることは理解しているつもりだったけど……そこまで分厚い壁を作って感情を隠さなくていいのに……って。
「もうわからなくなってきてしまったよマスター……」
「あらぁ……ワタシもカイくんの言ったような距離のちぢめ方もありとは思ってるけど……想像以上にティアちゃんの心にかけられた鎖と錠は頑丈みたいねぇ」
翌日――……僕はいつも通りに街へ出て、祭りの準備で楽しく慌ただしく働く領民たちと触れ合ってきた。今日はさすがにいつも通りの散歩をしていたら邪魔になるかと思ってみているだけに留めたんだ。
領民も、僕が今年来たばかりだというのは理解しているから手伝いなどを頼まれたりはしなかった。純粋に楽しんでほしいと思っているんだろうな。だから、単純に見ると言っても、どんなことをしているのかを目に焼き付けてきた。
で、喉も乾いたな……ということでマスターの店に入って悶々としている気持ちを話しているわけだ。領民にはまだ、僕がティアの夫になるというのは知らないけれどマスターは知ってる。ティアもよくここを訪れていたのもあるし、当時の国境戦時のシエル辺境伯付きの騎士だったんだって。今は引退して夢だったカフェをのんびりと営んで暮らしてる。口も堅く、男の気持ちも女の気持ちもわかってくれる素晴らしい人だ。
「僕の気持ちは伝わってないって思う?」
「まぁ伝わってないわけじゃないと思うけれど……けっこう遠回しなやり方をしているからはっきりとは伝わってはないんじゃないかしら?」
「やっぱりそうかな?でも……ティアに嫌われたらと思うと怖くて……。また顔を合わせた時にはっきりと伝えたとしても嫌われてしまいそうだなって……」
「確かに男の人に対して怖いと思ってると思うけど……ユーくんは大丈夫そうな気も……」
「それは僕のことをカイと同じ息子だと思ってるからで……うぅ……マスター、もう一杯……」
なにか一つでも打開策でもあればいいなと……「お酒じゃないけど飲みすぎちゃだめよ」と言われながらおかわりしたカフェラテをすすり……考える。マスターも一緒に考えてくれてるみたいだ。
「そうだわ!アレよ!」
「あれ?」
「プ・レ・ゼ・ン・ト!これよぉ!ちょっと変なボケ方してるティアちゃんでも女の子なんだから!子供みたいだって思ってる相手から愛のこもった贈り物をもらったら少しくらいはキュンすると思うわ!完全に嫌われてるわけじゃないんだから!どう?!」
プレゼントか……いいかもしれない。
ここに来てなんだかんだで色々してもらっているばかりで僕からなにかをしたことはない。物を贈るどころか……もらってばかりだ。なら、いい機会でもある。
「『収穫祭』に合わせて本土の方から行商人も沢山島に来ているわ。露店なら今日からやってるし……ここは場所が場所だから流行り物にみんな疎いの。だから珍しくて素敵なものが見つけられるかもしれないわよ?」
「そうだね……ありだ!行ってくる!今日も美味しかったよマスター!ありがとう!」
思い立ったらなんとやら。代金をカウンターに置いて僕は店を出た。
「せっかくの『収穫祭』なんだから……実りある良き日にしないともったいないわ……ねぇ――」
港にある広場へ小走りで向かう。
さっきまで人混みで広場に近づけなかったけど、昼を過ぎて少し引いたみたいだ。
中央では例の大桶の準備をしていて、ジュリーの頭もちらっと見えた。最近僕の周りの世話をロベリアがしていたのはジュリーが力仕事でこっちにかかりっきりだったのもある。あとで声をかけようかな。
半円状に開けている広場を囲うように目新しい露店がいくつも並んでいる。
普段ここでは見ない食材も売られているし、見慣れない服や反物、調度品も並んでいたりする。
安直ではあると思うけど……女性に贈り物をするのならアクセサリーがいい!と、思って探していると……キンキンっという金属音が聞こえてきた。
鍛冶でもやっているのかと思ったけどそこまで大げさな音じゃない。小さく細かい細工をする時に出る音だ。釣られて近くまで行くと、お目当てのアクセサリーや髪飾りを売っている露店だった。
「いらっしゃい。ゆっくりみていってくれ」
店主である中年の男が僕に挨拶をしてすぐに手元で行っている作業に移った。
言われた通りじっくりと商品を拝見することにした。パッと見だと花を模した細工の物が多く、宝石も使われている物もある。
「こんな細かく……宝石も埋め込めるものなのか……」
「それは宝石になるほどの価値がないもんだ。色のついた鉱石の破片をできる限り輝くように削っただけだ。だから……そんなに値の張るもんじゃない。が……誰にでも手に取りやすいように作ってある」
僕がこぼした言葉を拾った店主が、ぼそりぼそり教えてくれた。
申し訳ないが顔の割に繊細な仕事をするのだと感心してしまった。しかも、只売りにくるだけではなく、その場で新しい商品を作っているんだ。自分の作り出すものに自信があるのももちろんだろうけど、常に触っていないと落ち着かないんだろうなと感じさせる、立派な職人。
「こっちにあるのは……不自然なくぼみがあるけどどうしてだ?」
「あぁ。この中から好みの物を選んで俺がここで仕上げてるんだ。自分の為でもいいし相手を想って選んでもいい。加工料含めて銀貨5枚だ」
髪飾り、首飾り、耳飾り……色々な細工が用意されている。銀貨5枚なら安い方だ。
皮袋に入っている様々な色の鉱石を選ぶのも楽しい。なにより……相手を想って、相手の色を見つけるという行為が……嬉しいし楽しい。
「……ゆっくり選ぶといい」
集中して、鉱石と飾りを交互にみながらどれを合わせるか悩んでいると……広場の中央から大きな音が響いた。




