ユーステッド、行動す
カイは本当に5歳なのかと……そう思わざるを得ないほど頭の回転がはやい子だ。僕にも少し分けてほしいくらい。
「ティアはロベリアであることで自分を守っているんですが……それゆえに油断してるところもあるんです。わかります?」
「えっと……自分をロベリアという別の仮面をつけてなりきっているから、苦手なものが苦手じゃなくなってる……?」
「……まぁそんな感じの認識でいいですけど……それでも好きなものに関しては変わってないんです」
「好きなもの?」
「ボクです」
どや顔のカイ。そりゃあ……亡き夫の息子で、育てているのはティアだから可愛くないわけがないだろうけど……自分で言うんだ……。
「ボクも……なんでずっとロベリアとしてそばにいるのか疑問でしたけど……いつの間にかそうしていることが心地よくなったのかもしれないですね。最初は男性であるからという理由でロベリアとして近づいていたと思います。ユーステッドがどんな人間であるか見定めるためにです。いつがきっかけかわからないですけど……さっきの理屈からいくと子供だと認識させたことで好きなものになった……ということなると思うんです」
「……うん?」
「だから無意識に距離が近くなってるってわけです」
「いや……それは嫌だ……不本意だ。そこだけ好きになられても困る。やだ!」
「そういうところなんでしょうねぇ……」
カイの言うことがその通りであるのなら……僕のティアへの気持ちと、ティアが僕を想う気持ちが全く違う。形式上夫婦になってもそれじゃダメだ。そんな一方通行なんていやだ。デカい息子扱いなんていやだ……。
「……良い傾向と思ってください。まず、ロベリアを落としましょう」
「おとっ……?!」
「ガードのゆるいロベリアに子供じゃないところを少しずつわからせるんです!」
「わからせ……?!君ほんとに5歳……?いつ覚えたんだそんな言葉……」
僕が言うのもおかしいかもしれないけど、覚える言葉や知識はもう少し選んだ方がいいと思う。ティアの前ではどんな態度でいるかはわからないけど……僕はこんな息子嫌だな……。
「ボクも変ですけどティアもちょっと変なんですよ。昨晩伝えたかったことだってたぶん『貴方をちゃんと夫として愛することができないかもしれない』っていうことがおかしくなっちゃったんだと思います。」
「えぇ……?絶対そんな感じじゃなかったよ……?」
「いいんです!そこはいいように勘違いしましょう!……過去に嫌なことがあったことは事実ですけど……それでも前を向こうとしてティアなりに頑張っているってことわかってくださいね!……以上です。理由がボクの為であるならライバルだとしてもそこはフェアじゃないので……助言という形で協力させてもらいました」
あぁ……こういう時こそ、僕の本領を発揮しろってこと?今まで自分のいいように解釈して判断してたからこそできるだろって言いたいんだね、カイ。
「あ、そうだ。ティアはたぶんロベリアが自分だとバレてないと思ってます。ので……知らないフリをして行動してください」
「……わかった」
僕がへまをしない限り、僕がロベリアのことをおと……口説くとティアの心も解くことができるだろうってことになるわけか……やるしかない。カイの気持ちもティアの気持ちも僕が――うん、できそうな気がしてきた。
「あれ……そういえばユーステッドはどこでティアがロベリアだってわかったんですか?」
「ユースでいいよカイ。えぇっと……僕は昨日の晩のティアの残り香とロベリアの匂いが同じだったからわかったんだけど。僕ね……ロベリアにすごいドキドキしちゃっててさ。ティアがいるのに不純だあ!って思ってたんだけどちゃんとティアにドキドキしてたってことだもんね!よかったぁ…………って……なんでそんな顔してるの」
「……匂い嗅ぎまくってる人が義父になるのは不安だと考えてます」
「い、いつも匂いかいでるわけじゃないぞ!そこは勘違いしないでくれ!」
その後、リリーが入れなおしたハーブティを頂いて……僕は書斎へ向かった。
今日は散歩はお休みで、書斎の整理をする。僕が毎日通うものだから処分せずにそのまま残そうという話になったんだ。
なので……さっそくロベリアと一緒になったわけで……。
「ホコリを払いますので一度廊下へ出ていただいてもよろしいですか?」
「あ……うん。わかった」
本当にバレてないと思ってるみたいで……昨日となんら変わりなく、いつも通りのロベリアだった。だから余計に僕だけが緊張してしまっている……けど、とりあえずは僕も普通にしていればいいだけだから……大丈夫。
ギギギっという鈍い音をさせて……長い時間開けていなかっただろう窓が開く。バルコニーから入る風と同じ、気持ちのいい風が廊下にも流れ込んでくる。パタパタとハタキを使って本棚のホコリをはらうロベリアを部屋の入口からチラッと……どうしてもうなじが気になる。どうしたんだろうほんとに……しかもそれがティアのうなじってことになるんだからそりゃもう……。
「ユーステッド様?」
「はっい!」
「せっかくですから本も虫干しましょう。手伝って頂いてもよろしいでしょうか?」
「あぁいいね!そうしよう!」
数冊の本を僕は抱える。ロベリアは庭の方に布を敷くため一旦手ぶらで一緒に部屋を出る。
少しだけの距離だけど、黙っているのももったいないと思った僕は昨日のお礼を言うことにした。
「ロベリア……昨日はありがとう。ティアと話ができたよ」
「いえ……ティア様も申し訳なく思っていたようでしたので良かったです。」
なんだかむずがゆい。僕が隠し事しているみたいで変な気分になってしまう。
「僕はどうやら子供みたいに思われちゃってるみたいなんだ。ちょっと恥ずかしいなって思った」
「そうですか」
「でも今は……それでいいんだ。少しずつ僕を知ってもらえるように僕が変わらないといけないんだって思えたし。まだ見たことのない僕のかっこいいところを見てもらえるかもしれないからね!」
「……」
「僕はね……ここにきて自分が変わったんだってわかってきたところなんだ。だから故郷にいた時の様に横暴な振る舞いをしてティア自身の気持ちを無視して無理矢理僕を好きだって言ってほしいなんて思ってないし……してほしくないって思ってる。だから……本当に少しずつでいいんだよ」
「……そう、ですか」
ちょっとまずかったかな……ティアに話しかけている感覚で話をしてしまった、かも。




