ユーステッド、入国す
私の浅い貴族知識で読み取りにくい所があるかとおもいますが、作品愛は満ち満ちております。
ユーステッドくんの成長と少しづつ歩み寄って大きくなっていく愛のカタチに少しでもドキドキしたり、ワクワクしたり、そうじゃないんだよなぁぁぁ?!っていうツッコミをしながらお楽しみいただけたらと思います!
天候は快晴、僕の心は残念ながら、雨模様。
長時間、べたつく潮風を浴びた僕の自慢のシルバーブルーの髪はギシギシ、陸が近づいて海鳥の鳴き声もうるさくなってきて、さらに気分は下がっていく。
大きなため息が何回もでる。甲板から見えてきた大きな島の大きな船着き場に船が寄せられていき……自国を出発して20日、とうとう、着いてしまったのだ……。
ボトッ…「ァーァーァーッ!」
「…は?」
甲板の木の手すりに乗せていた僕の絹のような手に海鳥が落とし物をしていった。
思わぬ大歓迎に涙が出るよ、僕が王太子のままなら、ここの海鳥たちを根こそぎ狩り捕って根絶やしにさせる命令を出しているくらいに、だ。
「チッ……降りるぞ!荷物をも――……」
ハンカチで落とし物を拭いながら声を上げてしまったが……いままで通り付き添っている従者はもういないのだ。同じように船を降りる乗客から冷ややかな視線をもらってしまう。
「(ひとりで遠出など……一度もしたことなんてない。)」
婚約者であったアリアンナ・カネス公爵令嬢に婚約破棄をされたあの日――僕は王位継承権を無くし、故郷の国からも追放された……。
正直、納得はいっていない。
本当なら、僕があの場でアリアンナを断罪して、エリカと末永く幸せに、ラブラブでイチャイチャで……ハッピーに過ごすはずだったんだ。
なのに、僕が勘違いしていた?悪逆非道?王太子にあるまじき行動?勝手なことばかり……僕は……僕の見初めた女性に、敬意と愛情を示すために行動しただけ。
アリアンナからあらぬことを吹き込まれていただろう父は、僕の言葉を一切聞かず、隣の隣の隣のそのまた隣の端っこの、アリーズ王国からはるか西、パイシーズ王国に属する大小さまざまな島が群を成す珍しい国制によって女性が辺境伯として治めることを許されている領地、デルフィヌス領へ……
「婿入りだと……?この僕が……!」
少し欲張りすぎたかもしれない……形が変わるほどパンパンに荷物を詰めた革のカバンを引きずりながら、僕は船を降り、近くにあった木箱に腰かけ、迎えに来ると言われている侍女を待つ。
「おい、にいちゃん。」
「のわっ!なんだきさ……おまえさんは!」
屈強な体形の僕の身長をはるかに超える、いかにも船乗りといった風体の男に突然声をかけられてビビる。
「あ?変な言葉遣いだな……まぁいいや。にいちゃんが座ってるその木箱、荷物を運ぶんだ、どいてくれ」
「あ、あぁ……それはすまない。」
あわてて離れて……ついでだ、すこし聞いてみるか。肩に木箱を背負う男に声をかける。
「仕事中すまないのだが……ここは、どんなところなんだ?」
「っしょ……なんだぁ?なんも知らねぇのに来たのか?うーん……どんなところって言われてもな…そうだな――」
基本的な収入源は漁業と工芸品の交易。
豊かな海から生まれる資源は豊富で、季節ごとにさまざまな魚や貝などの海産物が獲れる。鮮魚はもちろんだが、魚の加工品も有名。貝殻から加工される工芸品や調度品、アクセサリーも人気で、近隣諸国の女性や貴族の間で人気なんだそうだ。漁業、加工、工芸品……幅広く事業を展開しているおかげで、失業率が他国より群を抜いて低く、最近では観光にも力を入れ始めたこともあり、今一番といってもいいほど豊かに成長をしている。らしい。
「まぁ、こうして元気よく働いて、おわりゃあうまい飯と酒が飲める……すべては辺境伯であるティア様のおかげさ」
「ティア……?」
「すげぇやり手だでな、俺たち領民もたじたじよ?はっはっはっは!」
大きな笑い声を上げて豪快に去っていく船乗りの男に礼を言って見送る。
事前情報はほぼない……というか、嫁ぎ先の情報を教えてくれなかった父も父だし、その時頭が真っ白になってしまっていた僕も僕なのだけど……。
「やり手……ってことは相当きつそうな性格なのか……?アリアンナよりも?しかも年上だろ……?」
口に出したくもないが、僕は、婿入りする。
「姉さん女房というやつだ、しっかりと物事を見る目と、相手を敬うことを学ぶのだぞ」とだけは父から言われたから、年上ということだけは確定している。
「はぁ……。」
また、大きなため息が出てしまった
……いや、待つんだ。
……よく、考えるんだ。
年上の女の辺境伯が、国を追放された若くて顔のいい男こと、僕の婿入りを許したんだぞ?
例え治めている領地の管理が完璧……と言っても、その真面目さの裏になにか特殊な性癖でも隠しているに違いない。父はああ言っていたが、日々領地の為に尽力しているのならば、その反動で抱えたストレスを発散させる為に僕を……僕に対して夜な夜なあんなことや、こんなことを……するに違いない!
「……とんでもない女だ。」
そうだ……そうだぞユーステッド!
きっと父は追放と称して、この僕に、デルフィヌス領を牛耳る辺境伯の正体を暴かせるために送り込んだ……あの日の夜会の出来事も、わざわざ婿入りさせるために起こした茶番劇だったんだ……これなら、合点が行くぞ……
「……やってみせます!」
ずっと気が滅入っていたが、そうと分かれば……元気がいっぱい出てきたぞ!こんなところにとどまっているわけにもいかない、さっさと移動を……
ガッ……バゴンッ!
「いったぁ……ってあぁぁぁああ!!!」
勢いよく踏み出した右足が僕の手荷物に当たり、カバンの留め具がはじけ飛び、海風に乗って中身が飛んでいく。ほとんどが着替えだ……その中でも重さの少ない下着がそこかしこにばらまかれていった。
恥ずかしいぞ!
「ユーステッド様でございま―」
ファサっと……
声をかけてきた身長の高い女性の頭に、一枚の白い布が狙ってたかのように覆いかぶさった。
「ぼ、ぼくの……ヒツジさんパンツ……」
今は亡き母が病床に臥せっている時、最後の最後の贈り物として苦手だった刺繍をしてくれた、大事なパンツが。
「……侍女のロベリア・ポランスと申します。」
「…………ご、ごきげんよう」
僕のパンツを頭から掴み取り、手に握ったまま挨拶する彼女の表情は無表情のまま。
見ての通りだが……これから共に過ごすことになるだろう、侍女ロベリアの僕に対しての第一印象は……最悪だっただろう。