ユーステッド、休憩す
へとへとになって坂を上って屋敷に戻る途中、見つけたカフェがあった。ほんとうに、たまたま。道を一本間違えた時に見つけた店だ。
故郷にあった流行りに乗った派手なカフェではなく、落ち着いた大人のお店といった雰囲気がとてもそそられた。あまり見ないコーヒーの淹れ方をしているのも魅力的だったんだ。サイフォン式っていうんだって。
「ほぁ………」
コポコポと不思議な形をした器の中で沸くお湯をみていたら、なんとも言えない声を上げてしまったのをマスターは気が付いたようで、そこから話をするようになって仲良くなった……と思う。マスターからみたらただのお客様なだけかもしれないけど、ここで聞く話はとても勉強になった。書斎で読んだ本の内容の復習にもなってる。それと……
「あらいらっしゃい。今日も疲れた顔してるわねぇ?いつものでいいかしら?」
「う、うん」
ティアの話が聞けるんだ。
本当にどうしたことかティアはぜんっっっぜん姿を見せない。
ジュリーに聞いてもリリーに聞いてもロベリアに聞いても視察視察……カイにも聞いたりしたけどまだ帰らないですってさぁ……僕、なにかしちゃったのかな……
「はぁ……」
「ちょっと!ため息なんてやめなさい!キュンが逃げるわよキュンが!」
「また会えなかったんだよ……」
直接本人と話をして、僕がどういう人間であるか……とか、僕が今やってることとかも……いっぱい話したいことがあるんだけどな……
「そうなの?ティアちゃんも焦らすわねぇ……でもアタシがなんでもかんでも教え過ぎちゃうのもねぇ……彼女に悪い気もしてきたわ……」
「そうだよね……でも他の人に相談もしにくいし……」
「まだアタシだからいいけど、あんまりいろんな人に聞きまわってるとただの不審者になっちゃうわよ?」
そうか……ティア自身が話していないことを知ってるとか本人からしたら怖いことだよ……ね……。
これは、まずい。
知ろう知ろうと……その気持ちだけ先走ってそんなことは頭になかった……これじゃまた違う印象を与えてしまうだろうし、また間違えたことをしてしまう……カイにも笑われてしまう?
「どうしよう……僕はそんなつもりなかったのに……マスタァァ……」
「ユーくんはほんと面白いわねぇ……そうね……あ……ロベリアちゃんはお屋敷にいるんでしょ?」
「うん、いるけど……なんで?」
「ロベリアちゃんはティアちゃんの侍女でしょ?ちゃぁんとティアちゃんと話をしたい!会いたい!って相談してみたら?今まで聞いたことないの?」
確かに。ティアはどこにいるとか、いつ帰るとかしか聞いたことなかった。
「ユーくんって真っ直ぐすぎるのよ。そのせいで気が回らなくなっちゃって知りたい欲に一直線になっちゃてるわ。いい所でもあるけど、それだけじゃ相手に気持ちは伝わらないわよ?」
「僕……自分でやろうって思ったことに夢中で楽しくなっちゃってて……ダメだなぁ……」
「それは悪い事じゃないからそのまま続けなさい?とりあえず今日はそれを飲んだら帰った方がいいわ……ね?」
「うんそうする……頑張ってみるよ!」
ミルクたっぷりの甘いカフェオレをゆっくりと飲んで……席を立つ。
「……こんなアタシを奇異の目でみないで一発で受け入れた子よ?心配ないわティアちゃん……」
「なにかいった?マスター?」
「なんでもないわ……またお話聞かせてね?」
マスターに手を振って店を出て屋敷に戻る。
「なんでこんなに緊張してるんだろ……」
寝室に戻って即行動!のつもりがベットに突っ伏してしまった。
素直に聴けばいいとは言われたのはいいものの……ロベリアを見るとどうしてもこう……モヤッとするっとするっていうか……
コンコンッ……と、ノックの音。
「……よろしいでしょうか?」
「ヴェゥッ!……い、いいよ、なにかな?」
「失礼します。寸法の確認をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ!あれだね?」
ロベリアが持ってきたのは『収穫祭』の時のブドウの加工をする時に着用する服。白いシャツに7分丈くらいの黒いズボンのセットだ。僕用に新品を用意することもできたんだけど、書斎に詰めている時に端に追いやられていた木箱の中から見つけたもの。ロベリアに聞いたら……仕立てたのは良かったが着ることは叶わなかった……とのこと。「もったいない!」と言って、僕のわがままで直してもらうことになったんだ。
とりあえず袖を通してみたけど……
「結構シンプルな服なん………くっ!!」
「なるほど。両手をあげてください……はい。すぐ終わりますので動かないでくださいね」
……シエル辺境伯のサイズに合わせてあるから……僕が着ればそりゃあブカブカで不格好になった。僕も一応……身長はそれなりだと思っているけどちょっと足りないし、それ以前に体格が全然違ったわけなんだけど……。
くるくると。僕の周りをまわりながら袖の長さや胸囲、腹囲、ズボンの丈の確認をし、詰める箇所に針を刺していく。
「ロベリアは裁縫も得意なの?」
「簡単なものでしたら。こういったものの仕立て直し自体は職人にお願いしますけれど……」
しゃがんだロベリアからフワッと甘い香りがして、追うようにズボンの裾を触っている彼女を見下ろした。真剣に針を刺す位置を考えている表情と、まとめ上げられたきれいな髪……うなじが……。
なんでこんなにうなじが気になるんだろう……
「ゴクリ……」
「?ユーステッド様?喉でもかわきましたか?」
生唾を飲み込む音が聞こえてしまったのか、しゃがんだままロベリアは僕を見上げる……ロベリアの上目遣いにドキッとしてしまった。
「わ、な、だ、だ、だいじょ……っ!」
「動いたら針が……!」
なにを考えているんだ僕は!ティアというものがありながら彼女に仕える侍女に胸を高鳴らせるなんて不純にも程があるだろ……!と、動揺してしまって腕をうごかしてしまい、チクリと腕に針が刺さってしまった。珍しくロベリアが慌てている感じがする。
「お怪我は!」
「いや、動いた僕が悪いしこれくらいなら全然大丈夫……あ、でも血が付いてしまっていないかな?大事なものなのに汚しては……」
ピンっと姿勢を戻して、慌てる僕を見たロベリアの表情がちょっと緩んだ気がした。
「服は替えがききます……けれど、私は怪我の方が心配です……たとえ小さな傷だとしても、なにがあるかわかりませんから」
「ロベリア……?」
優しく……服に刺してあった針をすべて抜き、針が刺さったかもしれない腕の袖をまくり上げて傷を確認してくれた。関節近くの二の腕の内側に刺さってしまったようで、痛みこそそこまでではなかったけど、ぷっくりと丸く血が出ていた。僕の腕を上にあげ、ロベリアはそっと唇を寄せて吸い取った。
「ろ、ろろろ、ろ、ロベリア?!」
「あ……申し訳ありません。つい……」
つい?ついってなに!?
パンツの時並みの気まずさが再到来したけど……なんだかちょっと違う空気になってしまった。
マスターは昔からあるカフェを経営しているおネエさん。大人な雰囲気はマスターからもかもし出されているのでしょう。
ユーステッドの身長は175cmでヒョロヒョロ、シエル辺境伯は180cmくらいで筋肉質でした。
ちなみにロベリアも高身長なので170cmあります。




