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「それが君の望みかい?」
声が聞こえた。手の中にあったカッターナイフはなく、代わりに見慣れないものがそこにあった。
なにこれ。
ステッキだった。先端には丸い水晶がついており、真鍮製だろうか、周りに金色の装飾がある。花びらをかたどったものだろうか。持ち手部分は木でできていて、色がピンクや青などだったら魔法少女の変身アイテムに見えたかもしれないが、素材が素材なのでちょっとした高級品のように思える。
声が聞こえた方をみる。真後ろ。
可愛らしい人形のようなものがあった。サイズは小型犬ぐらいで、色は白。いや、ものではない。動いている。生き物?見たことのない生き物だ。しかもしゃべった。人間の言葉をしゃべる小動物。見たこともないし聞いたこともない。なんだ、あれ。
「どうしたの?」
また喋った。女性か男性かわからない。子供の、可愛らしい声。
「・・・なんなの?こいつ」
「こいつとはひどいなぁ。ボクにも名前はあるよ」
「また喋った」
「人を珍しい動物のように・・・いや、今のボクは珍しい動物か」
クスクス笑う。なんなの、こいつ。
「空渕かすみ。君の望みを叶えに来た」
私の、望み?
「忘れたのかい?『うまくいくといいな』と、君がさっき言ったんじゃないか」
「・・・『来世は』、でしょ。まだ来世じゃない」
「そうなのかい?じゃあ、次に進もう」
「あなたが止めたんでしょう!?返してよ、私の・・・」
「ん?なにか借りてたっけ?」
「・・・ナイフ。取ったでしょ、あなた」
小動物は、ん?と首をかしげて、ああ、と納得したようにうなずいた。
「君に迫る脅威を取り除いた。【保護者】として、当然のことだよ」
「・・・はぁ?」
脅威。保護者。何言ってるんだ、こいつ。
いらいらする。無性に。この変な生き物も、自分自身も。
「とにかく返してよ」
「大事なものだったのかい?だめだよ、丁寧に扱わないと。あのままじゃ君、死んでたよ」
ぷつん
「・・・死にたいんだよ」
「え?」
「私は、死にたかったんだよ!」
声を荒げる。きょとんとした顔をする小動物。
「なんで止めたの!?なんで死んじゃいけないの!?なんで!?」
「自分が生きていても何にもならない、自分が死んでも何にもならない!」
「お母さんにだって心配ばっかりかけた、お母さんは何も悪くないのに!」
「特にいじめられてもない、友達がいなかったわけでもない、それなのに学校が息苦しくて」
「学校を休んで」「リスカして」「ご飯も食べずに部屋にこもって」「いらない子」「悪い子」「苦しみなんて知らないくせに」「意味もなく泣いて」「頭がなぜだか痛くって」「自分が嫌になって」「夢も希望もない」「薬に手を出そうともして」「でも勇気がなくて」「生きることしかできない」「死ぬことしかできない」
「もうなにも知らない」
「もう全部、」
「勝手にしやがれ!」
むしゃくしゃして全部叫ぶ。
「そうかい。じゃあ、勝手にさせてもらおう、」
何か言ってる。もうどうでもいい。私は死ぬんだ、どうにでもなれ。
「魔法少女に。」