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くすり ごっくん できたね

作者: さば缶

まいにち まいにち、ようちえんの はなこちゃんは かぜを ひいて しまいました。

はなこちゃんは くすりが だいきらい。 にがいし、へんな においが するし、のどに つまる みたいで こわいから です。


でも、おかあさんが いいます。

「はなこ、これを のんだら げんきに なるのよ。 がんばって のんで みて」


はなこちゃんは しぶしぶ くち に ちいさな じょうざいを いれました。

おみずで ごくんと のみこむと、おくちの なかが ほろにがく なりました。


「くすり ごっくん できたね」

おかあさんの こえは、まるで ほめて くれているように きこえます。


でも、その よる。

まっくらな へやで ねむろうと していた はなこちゃんは、かさかさ… かさかさ… という へんな おとを ききました。

「なにの おと かな…」

はなこちゃんが ふとんの なかから のぞくと、まっくらな すみっこで なにかが うごいて います。


かさかさ… かさかさ…

そっと ちかづいて みると、そこには ちいさな しろい じょうざいが ころころ と ころがって いました。

「こんな ところに くすりが…?」


じょうざいは ころころ… ころころ… と うごきながら、かすかに つぶやきます。

「くすり ごっくん できたね… いいこ だね… ごっくん できたね…」


はなこちゃんは こわくなって ふとんに もぐり、めを ぎゅっと とじました。

でも、その よるは その つぶやきが ずっと きこえて、なかなか ねむれません。

「くすり ごっくん できたね… もっと… ごっくん… して…」


つぎの あさ、おかあさんに はなしを しても、おかあさんは

「ゆめを みたのね。 もう だいじょうぶよ。 くすりを のめば、すぐ げんきに なるわ」

と、にっこり わらう だけ でした。


しかし、その よるも おなじ こえが きこえます。

まどから のぞく まっくろな かげが ひそひそと ささやいて いるのです。

「ごっくん… ごっくん… もっと のんで…」


はなこちゃんの からだじゅうは どきどき して、はやい いきに なります。

そして いつのまにか、くちの なかに にがい あじが ひろがるのです。

「くすり ごっくん できたね… のんで くれるの… もっと… もっと…」


そのとき、はなこちゃんの てのひら に あった はずの くすりが、

けむり の ように すこしずつ きえて いきました。

「くすり ごっくん できたね…」


たしかに くすりを のむと、かぜの ぐあいは よく なって いく はず。

でも、まいにち のむ たびに、あの かさかさ した しろい じょうざいが めの まえを ころころ… ころころ… と はしりまわる イメージが はなれなく なりました。


そして あの しめっぽい こえも ちかづいて きます。

「ごっくん… ごっくん… もっと のんで…」


ある あさ、はなこちゃんは げんきに なって きたはず なのに、こころ は なんだか くらいまま。

おかあさんは 「やっぱり くすりは もう すこし つづけようね」と いいました。

はなこちゃんは こわい けれど、また のまなきゃ いけません。


やがて、その かげの こえは まどの そと だけ じゃなく、

はなこちゃんの みみもとで ささやく ように なって きました。

「くすり ごっくん できたね… どんどん のんで…」


はなこちゃんは ふるえながら もう いちど めを とじます。

でも、あの こえは はなれません。

「くすり… ごっくん… できた… ね…」


まいにち のむ たびに、はなこちゃんの からだは げんきに なる かわりに、

こころ が くらやみに しずんで いくように かんじます。


──「くすり ごっくん できたね」

その ひそひそと した ささやき は、はなこちゃんの からだの なか に すみついて、

もう ずっと はなれなく なって しまった のです。


おしまい。

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