彼女の事実
陽一が一目惚れをして呆けている間湯原は設置作業や利用者のフォローに駆けずりまわっていた。
湯原は今の仕事はどちらかというとブラックで好きじゃないが利用者から慕われるのは悪い気がしないと思ってた。
「湯原さんが連れてきたお友達が道の真ん中でずっとボーッとしてるんですけど大丈夫ですか?」
「えっ、マジっすか?ちょっと様子を見てきます」
まったく、利用者じゃないんだから面倒をかけるなよと思う一方でサボる口実ができて陽一を連れてきて良かったとも思う。
「陽一どうした?」
「なぁ、あそこで試合をしてるあの娘知ってる?」
「さぁ?うちの法人関係の利用者以外は知らないからな」
「ぶつかった時に話しかけられたんだけど好きになっちゃって」
なんて単純なんだろう。
でも面白そうだから情報収集をする事にした。
「ちょっと引率者に話聞いてきてやるよ!」
湯原はそう言い残して彼女の元にかけていった。
「こんにちは。この大会の運営元の法人で働いてる湯原と申します。今のサーブ凄いですね!あの選手は?」
湯原が話を聞いてる間、陽一は手持ち無沙汰で挙動不審になっていた。
「お待たせ!あの子は坂井シホさんって言って幼い頃の高熱で耳が聞こえなくなったみたいだ。」
「うん、携帯の文字入力でやり取りしたから耳が聞こえないのは知ってた。」
「マジかよ。耳が聞こえない人と接するのって陽一が思ってるより大変だと思うぞ。それより大変な事実が一つあってな。彼女は実は…」
次の湯原の言葉が陽一の頭を駆け巡る。
受け入れ難いその事実は耳が聞こえないことではない。
坂井シホは未婚のシングルマザーだったのだ。