予備軍
陽一は手作りのお菓子をリュックに忍ばせると手慣れた様子で受付を済ませる。
シオンに完全に惚れてしまった陽一はあの日から何回かこの恋人の館に通っている。
もちろんシオン指名である。
非正規といえど実家暮らしで趣味という趣味もない陽一はある程度纏まった貯金はあった。
陽一の番号が呼ばれ念願のシオンと対面する。
「また来てくれたんだね!いつもありがとう」
「いえいえ。このまえシオンちゃんケーキ好きって言ってたよね?俺作って来たんだ」
おもむろに陽一はリュックから取り出す。
「ありがとう、後で食べるね」
シオリはケーキを受け取った。
(怖っ、何が入ってるか分からないし処分も面倒なんだよね)
差し入れをくれるお客も一定数はいるが既製品ならまだしも手作りはこれまでもシオンは処分してきた。
そうとも知らずに陽一は受け取ってもらえたと思って大喜びだ。
陽一は徐にベットに腰を掛け手作りのケーキの説明をしだしたと思ったら今観ている流行りのアニメの話が始まった。これは前回シオンからポロッと観ているアニメの話が出たので陽一も慌てて全話観たのである。
服も脱がずに陽一の話は続き終了の時間は刻一刻と近付いてくる。シオンは愛想笑いをしながら相槌を打つ。そしてとうとう何もせずに終了のアラームがなってしまった。
実は陽一は拗らせた考え方で何もしないで話すだけにすればシオンも楽だし誠実に思われる好感度も上がるだろうと考えていた。
そう、陽一は初来店の時に手で抜いて貰ったらだけで通っているのに未だに素人童貞ですらなく童貞なのである。
果たしてこれについてシオンがどう思ってるかと言うと…
(拗らせ過ぎてて気持ち悪いし興味ない話を長々とされるぐらいならする事してしまった方が楽でいい…あの人は何を風俗に求めているんだろう)
と思われている始末であった。
風俗帰りの陽一に日課が一つ出来ていた。シオンが出勤後に近くの大型ディスカウントストアに寄っていく事があると聞いて閉店まで店を彷徨う事である。
もちろん偶然を装って会う為であるが一度も見かけた事がない。
ある日、異変が起きた。
ホームページからシオンの写真が消えていたのである。