第三話 アムステル島決戦③
最後の砦には無数の砲弾が降り続いていた。
けれども決してそれらは砦には直撃しない。
ヴィールが防御魔法を展開し、砲弾のほとんどを切り裂いているからだ。
トゥルーは地上から響いてくる轟音を聞きながら、魔法陣の発動を急いでいた。
平和のために死んでいった仲間たちの悲願を、成し遂げることができるのは自分しかいないからだ。
一方、ヴィールはイライラしていた。
反撃して戦闘機に斬撃を浴びせても、次から次へと替わりの戦闘機はやってくる。
港から砲撃してくる艦隊には遠すぎて、斬撃が完全に届かない。
防御魔法によって魔力はジリジリとすり減っていき、完全に防衛戦になってしまっている。
「仕方あるまい……賭けになるが、攻めに転じるとするか」
ヴィールは砲弾や戦闘機に刀剣を振るうのをやめた。
防御魔法の耐久が減っていくのを気にすることなく、ヴィールは空で飛び回る戦闘機に掌を向けた。
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「総司令官殿、大変ですっ!!」
「どうした? 作戦に支障が出たか?」
「それが……戦闘機がコントロールを失って、空中衝突や戦艦に突っ込むのを繰り返しているようです!!」
「なんだと!?」
「第一艦隊からの通信が完全に途絶!!」
「第二艦隊と第三艦隊、空戦戦力がほとんどが消滅したとのこと!!救助要請が出ています!!」
ヴァンラントは怒りで歯ぎしりした。
自分の名誉に傷がついたこと、諜報機関の無能さに対して。
「巫山戯るなっ!!あの化け物がこんな芸当をできるなんか聞いていないぞ!?!?」
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ヴィールは戦闘機の動力源の魔力を操り、戦闘機を空中衝突させ、砲弾を撃ってくる戦艦に戦闘機を突っ込ませていた。
ヴィールがこの戦い方を普段しないのは非効率であるからだ。
魔力を無理やり操るのは魔力消費量が大きく、長期戦になると不利になるからである。
この状況下においては長期戦のこと考える必要が無く、出し惜しみする理由がない。
「どうした? そんな鉄製のおもちゃじゃ我は殺せないぞ!?」
「そうだな、お前を殺すのには磨き抜かれた真剣のような武器じゃないとな」
グサリ
ヴィールが己の左脇腹を見ると、一振りの剣が突き刺さっていた。
ヴィールは反射神経で脇腹を刺した者を刀剣で切り上げた。
その者は刀剣から手を離し、後方の森へと跳んだ。
ボト、ボト
ヴィールの脇腹と、急襲してきた者の左目から血が滴り落ちる。
「……流石は戦闘民族、墜黒羅の長だ。完全に気配が消えていた」
「そっちこそ見事よ。私の左目を瞬時に切り裂くとは」
この世界、グランモーンドには戦闘民族が存在する。
独特な格闘術で敵を翻弄する、神武族。絶滅種の巨人族の血を引く、体万族。暗殺術の使い手、墜黒羅族。剣で森羅万象を切り裂く、刃覇武族。
彼らは中央大陸から南西に位置する深淵大陸に住んでおり、傭兵稼業で世界中の戦場で戦っている。
ヴィールを襲ったのは戦闘民族、墜黒羅を務める男だった。
「これはこれは……驚いたな、仲の悪い族長方が勢揃いとはな」
ヴィールの前方の森の奥から、幽鬼の如くゾロソロと人が現われる。
【Pendant ~忘れられし英雄たちと戦いの物語~】を読んでいただきありがとうございます!
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