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第三十六話 魔導列車戦②


 ヴィールは鞘から冥剣を抜き、片手で構える。

 ヴィールと右目に傷のある男が対峙する。


「貴様は何者だ?」

「なーに、怖い怖いマフィアさ。じゃ、時間が勿体ないから行くぜ」


 右目に傷のある男がハンマーを振り上げた時____

 ヴィールが冥剣で斬擊を放とうとした時____


「その戦い、(わたくし)に買わせて貰えないかしら?」


 今まさに戦おうとする二人を、止める声が上がった。


ーーーーーーーー


 ヴィールと右目に傷のある男と違い、シャリエッツとハンチング帽の男との戦いの火蓋は切って落とされていた。


 男が胸元から武器を取り出そうしているのに気づいたシャリエッツは、男の腕をぐっと自分に引っ張ると、男の股間部へと強烈な蹴りを繰り出す。

 男は痛みで悶絶しそうになるが気力で耐え、シャリエッツへとローキックを放つ。

 ローキックはシャリエッツに命中し、シャリエッツは体勢を崩すが、男も同じように体勢を崩してしまう。

 戦いが行われているのは列車の個室である。攻撃したりされながら、自身の体勢を維持することは至難の業だろう。


 体勢を早く立て直したのは男の方だった。

 男はシャリエッツに馬乗りになり、踝あたりに忍ばせていたナイフを取り出すが、シャリエッツの鍛え抜かれた右拳が男の左頬を直撃した。

 男は吹き飛ばされ、シャリエッツは直ぐに立ち上がりロングソードを鞘から抜く。

 また男も立ち上がり、ナイフを持ってシャリエッツに襲いかかる。


 キンッ!


 ロングソートとナイフが激突する。

 

『あの~、お客様。音がすごいですが、大丈夫ですか?』


 意識外の車掌の声かけ、二人の動きが咄嗟に止まった。

 しかし、お互いに今の現状にハッとする。再び動き出したのは、僅差でシャリエッツだった。

 シャリエッツは男の口を塞ぎ_____


「あ~ん♡激しすぎるわ♡もう!♡」

『えっ』


 そこからシャリエッツの猛攻が始まった。

 男のナイフを持つ手をロングソードで貫き、トイレの個室の壁へと突き刺すと、そこからは殴打と蹴りの嵐だった。

 シャリエッツは急所へと的確に攻撃を加えていく。何度も、繰り返し。

 男は口と鼻を塞がれたことによる酸素不足、襲い来る激痛で反撃を繰り出すことはできなかった。

 シャリエッツは最後に渾身の力を入れた左回し蹴りを繰り出した。男は壁に叩きつけられ、壁にはヒビが入った。

 

「がっ……」


 男は頭を強く壁に打ち、意識をとうとう失った。


「ふぅ」


 シャリエッツは一息つくと、突き刺したロングソードを男の拳ごと引き抜き、男の左腕を自身の腰に絡ませ、自身の右腕を男の腰に回してがっちりとホールドする。

 シャリエッツは気を失った男を連れて、個室のドアを開ける。 


「お客様困ります!列車内でこういうことをされると他のお客様のご迷惑になりますし、警察にt

「ごめんなさい!旦那が性欲を抑えきれなくて、どうしてもと……あの、これはお詫びです」

「!」


 シャリエッツは金貨の入った袋を車掌へと渡した

 車掌は怪訝な顔をしていたが、小袋の中身を見た瞬間表情を一変させた。


「あの、半分は車掌さんが貰ってください。もう半分は魔導鉄道会社の方に、トイレの個室の壁にヒビが入ってしまったので……」

「個室の壁にヒビが?……あー、これは酷い」

「すみません」

「……はー。今回はこのお金に免じて見逃しますが、次はないですからね?」

「ありがとうございます」


 シャリエッツは車掌に頭を下げると、男を後方車両の連結部分まで連れて行く。

 そして男を両手で抱えると、


「せーのっ、と」


 タイミングを見計らい、男を線路の傍らにある茂みの中へと投げ捨てた。 

 男の身体は茂みへと転がりながら消えていく。

 シャリエッツが男を投げ捨て車両の中へと戻ると、前方車両から人の波がちょうど雪崩れ込んできた。


「どうしましたか!?」

「三号車で喧嘩がっ!」

「なんですと!?今日は乗客のトラブルが多いな!まったく!」


 車掌が人の波をかき分け、前方車両へと車掌は駆け出していく。

 その様子を見てシャリエッツは、


(他にも敵はいたか。ま、ヴィール嬢なら大丈夫か)


 若干他人事であった。



【Pendant ~忘れられし英雄たちと戦いの物語~】を読んでいただきありがとうございます!

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