第一話 アムステル島決戦①
→
→→
→→→
男は最後の砦から戦況を見ていた。
漆黒の鎧と兜を身に纏い、二メートルの刀剣を携えて。
鎧と兜に傷があるのは歴戦の証、鎧に多くの返り血があるのは猛者の証である。
その男こそ世界の半分を支配した大将軍である、ヴィール・エスペランサその人である。
「ヴィール様、第二防衛線が破られました。第三防衛線も長くは持ちません。どうかお逃げ下さい」
そう告げるのは、ヴィールを支えてきた参謀のトゥルーである。
ヴィールたちは島国の聖国アムステルの港にて、押し寄せてくる連合軍を迎え撃った。
最初は善戦していたが、連合軍の物量作戦は凄まじく、多くの死傷者を出しながら港から退却を余儀なくされた。港わずか数時間で連合軍に占拠された。
港から脱出したヴィールの勢力は、アムステルの中心部にあるカリトリの森に逃げ込み多重の防衛線を張った。しかし、抗戦虚しく残る防衛線は後一つ。それを守る者も、数十名の負傷兵である。
「いつにもなく弱気だな。我が知っているいつものお前はどこにやった」
「ヴィール様!」
「我は逃げぬ……トゥルーよ、ペンダントは全て持っているな?」
「はい」
トゥルーは胸元から七つのペンダントを出す。
そのペンダントとこそ、厄災が封印されている魔のペンダントである。
「お前の魔法でそのペンダントを世界に隠せ。決して誰にもに見つからぬ場所に。さあ、お前は使命を果たせ」
「ヴィール様」
「なんだ?」
「最後の時までお仕えできず、申し訳ありません」
「……死んでいった者たちを、決して無駄死にさせるな」
「御意」
トゥルーはヴィールの言葉を胸に、使命を果たすべく砦の地下へと走った。
聖国アムステルは連合軍に完全に包囲されていた。海も、陸も、空も。
だが、この包囲網から脱出できる用意をヴィールはしていた。
砦の地下には魔法陣があった。長距離転移用の魔法陣が。
しかし、この魔法陣を発動させるのには時間を要する。時間にして約10分。この時代の魔法文明においては最先端の魔法陣であるが、10分という時間はこの状況においては致命的であった。
ヴィールはそのことを知っており、時間を稼ぐために最後の殿を務めることにしたのだ。
「さて」
砲音とともに前方の樹木が吹き飛び、次から次へと連合軍の兵士たちがでてくる。
「我の底力を見せてやろうじゃないか?」
ヴィールは刀剣を構える。
【Pendant ~忘れられし英雄たちと戦いの物語~】を読んでいただきありがとうございます!
面白いと思ったらポイントの評価とブックマークの登録をお願いします!!