第十三話 決断
「なに、これ……」
少女アーケラはそれを見て、腰が抜けそうになった。
神殿の壁には、びっしりと黒い液体で文字が書かれていた。
「さっきまで、何も書いてなかったのに」
少女アーケラはその文字を読むかどうか迷ったが、恐怖よりも好奇心が勝り、読むことにした。
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これを読む、名もなき少女よ。我が名はヴィール・エスペランサ。短刀直入に言うが、我にかけられた封印を解いて欲しい…………
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少女アーケラはギョッと、ヴィールの石像を見る。
この石像は意思を持っている、と。
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…………我は昔にあった世界大戦で、平和のために戦った一人の魔物だった。だが、真なる平和へとあと一歩のところで我は悪魔の術中にはまり、この神殿へと封印された…………
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世界大戦、その単語を見て少女アーケラは魔法学院高等学校の社会の授業で習ったことを思い出した。
人類歴1600年から1815年の間に起きた世界を巻き込んだ悪夢の戦争。世界中で10億人近い人が死んだ大戦争。
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…………世界大戦は終結したが未来のために、我にはまだ成し遂げなければならない事がある。名もなき少女よ、どうか、力があるならば貸して欲しい…………
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少女アーケラはどうするか迷った。
なぜなら魔物は嘘をつく生き物と、学校でさんざん教師に教えられてきたからだ。
けれど、自分には封印魔法に関する知識があり、この文章を書いた魔物を悪と判別することができるのか。
多感な時期である少女には、判断がつかなかった。
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…………名もなき少女よ、おそらく迷ってここへ来たと我は推測する…………
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このヴィールの推測は当たっていた。
少女アーケラは夏休みの自由研究のため、カリトリの森へと訪れていたが、不注意で洞窟へと通じる穴へと落ちてしまったのだ。
迷いに迷った末、偶然この秘密の神殿へと辿り着いたのだ。
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…………『精霊よ、私に、帰り道を教えろ』と唱えれば、この洞窟から脱出できる。精霊魔法の一つだ。……
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少女アーケラは文章を読み終え、この文章に書かれていた精霊魔法が本当かどうか唱えてみた。
「【精霊よ《ヘンキル》、私に、帰り道を教えろ】……」
すると、すぐに変化は起きた。
地面から暖かな光の塊が浮かび上がってきたのだ。その暖かな光の塊は少女アーケラの周りを一周すると、少女アーケラを導くように神殿の出入り口へとゆっくりと向かっていった。
(……)
石像に封印されている魔物を、少女アーケラは助けようと決めた。なぜなら、この封印されている魔物が学校の教師が言うような悪い魔物なら、洞窟から脱出できる精霊魔法なんて教えないはずである。もし、この魔物が悪い魔物なら、自分はとっくに殺されているからだ。人の命や魂を使って封印を解く方法は、数多くあるのだから。
少女アーケラは暖かな光の塊に導かれ、洞窟から脱出できる道を進んでいったのだった。
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