【コミカライズ】鏡の世界に迷い込んだら、王子殿下が優しいです? さっき婚約破棄されたばかりなのに。
※2024年8月8日「見つけました、悪役令嬢の愛されヒロインルート!アンソロジーコミック」に春原まい先生の作画でコミカライズ収録されます!
「オーレリア・ユタン公爵令嬢! きみは義妹のベルティーユを、ずいぶんと虐めていたそうだな」
王家の夜会で響くのは、婚約者シリル殿下のお声。
殿下はわたくしの義妹をかばう様に、彼女を背の後ろに隠しています。
ああ、ついに。危惧していた事態が起こってしまったようです。
落胆を胸に、わたくしはこっそりと嘆息しました。
殿下の言葉は、尚も続きます。
「そのような心根の貧しい者に、王太子妃は務まらない! 僕ときみの婚約を破棄した上で、きみは己が罪を反省する必要がありそうだ」
このままでは一方的に、わたくしの非にされてしまいます。
「恐れながら、発言をお許しください」
「ならん! きみに発言を許すと、この場でベルティーユを口撃する可能性がある。申し開きは牢で聞こう」
「なっ!!」
牢。つまり殿下はわたくしに反論も許さないまま、投獄すると言っているのです。たまらず、わたくしの声も険しくなります。
「それはあまりに、ご無体ではありませんか!」
「きみの行いは、それだけ信用を失してるということだ!」
シリル殿下が厳しい表情で、わたくしを見ます。殿下の右目の泣きぼくろにまで、睨まれているような錯覚。
とんでもないことです。
王家からの婚約破棄に加え、投獄までされてしまっては、わたくしの人生は終わったも同然。釈放されても社交界で受け入れては貰えないでしょう。
誓ってわたくしは、義妹を虐げてなどおりません。
(きっとあの娘が殿下に、何か吹き込んだのね)
やたらわたくしに執着し、わたくしの物を欲しがるベルティーユのこと。
おそらく婚約相手の殿下のことまで、欲しくなったのでしょう。
(これは何としても屋敷に逃げ帰り、公爵であるお父様のお力をお借りしなくては)
決断するやいなや、わたくしは即座にドレスを翻しました。
「ま、待て! 衛兵、オーレリアを捕らえろ」
殿下には予想外の逃走だったようです。彼は慌てて衛兵を呼びますが、会場外の兵達など、遠い!!
逃げるのは悪手。罪を認めるようなものですが、けれど捕まらなければ、次に打てる手段が増えます。
悲鳴や騒ぐ声の中、わたくしは一直線に駆け抜けます。
淑女ゆえ披露する機会こそなかったものの、わたくしは運動能力にいささか自信がございます。
ふいをついたこともあり、群衆を盾に、あっという間に王城通路に紛れ込みました。
近道のひとつ、"鏡の間"へと飛び込みます。
回廊の全面に鏡が張られた美しい場所ですが、不可思議な現象が起きる場所として現在は封じられた通路。
使われることなくひっそりと並ぶ鏡たちを、蒼い月の光が照らし、ひとり駆けるわたくしの姿を映し出しています。
(ここを突っ切れば外ですわ……!)
その時です。
大きく世界が揺れました。
(じ、地震!?)
こんな時なのに地面は容赦なく震え、バランスを崩したわたくしはそのまま、壁に向かって投げ出されました。
(ぶつかる!!)
鏡が割れることを覚悟し、とっさに身を丸めて目を閉じます。けれど。
スルン!!
まるで壁があったはずの場所を通り抜けたかのように、わたくしは想定以上の距離を転がり、そして、止まりました。
(なに……?)
倒れた身体をそっと起こすと、静寂が場を支配しております。
どうやら地震は大事なく収まった様子。
ほっとして再び駆け出そうとした時です。
「リア!!」
"鏡の間"に、声が反響しました。
聞き覚えがある声で、聞き覚えのない愛称呼び。
「?!」
驚いて振り返ると、いつの間に見つかったのでしょう。
シリル殿下がこちらに駆けてくるではありませんか。
「っつ!」
急いで立ち上がろうとして、痛烈な痛みに断念します。
(足を挫いたのだわ)
なんてこと! これではもう走って逃げることは難しい……!
焦る間に、殿下には追いつかれてしまいました。
(かくなる上は、この場で再度交渉を──!!)
決意して殿下を振り仰ぐと、思いがけない光景と出会いました。
「リア、どうしたんだ? 大丈夫か? どこか痛めたのか?」
信じられないことに、わたくしの横に膝をついた殿下が、気遣うような声音でわたくしに問いかけたのです。
(???)
さっきまで、鬼のような形相でわたくしを断罪しようとした御方が。
案じるような眼差しで、優しくわたくしを覗き込みます。
同時に気づきました。
(殿下の泣きぼくろが、左目下に?)
彼の妖艶なほくろは、右だったはずです。
(一体これは、どういうことですの──???)
◇
「なるほど、つまりきみは"僕の知るリア"では、オーレリアではないということなんだね?」
穏やかに、殿下が尋ねられました。
「きっと、そうだと思います」
半信半疑ながら、わたくしは頷きます。
わたくしが知るシリル殿下は、突拍子もない仮説を、こんなに親身に聞いてくださる方ではありませんもの。
殿下も、"わたくしが知る殿下"とは違うのです。
その証拠に、彼はわたくしを捕まえようとはせず、今はふたりでしゃがみ込んで、"鏡の間"で話しています。
わたくしの捻挫を治療するため、殿下がわたくしを抱き上げようとしたのは、慌てて固辞いたしました。
おそらくですが、先の地震。
わたくしは、不思議が起こるという"鏡の間"で鏡をすり抜け、別の世界に来てしまったのでしょう。
わたくしが住む世界と全く同じで、でも違う世界。
殿下のほくろが反転した位置にあるのが、その推測を後押しします。ここは、鏡の中の世界。
「じゃあこっちの世界のリアは今、きみの世界に行ってしまったという事?」
殿下の言葉にハッとします。
「大変! 大変です、殿下! わたくし、追われていたのです。こちらのわたくしが急にあちらに行ったのだとしたら、きっとわけがわからないままに捕まってしまって、今ごろ混乱していますわ! わたくし、早く戻らなくては!!」
「まっ、待ってリア、じゃないオーレリア。落ち着いて。そもそも追われていたってどうして? 何があったんだ?」
「うっ……、それは殿下が……」
「僕が?」
「わたくしが義妹を虐めたと決めつけて、婚約を破棄し、投獄なさろうと衛兵に命じましたので」
「なんだって?!」
信じられないとばかりに、殿下が驚かれます。
「わたくし、ベルティーユを虐めてなどおりません。きっと誤解が生じたのです。けれどそれを証明しようとしましても、発言を許されなかったのでございます」
違う世界の違う場所、ここでお伝えしてもきっと意味はない。だけど、聞いていただきたかった。
わたくしの熱い訴えを、殿下は茫然と受け止めていらっしゃいます。
「なんてことだ……。リアに手を出すなんて」
シリル殿下の整ったお顔が、蒼白に染まります。心配してくださっているのでしょうか。
(ああ、こちらのわたくしは、殿下に愛されているのですね……)
寂寞の思いは、しかし次の殿下の言葉で吹き飛ばされました。
「向こうの僕、殺されるぞ……」
「……は?」
「きみの世界のきみがどう振舞っていたかはわからないけれど……。こちらのきみは、めちゃくちゃに、強い。怒らせるなんて、命懸けだ」
「は、ぁ?」
(ええと? こちらの世界のわたくしはとても強くて、怒ると殿下さえ弑しかねないと?)
「大逆罪じゃないですか!!」
すぐに帰らないと別の意味で、大変なことがさらに大変になりそうです。
こちらの殿下によれば、夏至の夜。月の魔力が高まると、"鏡の間"は異世界に繋がると言われているのだとか。
夏至の夜宴が開かれた今夜は、まさに当日。
鏡で月の力が増幅され、言い伝えの"道"が生まれて、わたくしがこちらに来たのだろうと彼は言います。
ちなみにこちらのオーレリアは、その伝説を確認するため"鏡の間"に挑んだらしく、殿下が追いついた時には、わたくしたちは交代した後だったようです。
月明かり輝く"鏡"を通れば、元の世界に戻れるのではと、彼は言いました。
わたくしは月光さすうちに自分の世界に戻り、あちらに行ったオーレリアをこちらへ帰さねばなりません。
もし彼女が牢に入れられでもしていたら、厄介なことに。
「わたくし、"鏡"を通りますわ」
意を決したわたくしに、殿下が顔を曇らせました。
「……戻って平気なのか? 辛い目に遭わされていたのなら……」
案じてくださる殿下の目を見て、言葉に詰まります。
出来ることならわたくしも、理解あるこちらの殿下に愛されてみたい。ですが。
「わたくしが戻らないと、こちらのわたくしが不遇な責任を取らされることになってしまいます。殿下も"リア"がご心配でしょう?」
「もちろん心配だ。だが彼女なら、きみの世界の全員を叩きのめして、組み伏せるくらいしていると思う」
確信に満ちた声で、殿下が頷かれます。
いえ、それは無理でしょうと思いつつ。
「──信頼なさっているのですね。私もそのくらい信を受けられる人間として振舞っていればこんなことには……」
遠慮しすぎた。
我慢しすぎた。
耐えていればいつかきっと、改善すると夢を見過ぎた。
まず動くべきは自分だったのに。わたくしは目を閉じ、口を噤んでいた。
過去の自分を振り返れば、悔恨ばかりが浮かんでくる。
こちらのオーレリアは、随分と奔放のようだった。
自分の能力を隠さず、堂々と胸を張り、臆することなく意見を述べる。
そして彼女はこの宮廷で、しっかりと自分の居場所を確保していた。
わたくしは"淑女らしくないから"と、自分の声も力も抑え続けていた。
そんなことをしても、待っているのは"理不尽"だけだったというのに。
殿下の言葉は魅惑的だけど、この世界のオーレリアの席を、わたくしが奪うわけにはいかない。
わたくしはわたくしの世界で、自分の場を作らなくては。
「この世界のわたくしがいくら強くとも、女の身であることには変わり有りません。体力は無限ではなく、万一ということも考えられます。そしてわたくしの現状は、わたくしの責任です。──わたくし、戻ります」
強い決意でそう述べると、殿下はポケットから指輪を取り出されました。
「ならこれを。持っていくと良い」
「! これはまさか」
「そちらの世界にもあるか? なら意味は同じかな? "王妃の指輪"。母上から"リア"に渡すよう、預かっていたんだ」
わたくしは頷いて、殿下の説明を引き継ぎます。
「これを見せれば、王であれ誰であれ。何があっても、相手の言葉に耳を傾けないといけないという決まりがある──」
嫁いだ花嫁の主張を守る、伝統の指輪。
「こんな大切なものを持って行ってしまったら、こちらの世界が困ることになりませんか?」
「大丈夫。この世界のきみの声は、誰よりも届く。僕の耳を直撃して、残響のこして煩いくらいに。僕は"リア"が大好きなんだ」
シリル殿下が、にっこりと微笑まれました。
(羨ましい)
一瞬、"こちらのオーレリア"に、羨望の念を抱きます。
それと同時に、希望も過りました。
(わたくしも殿下と、こんな関係を築ける?)
「もし気になるなら、新しい指輪を作るよ。僕とリアが認めれば、それは"王妃の指輪"となる」
「殿下……」
「きみの世界の僕を、どうかよろしく。生かしておいてね」
冗談めかしておっしゃりながら、殿下はわたくしに"王妃の指輪"を握らせました。
これがあれば"発言の許可"など関係なく、わたくしの言葉はきちんと吟味される重さを持ちます。
わたくしは自分の世界で、ちゃんと誤解を解かないと。
そして人との結びつきを、きちんと繋ぎ直したい。
その時、"鏡の間"にもうひとり、別の声が響きました。
「殿下! お義姉様!」
この高い声は。
「ベルティーユ!」
こちらの世界の義妹ベルティーユが、わたくしと殿下を見つけ、回廊の端に立っていました。
◇
「おねぇさまぁぁぁぁぁぁっ」
「なっ!」
わたくしは驚きました。こちらのベルティーユは、殿下に目もくれず真っすぐに、わたくしに飛び込んできたのです。
「???!!!」
「あ、ああ、紹介……するまでもないね。彼女はこちらの世界のベルティーユだよ」
シリル殿下が苦笑して、義妹はキョトンと首を傾げました。
そうしてわたくしと殿下は再び、鏡の世界の話をしたのです。
「おねえさま、あたしもそちらの世界に行きます! そしてそっちのあたしを叱り飛ばします! おねえさまに無礼を働くなんて、許さない!!」
憤りもあらわに、ベルティーユがぷんすこ騒いでいます。
こちらの義妹は"わたくし"のことが、"オーレリア"のことが好きでたまらないと教えてくれました。
「ややこしくなるから、余計な行き来は控えようか」
こめかみを押さえながら、殿下が義妹を止めています。
「ならせめて。あたしの弱点をお教えしますわ! そちらのあたしが生意気でしたら、お試しくださいませ」
「じゃ、弱点?」
「はい。同じかどうかはわかりませんが……」
そう言ってベルティーユから耳打ちされます。
姉妹とはいえ、こんなに至近距離になったことはなく、ふんわりと香る愛らしい花の香りが、ベルティーユが年下の、幼い少女であることを認識させてきました。ミルクのような、白い肌。
(そういえばまだ十四。道理がわからないことも、寂しいことも多かったのかもしれない)
"父が隠し子を連れてきた"と、素っ気なく接してきたことに、罪悪感を覚えます。
悪いのは外に子を作った父であり、ベルティーユ自身に罪はなかったのに。
こちらの世界のわたくしは、公爵家に引き取られて戸惑う義妹を世話し、だから懐かれ……。
ベルティーユがわたくしに付き纏ったのは、心細さから。わたくしと何でも同じにしようとしていたのは、安心感を得たかったから。
わたくしはそのことに、気づかされました。
本当のベルティーユは、素直な性質だったのです。
「ええっ、腕の内側を撫でられるのが苦手?」
ベルティーユのヒソヒソ話は、身体的な弱点の暴露でした。
「はい。特に左が感じやすいです」
頬染めて身をくねらせながら、なぜか期待する目でわたくしを見上げる彼女に、「使わないで済むことを祈るわ」と返しました。
(まだ幼いのに、とんだ敏感さんね?)
義妹を見る目が、変わりそうです。もうすでに、だいぶ変わった後ですが。
「あ、おねえさま。おみ足を挫かれたとか。あたし、治療しますね!」
「まあ、ありがとう」
ベルティーユは治癒魔法が得意でしたが、こちらでも同じようです。
(なら弱点も同じかしら)
見せた足首に、ベルティーユからのあたたかな力が注がれます。
「あら?」
「おや」
義妹と殿下が声をあげました。
(殿下まで、わたくしの足を見てたとか)
そう思いながらも。
「どうかなさいました?」
「きみの靴は、鉄を仕込んでないんだね」
「え?」
「いや……、リアは踵に鉄を仕込んでるから……」
「?! なんですか、それ?」
「蹴られると、痛いんだよね」
うんうんと、殿下とベルティーユが頷き合っています。
(待って。こちらのわたくし、待って。どんな生活をしているの。そしてあちらの世界で、暴れてたらどうなるの?)
そしてそれは"痛い"では済まないのでは? 怪我、間違いないのでは?
内心で滝のように流れる汗。動揺するわたくしに、殿下が呟きます。
「"リア"は、"蝶のように舞い"──」
(はっ!)
レイピアを片手に身体をさばく、カッコイイ女剣士が脳裏に浮かべた直後。
「"蝉のようにぶつかる"」
「────!!」
…………ダサい。
「あの、殿下? こちらのわたくしは、ちゃんと"淑女"でしょうか」
一応、公爵令嬢なのですが。
わたくしの疑問に、殿下と義妹がピタリと止まりました。
「もちろんだとも!」
「間ッ! 今の間は? 殿下!!」
ベルティーユに至っては、目を逸らしています。
(あああ、これはますます早く帰らないと!!)
だけど。
我が身可愛さに、「もちろんだ」と言い切った殿下は、ずいぶん人間味あるご様子で。
いつも取り澄まして本心をお見せにならない方だったと思っていたけれど。
(もしかしたら私から、壁を作っていたのかもしれない)
互いに足りない交流が、行き違いを生んだのかも。
「オーレリア。どんなきみでも。きみはすごく素敵だよ」
こちらの世界の殿下が、眩しいものを見るように、目を細めました。
それはとても力の湧く言葉で。
(わたくし。わたくし、やり直してみます!!)
◇
「あの時は本当に驚いた。いつも大人しいきみが、ドレスをはためかせ、衛兵全員を蹴り倒したからな」
"月を背に戦うきみは、綺麗だった"。
わたくしの隣でシリル陛下が、思い出を熱く目に浮かべられながら、言われます。
彼のほくろは、右目下。
わたくしの世界の、わたくしの殿下は、いまは国王となりました。
あの後、元の世界に戻ったわたくしは、"王妃の指輪"で無実を訴え、シリル殿下と義妹とわたくしの間に生じていた誤解を解きました。
"リア"とも首尾よく入れ替われて、彼女は無事帰還。あの要領、見習わなくては。
シリル殿下はベルティーユが公爵家で孤立させられ、酷く扱われていると受け取っていて、それを正そうとしていたようです。
ほんの些細な行き違いが、会話不足の味付けで、妄想に突入。互いに歪んだ認識から、途方もない勘違いが広がっていたと判明し、それらは、ひとつひとつ解消していきました。
牢と言ったのは言葉のあやだったようですが、殿下……現陛下は、己の暴走を深く恥じ、ひたすら謝ってくださいました。
公爵家でもそれを呑み、"夏至の夜宴での出来事は、月夜に舞う私の舞踏を見せるための演出"という方向で、余興として周知されることになりました。
鏡の世界のオーレリアは、それは見事な立ち回りを見せたようです。
うっかり怪我してしまった衛兵たちは、治癒の使い手によってすぐに癒され、十分な見舞金が支給されました。
そして。
シリル様とわたくしの婚約は続行、からの成婚。やがて即位。
いまに至っております。
どうして婚約を続けたかですって?
だってあちらの世界で、あんなに可愛いシリル様を見てしまったのですもの。
繊細な美貌に、色香ある瞳、儚げな佇まいは、まるで月の精。
時々顔を青くさせてみたく、いいえ、理想の信頼関係で結ばれたくなったのです。
わたくしは元々の運動能力を開花させ、蝶のように舞い、蜂のように刺す、武闘家の免許も取得しました。
間違っても蝉ではありません。ええ。蹴り飛ばして相手が吹き飛ぶのは、風のせいなのです。
「おねーさまぁぁー! 王子様にあたしの弱点をバラしましたねー!! とめてください! 甥とはいえ、許されませんよぉぉぉ」
わたくしの息子は、我が義妹がお気に入りのようです。
「ベルティーユ。抱っこした二歳の子相手に、何を言っているのです。息子を下ろせば良いではないですか」
「あーん、愛らしくて無理ですぅぅ。これは虐めですぅぅぅ」
わたくしとシリル陛下は、目を合わせました。
「ベルティーユ、言葉には気をつけなさい」
「今日は夏至よ。自分で王子に訴えて」
毎年夏至の日には、言いたいことを伝え、訴えられた相手はきちんと聞くという風習が生まれました。
それが、この国が円満になった秘訣。
"王妃の指輪"は、誰しも持っているものだから。
まずは自分が。目を開け、耳を傾け、自分の声を聞いてみてくださいましね。
お読みいただき有難うございました!
夏至は6月なのですが、夏っぽいからOKということで!(違う)
さて本作で出てくる"王妃の指輪"ですが、元ネタはトルコの縁飾り「オヤ」のモチーフから来ています。
オヤというのはスカーフの縁を彩るレース編み。
基本、婚家で嫁はなかなか物申せませんが、このオヤでサインを出したりするそうです。
たとえば「ごぼうの花」は「いじめないで」、「唐辛子」は「夫との関係が唐辛子みたいなので改善して」。いろいろ意味があって、興味深い。
「物申す、何があっても話を聞け」というモチーフが何の植物だったのか、本を仕舞いこんでるので思い出せないのですが、そういうのもあるのです。スカーフで伝えるのです。面白いですよね♪
今回、人外キャラはいないのですが、伝承、伝統みたいなのを取り入れてるのが、それの代わりでして。お話と一緒に他国の文化を楽しんでいただけましたら嬉しいです!
良かったらご感想、ご評価お願いします!!
お星様は下の欄にありますので、ぜひ☆を★に塗って、夏の夜を輝かせてやってくださいー!!(*´▽`*)/
"王妃の指輪がふたつになったのでは?"説については、夏至の日に返しても良いし、深く考えていません(^v^*♪ 結果オーライのイイカンジになったはず!