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堕ちた聖女は甦る  作者: あんぜ


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第10話 再会

「おうおう、どうした。えらく懐かれちまったじゃねえか」


 ジーンが私の部屋に入ってきて言う。


「ジーン様! あなたの家だとしてもノックの後は返事くらい待ってください!」


 私の横にちょこんと座ってジーンを窘めるのはレテシア。


「そりゃすまん。次から気を付ける。それより三人とも、俺のハーレムには入んないの?」


「ありえません!」――レテシアが真っ先に言う。

「ない……」――私の膝の上に頭を載せているスカルデが言う。

「ないですね」――もちろん私もだ。


「――そもそもジーンは未成年に興味があるのですか?」


「いやいや、三人ともあと三年も経てば立派なレディになるよ? 俺も待つのは吝かではない」


「私、成人は来年なのですが……」


 何とも失礼な男だ。けれどこれがこのジーンという男の優しさなのだとわかる。心に傷を負った彼女たちに遠慮のない、そして溢れるほどの愛情でぶつかっていくのだ。まあ、ただの女好きなのかもしれないが、悪い男ではない。


 そしてレテシアとスカルデ。スカルデの方は昨日、添い寝してやってからずっとべったりだった。濃いグレーの髪はキミリを思い出す。瞳は青と黄緑の混ざった不思議な色をしていた。スカルデは十一と言っていたが、ずっと幼く見える。自分より幼い子に懐かれるのはいつでも嬉しい。あまり喋らないけれど、私と目が合うと恥ずかしそうに笑顔を向ける。それだけで抱きしめたくなる!


 レテシアは見た目がカーレアに瓜二つだった。彼女は最初、ずっとぐずっていた。カーレアに会いたいと泣いていた。それが今朝、レンテラが私の髪に掛かった染色の魔法を解いた途端、目をキラキラさせて――ほぉ――と感嘆の声を漏らしたかと思うと、私をお姉さまなどと呼んできたのだ。そしてお人形のようだの、お姫様だの、どこかで聞いたような言葉を掛けられた。ただ、不思議とレテシアのような自分より幼い子からそう言われるのは嬉しく思えた。


『お姉さまはもっと見た目に気を使わないと! せっかくの美人なのに』


 そう言ってレテシアはレンテラから道具を借り、私の髪を梳いて結い上げてくれ、今に至っている。可愛らしい二人だ。


「まあとにかく、レンテラに道具の礼を言っておいで。あと二人とも、彼女を手伝ってやってくれるかい?」


「はぁい」


 そう言ってレテシアがベッドを降り、駆け出していくとスカルデもついて行く。二人とも素直な子なのだ。


「ジーン様、お姉さまと二人の時は戸を開けておいてください。あと、絶対手は出さないでくださいね!」


「へいへい」


 ひょっこり戻ってきたレテシアはジーンに注意して去っていった。


「二人とも元気になってよかった……」


 思わず声が漏れた。スカルデの弱った体はジーンがくれた魔法の薬で良くなった。

 レテシアは不安が取り除かれた途端、元気いっぱいになった。


「そうだな」


「ありがとうございます。助かりました」


「いや、気にすんな。女が弱ってたら助けるのは男の役目だ。――リア、お前もな」


「私がですか?」


「ああ。他の女ならベッドで慰めてやるんだが、そうはいかないようだからな」


「刺しますよ」


「刺されても抱いてみたいが、泣かせるのは趣味じゃないからなあ」


「――レテシアだが、すぐに家族の元へは逃がせそうもない。協力者がわからん」


 ジーンは話題を変えてきた。

 彼は私の心に踏み込んできては躱していく。


「そうですか。仕方ありませんね。しばらく厄介になります」


「その厄介代わりにひとつ、頼まれごとを引き受けて貰えないだろうか」


「構いませんが、誰を斬るのです?」


「お前、発想が危険だな! どうしてそうなるんだ!」


「ほ、他に才能も無いですから……」


「本気で言ってるのか? そんな話じゃないから安心しろ。午後にちょっと出るから支度しておけ」


 そう言ってジーンは部屋を後にした。



 ◇◇◇◇◇



 午後、上げた髪に合わせて男装し、ジーンと外出した。

 ただ、出る間際――。


『ほおぉぉ、お姉さま、私と結婚してください!』

『俺の女だぞ』

『あなたの女ではありません』


 ――などというやり取りが……。



 ジーンは大通りの方へ向かい、先日の広場を抜けて石組みの広い階段を昇って行った。登った先は小さな丘のようになっている。そして廃墟。


「城跡か何かですか?」

「まあ、ついてきな」


 ジーンは奥へと進む。石柱がいくつも立っている。さらに奥はまだ天井のある建物が残っていた。また、人の生活している気配もあった。中に入ると広間があり、広間をぐるりと囲う周囲の廊下に沿って部屋がいくつもあるのが見える。そして広間の奥には地母神像が。


「神殿?」

「そうだ」


「ここがですか。思った以上に荒れてますね」

「ああ……」



「ジーンさん!」


 声のした方を見やると若い男性。手にはバケツと洗濯籠のようなものを持っていた。

 荷物を置くと駆け寄ってくる。


「ありがとうございます。おかげで飢えずに済みました」


「ああ。気にするな。こっちはリア。――リア、彼はエイロン。ここを任されてる神殿長だ」

「名ばかりの神殿長ですけどね」


「クソ真面目だが、信用できる男だ」

「ジーンより信用できそうです。よろしく」


 エイロンと握手を交わした。


「そりゃないだろ」

「そもそも真面目な方が信用できます」


「まあまあ。何もないけど奥へどうぞ。食堂なら座れますから」


 私とジーンは食堂に向かった。石造りだけど貴族の館のような装飾に凝った作りでは無く、簡素な上に年季が入っていた。食堂には子供が何人か居た。私はその中の長い黒髪の女の子から目が離せなかった。


「キミリ? ――キミリ!」


 私が駆け寄ると彼女も気が付いた。


「ラヴィ!」

「よかった……無事だったのね……」


 キミリをめいっぱい抱きしめた。


「ラヴィが助けてくれたんだよね? 夢の中で見た」

「うん、魔法が届いたの。よかった……」


 キミリと無事を確認し合った後、振り返るとジーンとエイロンが居た。

 ジーンは何やらにやにやしている。


「何ですか……」

「いいや?」



 ◇◇◇◇◇



「なるほど、キミリと一緒だったんですね。この子は広場を歩いていたところを保護しました」


「ありがとう。何とか一人で逃がせたけど、その後はわからなくて……」


「しかしよくあの平屋敷から逃がせられたな」


「それは……」


 私はキミリに他の子たちと遊んでくるように言って外させた。

 そして平屋敷であったことをかいつまんで説明した。


「リアは魔女の治癒が使えるんだ」


「えっ……」


 エイロンが驚く。まあそうだろう。魔女なんてあまり好まれては――。


「本当ですか! リア……いえ、リア様、どうか、どうかお力をお貸し頂けないでしょうか」


「えっ」


 エイロンは私の傍に跪くと、両手で私の手を取り懇願した。私はエイロンの予想外の反応に困惑した。


「お前は淑女に遠慮が無いなあ」


 ジーンの言葉に私とエイロンは慌てて手を離した。


 私もうっかりしていた。あんなことが立て続けにあってから男性との距離はできるだけ取っていたのに、カルナ様に怒られるような距離まで近づかれていた。エイロンも体は大きいのに童顔で、明るい茶色の髪に揃えたように顔を赤くしていた。大きな子供のようだ。


「それもあって連れてきたんだ。……二人とも付き合い始めの恋人みたいな顔してないで話進めない?」


「「違います!」」


 エイロンとの主張まで思わず被ってしまった。

 ともかく、私にできることならばと話すと、エイロンは感謝の言葉を重ね、私を目的の部屋へと案内した。



 ◇◇◇◇◇



 地下の奥の閉ざされたその部屋には花の香りが満ちていた。

 お酒の瓶にたくさんの花が生けられ、奥の寝台を囲むようにいくつも飾られていた。

 壁の窪みから絶えない灯りが部屋の天井を照らし、幻想的な空間を作っていた。


「いい匂いだな」――ジーンが言う。

「ええ、子供たちがね。知ってました? 酒瓶に花を生けるとよく持つんですよ」

「ああ、腐敗を防ぐらしいな、あれ」


 彼女――寝台には黒に近い青い髪の少女が横たわっていた。まだ十くらいだろうか。キミリより少し大きいくらい。


「あの、この子は?」

「サリという娘です。祝福を得て王都に招かれたのですが、この子の祝福を好まない連中が居て、命を狙われました」


「命を狙われるような祝福ですか?」

「ええ、賢者の祝福です」


「賢者は確かに珍しいかもしれませんが、命を狙われるほどとは聞きません」

「はい、普通の祝福でしたらね」


「――彼女は城の大賢者様と同じかそれ以上の力を持ってます」


「それで……何故命を狙われるのでしょう?」


「祝福は大賢者様が子供を鑑定して見出します。大賢者様は子供に祝福を送ることで神様から与えられた祝福、つまり才能(タレント)を呼び起こします。ただこの時もし、大賢者様が祝福を送らなかったらどうなると思いますか?」


「子供は祝福を得られない?」


「そうです。たまに自力で祝福を顕現させるきっかけを得る子も居ますが」


「でも、そんなことを大賢者様ともあろう方がするとは思えません」


「ええ、神様の意向に反するでしょうね。でも、今の大賢者様はやってるんですよ」


 ジーンを見ると彼も頷く。


「今の大賢者は聖堂と距離が近すぎる。国王も同じだ」


「はい、おそらく大賢者様か国王陛下が魔女の祝福持ちを排除している。事実、ここ二十年以上に渡って新しい魔女はほとんど誕生していない」


「ほとんどですか?」


「ええ、先程も申しましたが、極稀にきっかけを得て魔女になる子も居ました」



「――居ましたが、排除されました。可哀そうなことに」


 私は息をのんだ。よもや地母神様の信仰の中心がそんなことになっているなんて。


「――今、魔女として残っているのは一人では村を出られないような老人ばかりです」


「それだけじゃないんだ。この問題は」


 ジーンが続けます。


「俺が娼館に通ってるのは知ってるな? ――そこで昔、ある女から相談されたんだ。聖秘術とは何かと。目を瞑って魔法を求めると、聖秘術と呼ばれる魔法が()()()ってな」


「聖秘術ですか?」


「魔女の使う魔法ですね」


「ああ。その女、実は魔女の祝福持ちで自ら顕現させたんだ。問題はその女、商人の娘だったらしいんだが、商売が急に上手く行かなくなって親に売られたそうなんだ。優しい親だったらしいが、娘を売るほど追い詰められてたらしい」


 話を聞いていてカーレアに姿が重なった。


「――残念ながらその子は助けられなかった。病気で死んだと聞いたが詳しくはわからない。ただな、話はそこからだ。俺はまた同じような境遇の魔女の祝福を得た女に出会ったんだ。短い間に別の娼館でな」


「それ……まさか」


「ええ、おそらくは大賢者様が魔女の祝福を見出した女性をどのようにしてか追い詰め、力が顕現したら処分しているのだと思われます」


「そんな……」


「おそらくは力のある立場の貴族が複数関わってると俺は見てる」


「それを私に話してどうしようと……」


「どう考えるかはリアに任せる。そしてまず、力を貸して欲しいのはうちの賢者様にだ」


 ジーンは寝台を指さす。


 サリと呼ばれた少女は真っ白い顔をしている。眠るように横になってはいるが、息をしているようには見えない。そしてその傍らのテーブルには祀られるように短剣が置いてあった。


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― 新着の感想 ―
[一言] レンテラとレテシアは兄弟姉妹でも無いのに名前が似すぎていて混乱する 母音も似通っているので余計にそう感じてしまうのかもしれない
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