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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぼくが見つめる先にいるのはいつも ーOGTNstory

作者: 伊原みい

ぼくとターの仲を唯一知っているのは、仕事の同僚であり、親友のゴマとオーだけだ。

ぼくはゴマとオーが大好き。二人もパートナー同士だが、この二人の世界観は、唯一無二で誰にも真似できない。


今もそう。

ゴマが少し離れたところにいるオーに視線を送るのが見えた。さっとその視線に気づくオー。しかもすっと動いて、ゴマと話し相手との間に入って話し始めた。おそらく、ゴマが話し相手との話題に困っていることをすぐに理解して、フォローに入ったのだろう。話が盛り上がっているようすがぼくからもわかった。相変わらずなオーのふるまいに感心してしまう。


二人はいつも自然にカバーしあう。だからみていると安心する。お互いにきっちりそれぞれの世界があるのに、一緒にいると揺るがない信頼がみてとれるから。


ぼくたちは、外からどう見えるのか、自分のこととなるとよくわからない。


会場内、あまり人混みが好きではないぼくがいる場所は端のほう。

ターのいる場所は……すぐにわかった。恋人の勘ではない。恋人じゃなくても、誰でもすぐ見つけだせる。なぜなら、会場のど真ん中、集まる人の輪の中心にいるから。いつもそう。ターは、みんなに慕われる愛されキャラ。こんな遠くからみてもわかる、キラキラ笑顔がまぶしいね。その顔に惚れ惚れするが、同時にもやもやもする。


感じる疎外感と、でも楽しく過ごせている安堵感と。恋人として、どういう感情をもつべきかはよくわからない。

じっとターを見つめていたら、ターがこちらをみたような気がしてつい、目線を逸らしてしまった。

……かなり遠いし、気のせいか。そう思い直して、もう一度、ターを見つめてみた。


最近、別の仕事が多いからか、ターのまわりにはぼくのよく知らない人が多かった。あー、あのかわいい子確かあの部署の新人だったな、とか。あのやたらターにからんでるイケメンは誰だろう、とか。取り止めのないことを考えならが、ターを見ていた。


ぼくたちは同じ職場なのに。ぼくが知らないターの顔が増えていく。付き合いの長さは増すのに、知らないことが増えるって不思議だね。


「誰か、気になる人でもいるんですか?」

急に話しかけられて、びっくりする。横には、確か最近同じ部署に配属になった・・・・・・

「いや、えっと」

「アンです。名前くらい覚えてくださいよ」

笑うと、えくぼができるのか。かわいい子。

「ごめん。ぼく、覚えがわるくて」

「仕事ができるって評判のネオ先輩なのに、覚えがわるいんですか?」

いたずらっぽく笑われて、はははと乾いた笑いで返すしかない。


かわいい子が好き、と公言しているぼく。恋愛対象にはならないけど、かわいいものは好き。

「じっと見てましたけど、誰を見てたんですか?」

「いや。気づいたらさ。知らない子がたくさんいるなって。最近、忙しかったから、直接仕事で一緒になる人しか接点がなくて」

見ていた対象は違うが、考えていたことはウソではない。

「ほんとですか? けっこう、真剣に見ていた気がしますけど」

うわ、けっこうするどい。

「ほんとだよ。なんで? 気になる?」

「はい。気になる人いるのかなあって」

上目遣いがかわいいね。

「うーん? どうかな?」

にっこりと微笑んでおいた。いると答えても構わないが、ぼくの周囲を探られても困る。


「かわさないでくださいよー。この部署、かっこいい先輩が多いって社内で評判なんですからね」

まあ、確かに。ターもオーも、世間的にはかなりイケメンな部類だもんね。

「・・・・・・先輩もですからね?」

「はあ? ぼくはちがうでしょ。お世辞はいいよ」

お世辞じゃないです! といいながら、一生懸命話すアン。かわいいけど、これはもしかすると面倒かも。あまり深入りしない方がよいと、自分の防犯センサーが鳴っている。


と、どんがらがっっしゃん!

近くで大きな音がした。見ると、ターが椅子につまずいたようで、シャツに料理がべっとりとついていた。

「あー。ター、それ、すぐ洗わないとまずいよ」

あいかわらず、そそっかしいな。なんでこんな子供のようなことになるのか。いつものことだと思いながら、ターの手をとって、ずんずんと洗面所に向かった。


洗面所で改めてみると、かなりの汚れ。

「シャツ、脱いで。洗わないとだめだよ。ひとまずぼくのジャケットきてて」

そう言ってぼくは自分のジャケットを脱いだ。


ターは気まずそうにシャツをぬいだ。さっとターの肩にジャケットをかけて、シャツをうばいとる。

「何してるんだか」

ぼくはシャツを洗いながら、つい心の声がもれてしまった。

「いや……ごめんな。なんとなくいやな感じがしたから、急いで会話に入ろうと思ったんだけど…」

ああ。それでぼくの近くにきたのか。

「で、急ぎすぎて前を見てなくて、椅子につまずいた、と」

ああ、というターは完全にしょげていて、それはそれでかわいいな、と思ったのは内緒。


「まったく。気をつけてよ。怪我しなかったからよかったけどさ。汚れは落とせたけど、この濡れたシャツを着るのはさすがに無理。うーん。白Tシャツにジャケットでも、見た感じは大丈夫そうだから、ひとまずそれで過ごしな?」

イケメンはこういうときにいいよね。ちょっとカジュアルではあるが、着こなしとしては問題ない。


ターは自分の姿を鏡で確認して、

「ありがとう。戻ろう?」

ぼくに優しい声を向けた。ちがう、それはターがいうんじゃなくて。


ぼくは、後ろからぎゅっとターを抱きしめて、力を込めた。

「ごめん。ありがとう、をいうのはぼくの方。女の子、かわしきれなくてどうしようかと思ってたから。きてくれて、本当に助かった」

言った途端、腕を解かれて、正面から抱きしめられた。

「間に合ってよかった」

体を離し、笑顔で見つめられて頭をぽんぽんとやさしくたたかれた。大切にされてるってわかるそんな目で見ないで。甘い雰囲気なんて慣れてないから困ってしまう。



ぼくたちは、他人から見てゴマとオーのようには見えないだろう。でも他人からの見え方なんてどうでもいい。このぼくたちの時間はぼくたちだけのもの。二人の距離に間違いがおきないように、ぼくから言葉にするから。ずっとこのままでいて。

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