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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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98 お兄様にご挨拶



「ねえ、響さん。何があったのか教えて。」

ファイはライと響の席を変わって貰って、響に聞きだす。

「…。」

響は下を向いて何も言わない。


「ウヌクがおかしいし。絶対なんかあった。」

「………。」

「ねえ、ファイ。響は疲れてるから追及しないであげてね。」

ムギが心配する。



そこで小さな声で響がファイだけに耳打ちした。

「……あのね。これは何かあったこととは別件なんだけどね…。」

「………?」

「ファクトやムギにも言ってないからね。みんなに言わないでね……。」

「…うん。何?」

「あのね…。……タラゼドさん……。ファイに何か言ってた?」

「………?だから響さんを心配してたって…。」

「……………。」

恥ずかしそうに響はファイを見て、それから目を逸らしたまま話し出した。

「私…。タラゼドさんにお付き合いしてくださいって言っちゃった………。」

「ふーん。がんばったじゃん。」

自分の気持ちを認めてもいなかった響が、認めたのかと安心するファイだが。


「ムヴぁっ?!」

と、咳き込む。


いつもなら伝心で聴こえるファクトだが、この時はライやムギと会話が弾み聞いていなかった。いきなり咳き込むファイに驚き、ライも心配する。

「大丈夫っ?!」

「…大丈夫…。気にしないで……。」

まさか響がそういうことをするとはファイにも予想外であった。相手が動くまで待つタイプだと思っていたのだ。

「響さん暴走したの???」

「違う!ちゃんと考えたの!!勢いもあったけど!」

落ち着いてからまた聞き出す。


「は?響さんから?そんな事ある?」

「言ってしまった…………」

響は手で顔を覆う。

「で、タラゼドは何て?」

「あ、私も返事はすぐにはいいから………みたいな感じで言って………。タラゼドさんは待っててって言ってた。」

「『待ってて』って何?そんな答え方ある??」

「………さあ…。」

響だって知らない。でも待っていようと思う。



「でも………」

他の男性に首と胸上を噛まれたことを思い出す。


これは秘めておくべきことなのか、告白後のことなので言うべきことなのか。しかも、相手はシェダルだ。正直シェダルを怨み切れない……。でも、相手は赤ちゃんでも子供でもなくまぎれもない男性であった。

タラゼドはシェダルの存在を知らない。大房で見てはいるが、少なくともシェダルの位置は知らない。それを説明するには長すぎることも多い。


手を覆ったまま顔を上げなくなってしまった響。

ファイにもっと聞いてみたかったが、ここで話すべきことではなかったと気が付く。まず、自分が普通に話せない。


「ファイ……。何、追求したの……。しないでってムギが言ったの。」

怪訝な顔のファクトにファイは怒る。

「何にもしてないよ!私がどこまで性格悪いと思ってるの??

……響さん、大丈夫?」

「…うん……。」

「響………。」

ムギも切なくなるが、響が大房民に告ったと言ったら大騒ぎするであろう。ファイは黙っておく。


響が落ち着くまでみんな静かに待った。




***




その夜、南海の海鮮料理屋は爽やかさゼロのメンバーであふれていた。


なにせ、(つづみ)をはじめとするVEGA事務局スタッフ。正道教牧師エリスとクリスにファクトの師匠、元寺の坊主の師匠ジュニア。ファクトはいない。


ゼオナス、サルガス、タウ、ベイド、シグマ、シャウラ、アクバル、ライブラやナシュパーなどアーツリーダークラスの男たち。他にもアーツからは数人来ている。加えて、イオニアや河漢のバカ息子の元部下や南海青年男子、河漢側のリーダー。監視でアセンブルス。新規含む各部署ユラス軍人7名、東アジア軍関係者5名。特警5名。


女っ気ゼロ………ではなく、アーツのミューティアとジョア妹メレナ、チコの護衛組ガイシャスと部下1人がいる。美女のはずのガイシャスが、ここまで男に囲まれるとかえって勇猛に見える。チコが加わったらまさに猛者だろうが、チコは残念ながらカウスと共に欠席である。


「ではお疲れ様でーす!カンパーイ!!」

シグマの音頭で食事が始まった。

「刺身マジ上手い。」

ローが、大房で食べる刺身と違い過ぎてビビっている。何せ大人の集会。人数に対して一定額の各部署経費と会員制。質も予算も違う。



暫く食事をし、各テーブルで話を進めていた時であった。


「遅れましたー。」

と、登場したのは、イオニアの実家の会社を継いだ友人家族のタイキとその部下1人。そしてシンシー夫と、響のお兄様であった。

「お兄様ー!!」

酒も飲んでいないのにアーツ勢が盛り上がる。なんと言っても代名詞お兄様である。もうみんなの『お兄様』になっている。


そう。今日は身内に近い人間で、主に河漢警備に関わるメンバーでの懇親会だ。経済組は、たまたまお兄様が支店準備のための出張で来ていたので、ゼオナスが呼んだのだ。

シンシー夫もアンタレスに来ていたため、お兄様が紹介すると「セラミックリーブス」アーツでの通称「セラリ」一族だと大歓迎される。リーオの上のお兄様だ。


すると目ざとい人がサッとお兄様たちと参上する。

「皆さん…、サルガス君…。なぜ私を誘わないのですか。」

ジェイも引っ張って来たロディア父であった。

「あ、すみません。今回は元々は警備関係メインだったので。」

響のお兄様がいなければ、商工会組は呼んでいない。


おじさんがファイブルを初めとする部下数人で挨拶をしながら入って来ると、ヴェネレ人の登場に「あいつら来やがったか」という顔をするメレナ。ゼネコンのザルニアス家とは業種は重ならないのに、なぜか対抗し合っている。


「俺、帰って寝たいんだけど………。」

「ジェイ君。もっと野心を持ってください!」

「ていうか、おじさん。もっと野心のある人構ってあげて。」

おじさんは、わざわざテンションの低いジェイを構うので、非常に迷惑である。


一緒に入って来たタウ父は、初見のセラリやタイキたちと話が盛り上がっていた。

「ふーん。タイキ君はまだお付き合いしている女性もいないのね………」

目ざと過ぎる婚活おじさん。

「ハハ……。ゼオナスがいなくなって仕事に没頭していたらフラれました…。」


言葉の無いゼオナスに婚活おじさんは間髪入れない。

「ゼオナス君とセットでお見合いしちゃう?」

うわっ!と逃げるゼオナスと、忙しくてぬくもりに飢えていた「え?いいの?」という顔のタイキ。おじさんの恐ろしさを知らないのである。野心バリバリのヴェネレ人と結婚させられたら、もっと忙しくなるであろう。




そこでサルガスがいったん場を仕切る。

「えー。現在ここにいる組織の構成、一覧を再度ご確認ください。」

デバイスに今回の懇親会の参加陣とその位置関係など送られる。今度のイベントの現在確定の資料も送られた。


その後、VEGAの(つづみ)が話し出した。

「皆様、ここでおめでたいご報告があります。」

全員が注目する。



「ウチの現在休業中の総務サラサが先週出産しましたー!」


「おおおおおおーーーーーー!!!!!」

「元気な男の子です!。おめでとうございます!!!!」

盛大な拍手を受け、アセンブルスがみんなからなぜか叩きまくられる。

「アセンブルスさん、こんなところにいていいんですか?」

「サラサに仕事に出るように言われて。」


「…………そして…。こちら、東雲(とううん)氏、ハウメア夫妻も少し前にご出産しましたー!!」

シグマが発表する。東雲は師匠ジュニアである。

「おおおおーーーーーー!!!!!!」

こちらも大歓声である。ハウメアはなんだかんだ言って、臨月まで各種トレーニングをしていたらしい。もういつ生まれても大丈夫と言われてから、好き勝手運動をして、おかげで子供が降りて来て、するっと生まれたそうな。普通の人は真似してはいけない。

「男の子。」

とシグマが言うと、男率高くない?と騒めく。アーツ関連は蛍のところ以外全員男児である。




「うわっ。何この男クセーの。絶対に入りたくない。」

と言いながらこっそり懇親会に加わったのは怪我人ウヌク。


何となく分野に分かれて話をしているが、そこに仕事が終わったタラゼドもやって来た。

宴会場状態の入り口でウヌクとがち合う。

「…………」

「………。」

会話もないのでお互い無言だが、ウヌクは少し考えて一言言っておく。

「………悪いが響さんの首と胸元を押さえさせてもらった。」

「…は?」

何の話か分からないタラゼドはウヌクを睨む。

「止血だ。止血。あん時は必死だったから変なことは考えていなかった。安心しろ。

俺も腕とアバラ、いったわ。」

「………?…響さんも怪我をしたのか?」

ウヌクも腕にギブスをしていて、片方の手で首を指さした。

「…?…首??」

「2か所出血。静脈があぶなかったけど切れたのは細かい血管だけだったみたいだから。もう怪我は大丈夫らしい。怪我はね。」

「!」

タラゼドは出て行こうとするが、ウヌクが止める。


「今、ファイといるみたいだし、もう怪我は大丈夫だから今日はやめとけ。」

多分心の整理がいるだろう。

「………。」

しょうがなくタラゼドは知っている顔に挨拶だけして帰ろうかと思ったが、響のお兄様もいるのに気が付いた。



ゼオナスやタイキ、響お兄様など商工会組で話していたところに近付くと、そこにイオニアもいる。イオニアはタラゼドが来ると黙り込んだ。こいつとは話したくないのである。

「お兄様、こんばんはっす。」

「……あ、タラゼド君。悪いけど君に『お兄様』と言われたくない………。なぜか君だけには言われたくない。」

ちなみにゼオナスやタラゼドたち一部男子は、一度お兄様と飲んだ仲である。アーツは全員お兄様と呼んでいるのに理不尽であるが、ある意味冴えている。さすが蛍惑の血。霊性で何かを悟っているのだろう。


「『お兄様』お話があるんですが。席を移すか店を変えて、飲み直しませんか?」

「絶対いやだ!」

普段話さないタラゼドから声を掛けて来るなんて、何か嫌な予感がして断固断るお兄様であった。



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